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序章【3】

「お姉さま」

「何?」

「───勇者どもがこの城へ来るとは本当ですか?」

「ええ。菊花も言っていたでしょう?この世界の恒例行事のようなものよ」

「恒例行事」

「そう。あなたも知っている通りに、私たちが住む世界には幾つもの鏡面世界があるわ。その世界一つ一つを伯爵以上の地位があるお人が支配している。白檀様はここの支配者。世界の『王』よ」

「世界の・・・王」

「白檀様が望めば天候も自然も全てが従う。滅べと願えば世界が消える。私たち『魔族』は力を持たぬ人間とは違う。その長命さと人知を超えた力は『天使族』と同じものだけれど、人間へ力を貸す『天使族』とも違う。ここは私たち魔族が支配する世界。その中のトップは白檀様。だから彼は魔の中の王、『魔王』と呼ばれる」

「それでは勇者とはこの世界では何の役割を果たすのです?異界の御伽噺のように白檀様を打ち倒しに来るのですか?」



首を傾げた香の、至極真面目な問いかけに噴出した。まさか、そんなのありえない。

確かに、勇者の一族は破魔と呼ばれる特別な力を持っている。

己の魂の存在と引き換えに、ただ一度だけ魔王に対抗する力を。

それを与えたのは私たちの世界に存在する神で、一方的な支配に対する勢力として与えたのだと聞いていた。

だが。



「この世界の勇者の主な役割は交渉よ。白檀様に対して力を行使することはないわ」

「交渉ですか?」

「ええ。───この世界に長く居座らずに、なるべく早くあるべき世界へ帰れと。私たちからすれば瞬きするような時間でも人にしてみれば随分と永い。圧倒的な力を持つ『魔族』がこの地に滞在する時間が長ければ長いほどこの地の受ける影響は大きいわ。事実、この地に住みつづけて二十年。白檀様のお好みでこの地は常に夜と同じ闇に包まれているけど、その間に死滅した動植物は数知れない。彼らからすれば私たちの存在は害悪のようね。まぁ私たちがこちらに来る都度、世界に出来た歪から下級の魔物が現れるくらいなのだし、そう感じるのも仕方が無いけれど」

「ですが白檀様がお治めにならなければこの世界の歪はもっと大きなものとなりましょう」

「人はそれを知らないわ。知る必要も無いことよ。それに長居をすれば忌々しい天使たちがこの地に姿を表すわ。無駄な接触はお互いに避けたいものよ」



盲目の少女の頭に手を乗せる。短いけれど柔らかい感触のそれに唇を緩ませた。

心地よさ気に目を細める仕草はまるで上品な猫のよう。

安心しきって甘えてくる香の耳を指先だけで擽ると、うっとりとしている彼女に忠告する。



「いいこと、香。彼らは『人間』。私たちとは種族が違うわ。想いの表し方も、感情の起伏も、恐怖する対象も愛情の示し方も。人とは儚く泡沫の存在。気を許してはいけないわ」




───勇者が『魔王』の存在を脅かす最初で最後の駒なのは、何処の世界でも同じなのだから


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