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二日目【7】

誰かを堕とすのに時間は関係ない。場合により臨機応変に使い分ける。ようは心の隙間さえ作ればいいのだ。

僅かに油断し出来た亀裂から心の奥深くへ入り込みその人の核を掴み取ればいい。

人の核は魂と呼ばれるそれだ。把握するには心の内に入り込み掌握すればいいだけで、握った手綱を放さなければそれで簡単に堕ちる。

目の前の彼らの隙を呼んだのは、大げさなまでの壮麗な演出。いかにも人が好みそうな美しい光景に惑い油断した瞬間に、魂を把握すればいい。

そう、それだけでいいはずだった。


『菊花』

『何ですか?』

『弾いたわね?』

『ええ』


全てを掌握しようとしたものの、相手が人間だとどこかで油断していたのだろう。

後僅かで掌握しきるという瞬間、魂の底に触れようとした私の力は悉く跳ね飛ばされた。良く知った力によって。

薄い膜状の力は私の力が発動する瞬間までその気配すら感じさせなかった。それなのに、今は全てを反射し近づけない。

その力は、紛れもなく菊花のものだった。

菊花は私の力が通用しないわけではないが、私の力を弾くことは出来る。予めトラップのように保険として仕掛けておいたのだろう。

それが何時成されたのかは知らないが、私にすら感知させない力の強さは相変わらず憎たらしい。


伝心を繋げて問うた質問の返事は、欠片も迷いなく判り易いもの。端的な答えだけに心の内が読み辛く、苛立ちが高まる。

目の前の人間達はハークとアークを除き床に倒れ伏していた。自我を保てない状態まで持っていったのを無理やりに弾き返したのだ。それ相応のダメージはあるのだろう。

倒れ伏す勇者一行を前に哂うだけの梅香と、未だに頭を下げたままの残りの人間二人組み。

誰一人動こうとしない状態で、私は伝心を続ける。


『どうして邪魔をしたの?もう少しで把握しきれたのに』

『どうして?どうしてと、貴女が問うのですか?随分と貴女らしくない失策だ』

『───どういう意味?』

『白檀様の御言葉を忘れたのですか?奴隷志望の輩は作るなと、』

『ええ、仰っていらしたわ。私が忘れると思ったの?』

『それなら』

『奴隷志望・・の輩を作るつもりはなかったわ。完全な傀儡・・にする予定だったもの』

『伽羅』

『全てを把握し忘れさせる予定だったわ。私への想いを深層心理の奥に隠し、いざという時に白檀様の盾になってもらう手筈だったもの。いくら勇者といえども仲間を斬るには躊躇は生まれるでしょう』

『それは約束・・に反します』

『どうして?私は別に操る訳じゃないわ。彼らにお願いするだけよ』

『貴女のお願いにどれ程威力があるか、何もかも判ってらっしゃるでしょう?』


私を諭そうとしているのか、淡々と訴える菊花に段々と気分が落ちてきた。

デメリットがないから使おうとしたが、菊花の説教が長々と続くなら、これは彼らを利用する上でのデメリットに違いない。

意識が戻らぬまま倒れている力なき人間に目をやれば、一分ほど経ってもそのままぴくりとも動かない。

魂の力に寄り衝撃は変わるはずだが、どうやら彼らはただ人よりも少し上程度らしい。体は鍛えれても魂を鍛える人間は少ない。人としてなら上等の部類なのだろう。

それでも力不足は否めず、何故彼らが選ばれたのか首を傾げるが、その疑問は当分は解決しそうになかった。

取り合えず言えるのは、彼らを傀儡・・にするメリットは急速に魅力を失った。

どちらにせよ、いざという時は私や梅香、菊花も居る。保険を掛けようと思ったが、この場に居る彼らから判断するに、実力差は明らかだ。


唯一つ、悔いが残るとすれば、力を使い切れなかった一点のみ。

白檀様がこの場にられなくて良かったと心から思うが、あの方が見ていなくとも、失敗は恥でしかない。

きりりと唇を噛み締めれば、態々菊花が伝心を使ってため息を聞かせた。

それに尚屈辱感を煽られ、実力不足を痛感する。もっと、力が欲しい。自分より上の菊花の術を上書きは出来なくとも、破壊できる術が欲しい。

その為にも力を強めるための修行をせねばと心に誓っていると。


『おーい、伽羅』

『何?』

『苛立つのは判るけどさ、この惨状は早く片付けた方がいい』

『・・・?』

『はぁ、本当に君らしくないな。気付かないのか?君の勇者君が、こちらに向かっているのを』

『っ』


言いたいことは色々とあるが、あまりの不覚に恥辱を感じる。冷水を浴びせられたように頭が冷えた。

この地に存在する魔族であれば誰でも判るはずの勇者の気配を見落とすなど、本当に油断しすぎている。


『浮つくのは判るが、いい加減に地に足をつけろ。こちらの世界に居るたびに不安定になるのは君の悪い癖だ。驕りは油断を誘うものだ。度が過ぎるなら、僕が白檀様に報告する』


厳しく聞こえる言葉だが、全て反論出来ぬ事実であるが故益々唇を噛み締めた。

白檀様の為にならないと判断したら、梅香は迷いなく私の失態を報告するだろう。

今回の失敗も、白檀様の側近であるなら油断しすぎであり、職務怠慢だと罵られても仕方ない。

例えそれが、梅香の狙い・・・・・だったと今更気付いても、全てが遅すぎる。

普段ならもっと早く気づき対応していたろうに、浮ついてると指摘されても仕方ない。


『菊花は黙認するだろうが、生憎僕は甘くない。己の誇りにかけ、醜態を晒さないように気をつけるんだな』

『・・・わかったわ』


それでも一度は目を瞑ってくれるらしい幼馴染に感謝をし、成体から小悪魔へと姿を戻した。

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