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【超短編小説】カップ麺がのびた

掲載日:2025/12/17

 目を開けると卓上のカップ麺が伸びているのが見えた。スチロールの器を飛び出した黄色いうねりは、転げた割り箸にまで伸びている。

 食べながら寝てしまった。

 こんなのは大学生以来だ。いい歳をして恥ずかしい。

 何となく老いを感じる居心地の悪さを苦笑いで誤魔化したが──とにかく疲れていた。

 それに厭な夢も見た。

 出来心とは言え、寝言なんかで妻にバレると面倒だ。──やれやれ、身体も痛い。

 いまは何時だろうか?

 どれくらい寝ていたか分からないが、リビングの硬い椅子に座ったままならば無理もないか。

 


 とにかく片付けねば──と思い腰を上げようとして身体が持ち上がらない事に気付いた。

 おれの手足に黄色い麺が絡まっている。

 声を出そうとして喉からも数本の麺が伸びていることに気づいた。

 ラーメンが完全に伸びていた。


「あなた、起きた?」

 風呂上がりの匂いをさせた妻が背後からおれに声をかける。

「食べながら急にぐっすり寝ちゃったから、声もかけなかったけど」

 スリッパの音がパタパタと響く。

「あらやだ、またカップ麺のびちゃったのね」

 気をつけてよ、先週も食べかけが伸びて大変だったのよ。

 そう言いながら、妻が銀色に光るキッチン鋏で黄色い麺を切った。


 喉の奥に麺が戻っていく感覚に顔をしかめていると、妻がコメの研ぎ汁を持ってきた。

「はい、これ」

 ありがとう、と口を動かしたつもりが掠れた声しか出なかった。

 身体にタオルを巻いたままの妻はおれを見て笑うと洗面所に向かい、青い色をしたパックを顔に貼り付けた。

「あなた気をつけてよね、先月お向かいのマンションで亡くなった方がいるんだから」

 カップ麺で事故死なんて恥ずかしくてお葬式も出せないわよ──そう言ってお香を炊いた妻はソファに座ると目を閉じた。


 わかったよ、気をつけるよ。

 おれは静かにカップ麺を開けると湯を注ぎ、そっとソファの下に置いた。

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