其は天上の舞姫 3
ついに登場、ヒーロー君?
絹のような艶やかなに流れる黒髪
夜空を閉じ込めたかのような瞳は黒曜石
誰もが魅せられる気品あるその姿
麗しき華の顔 強き眼差し
蝶のように軽やかに優雅に踊るその様は
天よりもたらされる祝福なり
「くだらんな、たかが流れの舞師だろうに。なにを騒ぐ必要があるというのだ」
パサッと机の上に書類を投げ捨てる。男は冷めた瞳で先ほどから居座っている邪魔者を見やるが、視線を向けられているその人は優美に紅茶を傾けながらくつろいでいる。
「君はたかがというけれど『天上の舞姫』は各隣国ではすごい人気だよ。なにしろ我がシシル国の宿敵であるアバンギャルドの第三王子を振って所属している楽団と共に逃げた話はかなり有名だしね」
4年前に現れた舞師は瞬く間に隣国アバンギャルドに広まり、お忍びで来ていた第三王子が一目惚れして彼の舞姫を召し上げようとして見事逃げられた。
「アバンギャルドは古くから続く大国だけれども無闇やたらに戦争ばっか仕掛けてくるものだからシシル国も含めて色んな国に嫌われている。その国の王子を振って見事逃げ切った舞姫を僕は尊敬するよ」
不機嫌な顔をしている男の名はアンドラーシュ・グランヴェル。グランヴェル侯爵家当主であり、王宮騎士第二団にて第二騎士長を務めている若干21な若き俊英である。
彼は蒼い光彩を放つ銀髪を一つに束ね、紫水晶の瞳で招かれざる客を睨みつけた。
「見方を変えれば身分を蔑ろにする無礼者ということだろう。そんな女が何故各国を股に掛けて讃えられるのか理解に苦しむ」
招かれざる客───コリネリウス・ロヴィーノは王宮近衛団の近衛隊長を務める、アンドラーシュの2つ上の先輩だ。所属部署こそ違えどロヴィーノ公爵とグランヴェル侯爵は親戚関係にある故、2人の仲は決して悪くはない。
コリネリウスはシシル国で2家しかない栄えある公爵当主でもあった。
「噂によるとアバンギャルドの第三王子殿は舞姫を召し上げる為に彼女の所属している楽団や滞在していた街などに多大な迷惑を掛けたらしいよ?それに怒った舞姫が『王族としての矜持はないのか!』て公衆の全面で第三王子を諫めたんだってさ」
楽しげに自身の癖毛をクルクルと弄るコリネリウスはアンドラーシュに言った。
「君のいう『たかが流れの舞師』が一国の王子に対して諫言を言うのはどれほどの勇気が必要だったんだろうね。そしてその様を街の領主と領民は感動すらしていたって話だから………彼の王子は一体何をしたのやら」
ねぇ、ラーシュと自分の愛称で呼んでくるコリネリウスの瞳にアンドラーシュが見たのは果てしない怒りだった。
「去年の春にアバンギャルドが攻めてきた。とるに足らない、くだらない理由で。……勝利こそしたが、その戦で君と僕の父達が亡くなった………そして僕達は家督を継いだ」
しかし理解出来る怒りだった。何故ならその怒りはアンドラーシュの中にも今尚、燃え続けているのだから。
「僕は楽しみだよ、ラーシュ。今回の創国蔡に舞姫は訪れる。最高に愉快だよ」
「………」
アバンギャルドの王子を袖にした舞姫が、不当に攻めておきながら勝つことの出来なかった国の創国を祝う舞を、各国の要人の集う王宮で舞う。
「……確かに、愉快だな」
この時、アンドラーシュはひと月後の創国蔡に訪れる舞姫を歓迎するかのように微笑んだ。
その微笑みを見たコリネリウスが飲んでいた紅茶を吹き出し。そして吹き出した紅茶がアンドラーシュの書類に掛かり……………コリネリウスは激怒したアンドラーシュに部屋から蹴り出されるのであった。
え~、次は創立蔡まで一気に飛びます。
可憐なる神楽にご期待ください。
次回、王宮に華は咲く
それでは、また、お逢いしましょう。




