転生者だったあいつと歳を取った俺等
このお話だけでもお楽しみ頂けますが、この短編は『転生者な幼馴染みと大人になった俺』の後の話になっています。良かったらそちらからご覧下さい。
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また、このお話自体はあまり学園要素がありませんが、上記作品にあわせてジャルンルを学園に設定しています。
死んだ幼馴染みが大人になった俺宛に送ってきたものは、アイツが撮った俺の写真のアルバム。それと大人になった俺へ宛てた手紙だった。手紙には自分が転生者で未来を覗く事ができるだなんていう、非現実的な告白が書かれていた。
アルバムを見終えた後片付けようとして俺はそれに気が付いた。
ー同窓会のお知らせー
その日はあいつの十回目の命日だった。
久しぶりにあった恩師は若いのにあった白髪がさらに増えて貫禄が出ていたが、どっしり構えた風格とその気のよさそうな顔は変わっていなかった。
「お前誰だ?……いや……まさか?」
「お久しぶりです、高松先生。真鍋西都です」
あの頃の俺はどうしようもない不良で、その風貌からつけられたあだ名である『ゴリラ教師』から『ゴリラ』とか『先公』としか呼んだ事が無かったから少し気恥ずかしかった。
俺達は会場の隅にあるバーのカウンターに2人で座っていた。
俺と仲が良かったのは誠だけだったから、他のクラスメイトの顔も名前もほとんど覚えていない。向こうも俺が誰か分かっていないようで誰も話かけては来ない。幾人かの女達がこちらを見ながら、小声で何やら話をしている様だが、まあどうでもいい。話をどう切り出せば良いのか分からなくて気まずい俺は、注文したジュースの様な味のする酒の中で、光る氷の様な何かを珍しいと思いつつ眺めているしか出来なかった。
「信じられないな。一番手のかかるバカだったお前が、今じゃ一番いいとこではたらいている高給取りだなんて。しかも、高松先生?あと何だその敬語、違和感ありすぎる」
久しぶりにあったのだから大人の対応をしただけだと言うのに。
「うるせぇ……これでいいんだろ?」
昔の様に軽く睨みつけると、何が面白いのかクツクツとのどをならして笑っていた。ふと表情を消して俺の目を見つめる。がすぐにそれも崩れた。
「あれを送って来たのは、先生か?」
口調を元に戻してもさすがにもう『ゴリラ』と呼ぶ気にはなれなかった。今まで連絡を取らなかった事を後悔する位先生にはアイツが死んだ後世話になった。写真を学びに専門学校に行きたいと行った俺を唯一応援し、わざわざ放課後残ってまで、学校に行っていなかった間の勉強の穴を埋めるべく面倒をみてくれていたのだ。
「……あぁ。手紙ともう一つは一体何だったんだ?」
「アルバムだった」
「アルバムか……あいつらしいな」
「そうだな」
アイツは……誠は写真が好きだった。いや、写真を撮る事が好きなやつだった。
「まさか生徒に先立たれるなんてな……あの時は思ってなかった」
俺も若かった。先生はそう呟いて残りの酒を煽った。
「……これ」
俺は鞄から取り出したそれを先生に差し出す。
「まさかそれあいつの手紙とアルバムか?」
「あぁ」
「……いいのか?」
俺は無言で頷いた。
「有り難うございました。これを送ってくれて」
「本当に送っただけだけどな、丁寧に送料付けてあったから。送る直前になってアルバムの下に送料が入ってる封筒を見つけた時は思わず笑ったわ」
まめなアイツらしい気遣いだ。
「……お前にこんな事を言っていいのか分からないが……納得した」
先生は酒も、それが入っていた名残の泡すら無くなったグラスを、店員が回収しやすい様にと端へ避ける。
「斉藤は自分が死ぬ事を知っていたんじゃないかと思うことがあった。今思い返してみるとな」
「……」
けれど、当時は誰もそれに気が付く事が出来なかった。
「お前に届いたあれな、お前が欠席したタイムカプセルの行事で斉藤が埋めた物なんだよ。皆で十年後の自分に贈り物をしましょうって事でな。で、掘り出す時本人が居ないから俺が出して斉藤のを遺品として斉藤の両親に渡す事になっていた。けど、中に入っていたのはお前宛の手紙と奇麗に包装に包まれた何かで、しかも丁寧に宛先の住所まで書いてあった。誰も知らなかった『今の』お前の住所だ。それを見て斉藤の両親に電話を入れて、『あの子がそれを望んでいたのなら、そうして上げて下さい。私たちはもう、あの子とのお別れはすみましたから』って言われて俺が送ったんだよ。後な……その最後の写真、俺が撮ったんだよ」
「え?」
ーなあ斉藤。
ーどうしたんですか?高松先生。
ーお前は自分が撮るばかりで自分を撮る事はないよな。
ー自分撮って浸るようなナルシストじゃ無いですよ、俺。
ーそう言う意味で言った訳じゃないんだが。
ーふふ……。わかってます。それじゃあ先生、お願いがあるんですけど。
ーおう。
ー俺とサイトを撮ってくれませんか?
ーえ!?あっ、いや俺カメラは……。
ーこれを構えてここから俺たちに向かってシャッターを押すだけで良いですから。
ー最初で最後の俺の我が儘。聞いてくれませんか?
「そう……だったんですか」
「そのアルバム、お前ばっかでお前に対する斉藤の愛情があふれてるよな」
からかう様に笑いながら先生は言う。
「ええ、愛されてたんでしょうね」
俺は大人になって身につけた敬語と貼付けた笑顔でそれをいなす。
「……可愛げがなくなったな」
「成長したと言って下さい」
周りが夕暮れに染まってきて、何となく周りがざわざわとしだした。どうも小さな子供が居るらしい元クラスメイト達が帰り始め、独身の奴らは場所を変えて二次会を始めようと言い出したらしい。
合コンを狙ったそれに血気盛んな女達が俺を誘おうとこちらを向いていたが、無視して先生に話しを切り出した。
「先生……これから一緒に墓参り行かないか?」
比較的近くに居た奴らには聞こえたのか、その女達は止められた様だ。そしてやっと何人かはその言葉で俺が誰か分かったらしい。目を見開いてこちらを見ているのが横の鏡から映って見える。
「良いのか?」
「やっと……誠の墓の前で笑って『前に行く』って報告できると思うんで」
「……西都、生徒の成長祝いに特別に一杯だけおごってやる。他の奴は一回目の同窓会の時におごったからな」
「……もう酒飲むなって言われる事も無いんだな」
「お前も大人になっちまったからな……どうりで俺の白髪が増える訳だ」
先生のおごりで飲んだ酒の味は、不良の頃粋がって飲んでいたそれと変わらず苦かった。心の底からそれを美味しいと思える様になったのは大人になった証拠で、俺の中で変わる事の無いお前を置いて歳をとったという事なのだろう。
ミヤゲ
ーそういえば斉藤にも一杯おごらないとな。
ーさっき俺が飲んでたのだったら、缶もあったはず。
ー何言ってるんだ西都。転生してても十歳だからお子様はジュースに決まってるだろ?
ー……それもそうですね。とりあえず花もいるし、スーパーでも行くか。日が暮れて店が閉まらねえうちに。
当短編は活動報告に載せていたものを、加筆・修正したものです。
アルファポリス様の青春小説大賞に参加している作品のアクセスアップを願って書きました。
良かったらこちらも覗いて下さい。
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そのうち十歳になった誠サイドの話を投稿するかもしれません。ただ作風が全く違いますが。現段階でシリアス抜きの王道ファンタジーです。