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三日目【10】

今回は長々と説明が続いています。

いつも以上に会話が少ないですが、どうぞお付き合いくださいませ。

ハークとアークの二人が居るだけで昼食の席は随分と和やかに済んだ。

おかげで梅香の機嫌もいい。

彼からしたら凡そ予定通りの行動なのだろう。


勇者を人間代表と呼ぶなら、王族は国代表と呼べる。

勇者を観察し人間を判断し、王族を観察し国を判断する。

勿論それ以外の部分からもこの二十年で色々と白檀様は観察されているのだが、人間と話すのも国の代表者と話すのも滞在時には一度だけだ。

先ほど、勇者一行に説明した各国の王族が集まる食事会は、国の代表を見て白檀様が各国に与える力の配分を決める場だった。


この世界は『悪魔』と『天使』が交互に力を送り平定する世界だ。

『人間』を愛でる天使は自分が『守護』する世界を見守ろうと、私達魔族が居ない間の『世界』に居座る。

そうして自分たちが持つ『光の力』を存分に与え、この世界を保っていた。

しかし光があれば対になる闇も必要になる。

配分が上手く均整が取れない限り世界は歪みやがて崩れる。

その歪みを直すために一時的に自分たちの世界に戻った天使に代わり、現れるのが『魔王』と呼ばれる悪魔だ。


『天使』と違い、『悪魔』は人間と寄り添う気はない。

たった一度の会合で全てを決めるなと『天使族』なら言うだろうが、今現在はこの地は魔族が支配する世界。そして現在の世界の『王』は白檀様一人なので文句も言えない。


魔王が扱うのは『闇の力』。

私たちより長期に渡り滞在する天使とは違い、白檀様は短期集中で力を与える。

鮮烈な光で影を消すのではなく、安息の闇で包み込むのが役目だが、私はその力をどのように使うかもわからない。


そもそも世界の維持をどのようにするか、魔王の位を持つ悪魔以外は理解しようがないと以前白檀様が仰っていた。

世界の平定に使う闇の力も悪魔が本来持っている力とは少し異質なものらしい。

そして世界を平定するこの仕組みを作ったのは、私達『悪魔』と敵対する『天使』が共通で『神』と崇める存在だが、長命な私たちからしても遙か昔からの慣わしなのでその理由は判らない。

『神』の存在が疑われないのは『悪魔』と『天使』に与えられる力を証拠としているからで、その力も魔王の称号を頂くときに得るものだ。

そして本来ならここまで深い知識を得る立場じゃない私がそれを知っているのは、私が魔王側近の立場を得ている悪魔だからで、その程度の価値しかない私には『神』の存在は生涯縁がないだろう。


しかし詳しい原理が判らなくとも、私がすべきことは理解している。

魔王の側近である私は、白檀様が世界に対してどう動くかを判断する手助けをすればいい。

国の均衡や勇者の存在がどれだけ重要なものか知れないが、白檀様がそれを必要としているのだけを判って居ればいいのだ。

白檀様が後々が面倒だから勇者とその一行を手に掛けるな、と命じられればそれに従う。

勇者以外に価値がなくとも、基本は許可が下りない限りは命は奪わない。

それもこれも今のところはと注釈がつくが。



ちなみに軽く説明を終えた頃には、勇者一行はすっかりと警戒を解いた様子でハークとアークと会話していたし、私へも笑顔を向けてきた。

こんなことのために双子を拾ったのではないが、白檀様の役に立つなら彼らに協力してもらうのもいい。


ハークとアークの生存に浮き立つ彼らに、折角だから話をしてきてはどうかと梅香が差し水を向ければ、彼らは一・二もなく頷いた。

席を外すと告げた梅香の言葉に喜んだ彼らは、そのまま食事を摂った部屋に残っている。


ちなみに席は外しても梅香の監視は外れない。

一応ハークとアークに後で状況を説明するように伝えてあるが、彼らを信用していない梅香の行動は当然とも言える。

勿論私も意識の欠片は彼らの元に残したままで、双子を中心に盛り上がる人間達の様子は絶えず脳裏に流れていた。


しかしながら私の仕事はそれとは別にあるので、平行して勇者を伴い白檀様の執務室へ向かっている。

勇者との対談も白檀様の務めの一つなので、その案内の最中だった。



「なぁ、伽羅」

「何?」

「これから昨日みたいに俺は魔王と話をするのか?」

「ええ、そうよ」

「あんたも同席しろ」

「・・・私も?」



唐突な言葉につい顔を上げてしまう。

蒼い瞳でこちらを見ていたフレドリックは、こくりと頷くと話を続けた。



「そう。二人きりだと気詰まりだろ?あんたが居れば少しは話しがしやすくなる」



彼は一体私を何だと思っているのだろうか。

私は彼とは違う存在だ。『人間』ではなく『悪魔』だ。

それなのに、その私の前で何を馬鹿なことを言っているのだろう。

こういう部分は昔の『勇者』と変わらない気がして、肩を竦めてため息を落とす。



「魔王様に伺わないと私では判断できないわ」

「なら考えてくれるか?」

「私の意志は関係ないわ。魔王様の意思に従うだけだもの」

「・・・・・・」



実際白檀様が同席しろというなら異論はない。

フレドリック以外にも、過去に私の同席を求めた『勇者』は存在したし、経験がないわけじゃない。

白檀様は『勇者』との会話も自分の力を振るうための基準に取り入れている。

私からすれば『勇者』との会話のどの部分に重要な要素が入っているか全く判らないが、それでもそういうものらしい。



「なら、魔王が『是』と答えれば伽羅には異論がないということだな」

「その通りよ」



私の返答に頷いたフレドリックは、やや早足になる。

どうやら白檀様を説得する気らしい。

そんなに気合を入れなくとも、白檀様の性格からして『否』と答えるのはまずないだろう。

私を交えると『勇者』の雰囲気が変わるということで、私を交えての対談と、私を交えない対談をするのは恒例になっている。


しかしそれにしても勇者とはつくづく変わっている。

私達の存在の意味を知らぬ『人間』からすれば、勇者の使命は闇の恐怖を広める魔王を含めた私達をなるべく早く異世界へと戻すことのはずだ。

別に恐怖を広めに来たわけではないが、彼らは固く信じているし、人間は闇雲に魔族を恐れる。

それなのにその交渉をしている様子はなく、むしろ好奇心のままに動いている。

どうせフレドリックが急かしても、白檀様の決めた期間はきっちりとこちらの世界に在住するのだから彼らの意思など関係ないが、それでも普通は早く帰って欲しいと望むものじゃないのだろうか。


魔王が異世界にいる期間は、基本的に勇者が現れてから決められる。

現れると言うのは生まれるという意味ではなく、勇者が勇者の役目を人間の国で正式に背負ってから、という意味だ。

この世界に滞在する二十年近くは勇者が生まれて育つのを待っているに過ぎない。


今までの勇者の滞在期間はは大体三日から、長くても五日が普通だった。

それが今回は異例の一週間。

勇者が国を出立する前に滞在期間を相手に通達するのが通例だが、今までの勇者とは違っても、過去の『手記』を確認するならそれが今までで最大のものとフレドリックは判っているはずだ。

それでも望まれない魔族が長期滞在しているのに、彼の顔に不安は見受けられない。



「変わってるわ」



呟けば、早足になったため、僅かに先を歩いていた彼は態々振り返って首を傾げた。

フレドリックが『勇者』である限り好意は抱きようがないが、不思議な生き物だとは思う。


その瞳に浮かぶ疑問を無視すると、白檀様へと伝心を繋げた。

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