第八十六話:武力討伐:闇の掃討と潜伏先
経済制裁と信仰の追い込みという「二つの矢」により、カインの組織的な謀略は完全に崩壊した。彼は今、逃亡者として、自身の憎悪の残滓に頼るしかない。その残滓こそが、カインがかつて利用した「古王の支配を懐古する、闇の竜族の残党」であった。
闇の特務機関長ヴァルキリアと、その補佐漆黒の工作師シェイドは、カインが設けた複数の精神攻撃拠点と武力残党の潜伏先を特定し、最終討伐の準備を進めていた。
司令部の作戦会議室。ヒカルは玉座に座り、闇の王族の二人を前に最終指令を下した。
「カインは、自身の憎悪という名の魔力を、残党の拠点を通じて帝都へ流し込んでいる。奴の目的は、武力的な抵抗ではない。俺たちの心に『不信』という名の毒を流し込み、ユニゾンの調律を乱すことだ」
ヴァルキリアは、その孤高の美しさの中に冷徹な決意を宿し、一歩前に進み出た。
「契約者。カインが頼る『憎悪の残滓』は、闇の王族の論理が最も得意とする領域です。彼の謀略は、古王の支配の失敗を証明する、愚かしい懐古にすぎません」
シェイドも、主であるヴァルキリアの隣で静かに頭を垂れた。
「ヴァルキリア姉さまの忠誠心と、私の論理的な諜報がカインの憎悪の源を断ち切ります。武力残党の潜伏拠点は、闇の勢力による武力の絶対的な論理で掃討することが最も合理的です」
◇◆◇◆◇
ヒカルは、二人の闇の愛の形が「憎悪の残滓の掃討」という最も汚れ役となる任務を望んでいることを理解していた。
「ヴァルキリア、シェイド。カインが設けた複数の精神攻撃拠点を、闇の力で掃討せよ。それが、王国の裏側を護る、お前たちの孤高の忠誠だ」
「御意!」
ヴァルキリアとシェイドは、古王軍編入部隊総司令官ユグドラ、そして不動の防衛将ガイアと連携し、カイン残党が潜伏する山岳地帯へと出撃した。
ヴァルキリアの闇の特務機関は、カインが竜族の憎悪の念を増幅させるために設けた精神攻撃の拠点を次々と発見し、破壊していった。闇の魔力は、憎悪の念が凝り固まった領域を「穢れ」として瞬時に識別し、浄化する。
「闇の力は、憎悪という名の薄汚れた感情を、最も効率的に断ち切る論理です」
ヴァルキリアの闇の魔力が、残党兵たちの心に巣食う古王への「偽りの忠誠心」を、容赦なく根源から断ち切っていく。残党兵たちは、憎悪の魔力を失った瞬間、自らの行動の不合理さに気づき、次々と戦意を喪失した。
ユグドラは、その光景を武人としての誇りをもって見つめていた。
「王の優しさは、憎悪を乗り越える。そして、ヴァルキリア王妃の闇は、憎悪を根源から断ち切る。これこそが、真の王の武力の論理だ」
◇◆◇◆◇
掃討作戦の最終盤、ヴァルキリアとシェイドは、カインが武力残党の背後に隠した「真の潜伏先」を特定した。
「カインの最終的な逃亡先は、『旧ドラゴンスレイヤー教団の秘密結社』の関連施設というところまで絞りこめました。おそらく、奴は、教団の暗殺者養成施設や、自らのトラウマが詰まった場所を、最後の盾にしようとしています」
「トラウマ?」
「はい、巧妙に隠されていたので、情報の確証を得るのに時間がかかりましたが、カインは、その、ドラゴンスレイヤー教団の暗殺者として養成されたようなのです……」
ヒカルですら、知らなかったカインの出自。しかしながら、納得するものがあった、なぜ彼がヒカルをここまで敵視するのか、その背景にドラゴンスレイヤースレイヤー教団という存在と彼の暗殺者としての勘があったのかもしれない。
シェイドは、カインの潜伏先を特定する魔力解析の結果をヴァルキリアに伝えた。闇の魔力は、カインが隠し持つ「人間側の知恵と謀略」の残滓を追跡することで、潜伏先を突き止めたのだ。
「ヴァルキリア姉さま。カインの潜伏先は、私たちの闇の力をもってしても、防御が堅固すぎます。特に、カインは最後のあがきとして、『人間側の暗器術と毒物』による近接防御の罠を張り巡らせている可能性があります」
ヴァルキリアは、闇の王女としての冷徹な判断を下した。
「フン。闇の力は、竜族の魔力攻撃には絶対的な優位性を持つ。だが、人間側の卑劣な毒と暗器は、我々の盲点となる」
ヴァルキリアは、司令部のヒカルに通信魔力を送った。
「契約者。カインの潜伏先を特定しました。しかし、奴の防御は、人間側の陰湿な知恵で固められています。貴様の近接護衛であるリリアを、最深層への侵入ルートの検討に投入するべきだ」
リリアは、竜族が持たない「毒物への知識」と「人間側の暗器術」という、カインの最後の防衛線を破るための唯一の鍵だった。
ヒカルは、リリアの静かな献身が、カインへの最終討伐に不可欠な「第三の矢:武力の支配」を完成させることを悟る。
「リリア。お前の静かな愛が、カインの卑劣な知恵を打ち破る。お前と共に、カインへの最終討伐を果たす」
◇◆◇◆◇
ヒカルがリリアと共にカインの潜伏先への最終討伐を宣言した瞬間、司令部の魔力通信機に、激しいノイズと共にカインの狂気に満ちた憎悪の声が割り込んできた。
『ヒカル! 聞こえているだろう!』
カインの声は、憎悪と狂気を魔力で増幅させ、ヒカルの「絆の共感者」の異能に直接叩きつけられる。
『経済も、信仰も、武力も、すべて貴様の「甘い優しさ」に論理的に打ち砕かれた! よくぞ、ここまで俺を追い込んだ! やはり貴様は、人類にとって、優しさという名の毒を持つ、最悪の脅威だ!』
カインは、ヒカルの優しさという信念そのものを否定し、人類の存続という狂気の論理で、ヒカルを排除する正当性を叫ぶ。
『だが、ヒカル! 貴様は、最も大切なものを、俺に差し出したままだ! 貴様の優しさが最も輝く場所こそ、貴様の最大の弱点だ! 貴様を力で排除することが、人類への最高の忠誠であり、俺の狂気の愛国心の証明となる!』
カインは、憎悪と狂気を込めたメッセージの最後に、誰にもその意図が分からない、あまりにも自然すぎる、無意識下の『暗号』を埋め込んだ。
『【そして、その忠誠は、いつか必ず、王を護る剣となるだろう】』
通信はノイズと共に途絶えた。カインは、この通信そのものが、「最後の切り札」を発動させるためのトリガーであった。
その【暗号】を聞いた瞬間、リリアは誰にも気づかれないほど微かな筋肉の緊張を走らせたが、ヒカルはそれを竜姫への調律のノイズに紛れたものと誤認し、リリアの献身的な愛の裏側に予測不可能な「最大の裏切り」という不協和音が潜んでいることに気づくことはなかった。
彼の優しさが、最大の盲点となった瞬間だった。
こうして、カイン包囲網「三つの矢」の全てが論理的に完了し、ヒカルの個人的な復讐と、新世界の秩序創造をかけたカインへの最終決戦への準備が整った。
ただひとつ、リリアと言う内なる爆弾を抱えていることを盟約軍の誰1人もが気がついていない、と言う一抹の不安を残したまま……。
【第87話へ続く】
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