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異世界むなしばなし

やれやれ太郎

掲載日:2026/10/16

むかしむかし、あるところに、やれやれ太郎という若者がおりました。


太郎は平凡な男でしたが、女神さまに賢者チートをもらったので物知りになりました。


魔物の種類も、魔法の仕組みも、世界の歴史も、何でも知りました。


そのうえ、剣も魔法も得意になりました。


一人で大きな魔物を倒したり、誰も見つけられなかった宝物を探し出したりするようになりました。



◇ ◇




そんな太郎の口癖の話です。


『やれやれ。そんなことも知らないのかい?』


太郎は、何かにつけてこの言葉を口にしました。


ある日、村の若者が魔物について質問しました。


「太郎さん。この森には、どんな魔物がいるんですか?」


『やれやれ。そんなことも知らないのかい?』


太郎は、大きなため息をつきました。


『この森には三種類の魔物がいるんだ。

そんなことは子供でも知っているよ』


「そうなんですね。ありがとうございます」


『まったく。少しは勉強したらどうなんだい?』


若者は、嫌な気持ちになりました。


またある日、商人が太郎に道をたずねました。


「すみません。隣町へ行くには、どの道を通ればいいのでしょう?」


『やれやれ。そんなことも知らないのかい?』


太郎は、またため息をつきました。


『北の街道を通ればいいんだよ。地図を見ればわかるだろう?』


「ありがとうございます」


『まったく。これだから無知な人間は困るんだ』


商人も、嫌な気持ちになりました。


太郎の言うことは、たいてい正しいものでした。


しかし、正しいことを教えてもらっても、馬鹿にされて嬉しい人はいません。


こうして太郎は、少しずつ町の人々から嫌われるようになりました。


◇ ◇ ◇


さて、太郎は冒険者として働いていました。


魔物討伐の仕事では、たいそう優秀でした。


普通の冒険者が十人がかりで倒す魔物も、太郎なら一人で倒せました。


貴重な薬草を探す仕事も得意でした。


古代の遺跡から宝物を持ち帰る仕事も得意でした。


太郎は、いつも立派な成果を上げていました。


『やれやれ。こんな仕事、僕一人で十分なのに』


太郎は得意そうに言いました。


ところが、ほかの冒険者と一緒に働くことになると、困ったことが起こりました。


「太郎さん。今回の作戦について相談したいんですが」


『やれやれ。そんなことも自分で考えられないのかい?』


「いえ、みんなで役割を決めたいんです」


『僕なら一人で倒せるよ』


「でも、今回は町の人たちの避難も必要ですから」


『やれやれ。面倒くさいなぁ』


太郎は、仲間の話を聞こうとしませんでした。


仲間が意見を出しても、すぐに馬鹿にしました。


失敗した人がいれば、得意そうに説教しました。


『だから言っただろう?』


『僕なら、そんな失敗はしないよ』


『やれやれ。君たちは本当に学習しないね』


太郎は、自分では仕事ができる人間だと思っていました。


実際、一人でできる仕事なら、誰よりも優秀でした。


けれども、みんなで力を合わせる仕事は、ちっとも上手にできませんでした。


そのうち、太郎を仲間に誘う冒険者はいなくなりました。


「太郎は強いんだけどねえ」


「一緒にいると疲れるんだよ」


「何を言っても馬鹿にされるからなぁ」


太郎は、その噂を聞いて鼻で笑いました。


『やれやれ。優秀な人間は、凡人から嫉妬されるものなんだね』


太郎は、自分が嫌われている理由を、まったく理解していませんでした。



◇ ◇ ◇



ある日のことです。


町で大きなお祭りが開かれました。


広場には大勢の人々が集まり、楽しそうに歌ったり踊ったりしていました。


そこへ太郎がやってきました。


「今年のお祭りは楽しいね!」


「本当だね!」


人々が笑っていると、太郎はため息をつきました。


『やれやれ。君たちは、こんなことで喜べるのかい?』


「えっ?」


『このお祭りの起源も知らないんだろう? まったく、無知というのは幸せなものだね』


人々は黙ってしまいました。


太郎は、それを見て得意になりました。


『やれやれ。少しは歴史を勉強した方がいいよ』


そして、誰にも頼まれていないのに、長々とお祭りの歴史を説明し始めました。


人々は、ますます嫌な気持ちになりました。


「あの人が来ると、楽しくなくなるね」


「どうして、いつも人を馬鹿にするんだろう」


「もう帰ってくれないかなぁ」


けれども、太郎は気づきません。


『やれやれ。僕の話は、君たちには難しすぎたかな?』


そう言って、満足そうに帰っていきました。



◇ ◇ ◇



さて、それからしばらくしたある日のことです。


突然、騎士団が太郎の家にやってきました。


「太郎! おまえを逮捕する!」


太郎は驚きました。


『やれやれ。いったい何の冗談だい?』


「冗談ではない! おまえには重大な疑いがかかっている!」


『何の疑いだい?』


「いろいろだ!」


『いろいろって、何だい?』


「とにかく、逮捕する!」


太郎は呆れました。


『やれやれ。罪状も説明せずに逮捕するなんて、法というものを知らないのかい?』


太郎の言うことは、もっともでした。


騎士団が、よくわからない理由で人を逮捕するのは、おかしなことです。


いつもなら、町の人々は怒ったことでしょう。


「そんな理由で逮捕するなんて!」


「騎士団の横暴だ!」


「ちゃんと説明しろ!」


ところが、今回は違いました。


「あの太郎が逮捕されたんだって?」


「それはよかった!」


「これで、あの嫌味を聞かずに済むね!」


「騎士団、よくやった!」


町の人々は、大喜びしました。


太郎は驚きました。


『やれやれ。君たちは、法の大切さも知らないのかい?』


けれども、誰も耳を傾けませんでした。


こうして太郎は、牢屋に入れられてしまいました。


◇ ◇ ◇


やがて、太郎の裁判が始まりました。


裁判官は、太郎にたずねました。


「太郎。おまえは、自分の罪を認めるか?」


『やれやれ。そもそも、僕が何の罪に問われているのか説明してくれないかい?』


「いろいろな罪だ」


『だから、そのいろいろを具体的に説明してほしいんだよ』


「口答えするな!」


太郎は、また大きなため息をつきました。


『やれやれ。裁判というものは、証拠に基づいて罪を判断するものだろう?』


太郎の言うことは、やはり正しいものでした。


けれども、裁判官は太郎の言葉を聞こうとしませんでした。


そして、とうとう判決の日がやってきました。


裁判官は、大きな声で言いました。


「被告人、太郎!」


『はいはい』


「おまえを、死刑に処する!」


太郎は、飛び上がって驚きました。


『や、なんだって!?』


「判決は死刑だ!」


『やれやれ。いったい何の罪で死刑になるんだい?』


「いろいろだ!」


『そんな馬鹿な話があるか!』


太郎は、初めて大声で怒りました。


『罪状も証拠もはっきりしないのに、死刑だなんて! 

こんな判決が許されるわけがないだろう!』


太郎の言うことは、まったく正しいものでした。


普通なら、町の人々も怒ったことでしょう。


「そんな裁判があってたまるか!」


「裁判所は何を考えているんだ!」


「判決をやり直せ!」


ところが、今回も違いました。


「太郎が死刑だって!」


「やったぞ!」


「これで、あの嫌味な男がいなくなる!」


「裁判官さま、ありがとう!」


町中の人々が、大喜びしました。


太郎は信じられませんでした。


『やれやれ。君たちは、自分たちが何を喜んでいるのかわかっているのかい?』


けれども、誰も太郎の話を聞きませんでした。



◇ ◇ ◇



とうとう、処刑の日がやってきました。


太郎は、処刑場へ連れていかれました。


広場には、大勢の人々が集まっていました。


みんな、たいそう嬉しそうでした。


太郎は、最後に人々へ訴えました。


『やれやれ。君たちは、本当に愚かだね。

罪も明らかにされないまま、人が処刑されるなんて亡国の道なんだぞ。

こんなことは子供でも知ってることだよ。』


太郎の言うことは、正しいものでした。


けれども、町の人々は笑いました。


「最後まで偉そうな奴だ!」


「また、やれやれって言ってるぞ!」


「もう聞き飽きたよ!」


太郎は、初めて不思議に思いました。


自分は、ずっと正しいことを言ってきたはずでした。


誰よりも物知りでした。


誰よりも強い魔物を倒せました。


誰よりも難しい宝探しができました。


それなのに、どうして誰も自分の味方をしてくれないのでしょう。


『おかしいなぁ……』


太郎は、首をかしげました。


『僕は、こんなに優秀なのに……』


そして、最後に小さくつぶやきました。


『やれやれ……』


こうして太郎は、処刑されてしまいました。



◇ ◇ ◇



社会が人間の集まりである以上、人間に嫌われるという事は社会に嫌われることです。


どんな凄い人でも社会から圧迫されては生きていけません。


だから不用意に敵を作ってはならないのです。


そんなことは子供でも知っていることですが、太郎には難しかったようですね。


やれやれ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



本作を見つけて下さってありがとうございます。

小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。


色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。

多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。


この場を借りて作品進捗を報告します。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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 KADOKAWAが「異世界濫発するな」とファンドに詰められてたので、続刊は絶望的。

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― 新着の感想 ―
やれやれ太郎は政治がわからないのだけは間違いない 「政治を知って何の役に立つの?」  「立ちませんよ、そう思う限りは役に立ちません」 「・・・政治を知らないと俺にはどんな不都合があると思う?」  「あ…
やれやれ。太郎はそんなことも知らなかったんですね。 勉強が足りませんね。やれやれだぜ!
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