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王宮に華は咲く


 ひと月という時間はあっという間に過ぎ、創国蔡の日がやってきた。


 シャラン──と涼やかな音色が黒髪に挿した簪からこぼれる。神楽が居るのは煌びやかな装飾品に囲れた豪奢な部屋だ。


 ここはシシル国の王宮のとある一室。クルト公爵の手配によって神楽に用意された部屋だ。


 トントンとドアがノックされた。


「……カグラ、支度出来たか?」

「勿論だよ。カムロ」


 ガチャと扉を開けてカムロが部屋の中に入って来るのを神楽は笑顔で迎えた。


「…………」


 カムロは神楽を見た瞬間、身体が硬直したかのように固まっている。だが無理もないだろう。


 ヒラヒラと幾枚の衣が流れる様に足元まで垂れ下がっている。衣装に施されている細やかで繊細な刺繍は、上品な風合いを醸し出している。


 髪は高く結い上げられ、一部の髪を下ろしている。その髪に飾られた簪は水が流れているかのような軽やかな音を奏でる。


 美しく化粧を施した顔の額には、朱色の花鈿かでんが描かれている。


(………美しい、な)

「……カムロ?」


 無言のまま突っ立っているカムロに訝しげに声を掛ける神楽にカムロはハッと正気を取り戻した。


 うっかり見惚れていたのが照れくさかったのか無言のままそっぽを向いてしまった……。神楽は首を傾げつつもカムロの態度を気にしていないのだが………もしかして、と申し訳ないなさそうに顔を曇らせる。


「何だか、ごめんね。カムロ。こんな面倒事に巻き込んじゃって………やっぱり怒ってるよね」

「!?…………いや、怒ってはいない。気にするな」


 どうやら自分の態度が神楽を勘違いさせたらしいと少々バツの悪い気持ちになったが、気を取り直して椅子に腰掛けている神楽に手を差し伸べる。


「出番だ、神楽………出よう」


 差しのばされた右手に自分の手を重ねた。


「そうだね。行こう、カムロ!」


 神楽は身体をスッポリと包むほどの薄衣を頭から被り、カムロに手を引かれながら会場である広間に向かった。


 カムロは演舞の演奏をしてもらう為に王宮の創国蔡に出てくれとアーリアと神楽に頼まれてここにいる。本当ならばフレイ楽団全員で来たかったのだが…………隣国アバンギャルドが、この創国蔡に訪れているため残りの楽団はクルト公爵の王都にある邸で待機してもらうことになった。


 去年の春にシシル国を攻めて来た為シシル国のアバンギャルドの使者に対する心情はかなり悪い。しかし、いくら一方的に攻めてきたとはいえ大国であり他の国と国交がある国には違いないので招待されたのだ。


 そしてこの創国蔡にアバンギャルドの使者が来ることには大きな意味を持つ。それはアバンギャルド国はシシル国に敵意はない、つまりは停戦の意識があるという意思表示を言外で示しているのだ。


 だからといってフレイ楽団は国に所属していない流れての楽士集団。本来ならあり得ないがちょっかいを掛けてくる可能性がある。そのため他の団員は安全なクルト公爵の邸で保護されているのだ。


(でも、アバンギャルドでの一件を知っているなら尚更私を引っ張り出すのはマズいでしょ、神経を逆撫でするかも知れないし。それもこれもクルト様の宴に来ていたあの馬鹿貴族のせいだ!恨んでやる!!)


 握った手に力が入ってしまう。


「カグラ?」


 カムロの訝しげな声に思考の海に沈みかかっていた神楽は何でもない、とカムロに返す。


(しっかりしろ私。これから広間に出るんだ、こんな心待ちでは美しく舞えないでしょ!)


 自分を叱咤しながら目の前まできた広間に入る扉の前でカムロと共にいったん止まる。


「………」

「………」


 扉の内側から次の演目が言われ、進行役が神楽達の入場を告げた。


 キィイイ


 扉が開き、中から絢爛たる光が溢れる。


 カムロのエスコートのもと、神楽は広間の中に一歩、踏み込んだ。











  さぁ 仕事の時間だ 今宵の宴に華を飾ろう












 ついに始まりました創国蔡!


 神楽もカムロも何事もなく終えたいところでしょうが、そうは問屋がおろさない!!


 次回、歓声は災難の前触れ


 乞うご期待!!!(*ゝω・*)ノ

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