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第五十二話:光と闇の当番制:統合される最終防御戦略

 古王討伐から三週間。新体制において【闇の特務機関長】に任命された深淵の孤高竜姫ヴァルキリアと、その補佐漆黒の工作師シェイドは、古城の地下深く、かつて古王の隠し金庫であった場所に司令部を移していた。


 そこは、ヴァルキリアの闇の魔力が最も安定する場所であり、ヒカルの光が届かない王国の裏の領域だった。


「シェイド。光の姫ルーナが、また来たわ」


 ヴァルキリアの静かな声には、わずかな苛立ちが含まれていた。


 彼女は、王の命を受け、古王軍の残党掃討と、人間社会への潜入工作の計画を練っていたが、純白の調和聖女ルーナの存在が、この闇の領域に不協和音をもたらしていた。


 その時、闇の司令部の扉が、淡い光と共に開いた。そこには、純白の調和聖女ルーナと、彼女の補佐無垢なる浄化使アウラが立っていた。


「ヴァルキリア姉さま、シェイド」


 ルーナは穏やかに微笑む。


「お二人を心配して参りました。闇の力は、精神的な消耗が激しいと聞きます。光の文化担当官として、少しでもお二人の魂を調律できればと」


 ヴァルキリアの血のような瞳が、冷たくルーナを見据える。


「必要ありません、ルーナ。光と闇は、共存できても混ざることはない。貴様の光は、我々の闇の魔力を乱すだけ。貴様の優しさは、我々にとって余計なノイズです」


 シェイドもまた、無表情のまま冷徹に続けた。


「光の姫よ。我々闇の王族が望むのは、貴様の精神的なケアではない。王の闇の裏の汚れ役を担う、孤高の忠誠です。貴様の優しさの布教は、他所でなさい」


 ルーナの光は一瞬ひるんだが、彼女の笑顔は消えなかった。


「ふふ、ヴァルキリア姉さまの孤高の愛も、シェイドの論理的な忠誠も、全て理解しています。ですが、私は、姉妹が一人でも欠けているのは寂しいのです。姉妹全員が一緒にいられることが、ヒカル様の真の幸せですから」


「私たち皆で、ヒカル様を盛り立てましょう。私は表の光として、姉さまは裏の闇として。どちらか一方だけでは、この新しい王国は成り立たないのですから」




 ◇◆◇◆◇


 ルーナの「姉妹全員が一緒にいられること」を純粋に願う姿勢は、ヴァルキリアとシェイドの闇の論理を、一時的に停止させた。


 ヴァルキリアは、十数年にわたる孤立の呪いの残滓を心に感じながらも、妹の揺るぎない献身に、戸惑いを覚える。


「……光の姫の感覚は、理解できぬ。貴様は、我々が古王に組していたことを、許容できるというのか?」


 ルーナは静かに首を横に振る。


「許容などという、上から目線の言葉は使いません。私は、姉さまの悲劇的な孤立を知っています。姉さまの闇は、古王に利用された呪い。光は、その呪いを調律するためにある」

「私たちは、王の光が届かない場所で、王の敵を秘密裏に排除する。それが、闇の王族としての最終防御戦略です」


 ルーナは、ヴァルキリアの闇の王族としての誇りを否定せず、その役割を「王国の最終防御戦略」という戦略的な愛の形として肯定した。


 シェイドは、ルーナのこの戦略的な包容力に驚嘆した。彼女は、ルーナの光の力が、闇の力を論理的に利用しようとしている事実を看破する。


「…………王の光は、恐ろしいな、ルーナ」

「でも、それも悪くないです。ヴァルキリア姉さまの王国の防衛という愛は、闇の王族が最も効率的に果たせる忠誠です」


 ヒカルの「優しさが最強の力」という理念は、光の姫の揺るぎない献身を通して、闇の王族の孤高の忠誠と戦略的論理という、最も硬質な部分にまで浸透したのだった。


「そうよ、ルーナ」


 ヴァルキリアは、その口元に冷笑ではない、穏やかな笑みを浮かべた。


「貴様一人に、王の心の安寧を独占させるつもりはない。この王国の裏の安寧は、この闇の王族が、光の届かぬ場所で必ず守り抜く」


 シェイドもヴァルキリアの隣で、静かに頷いた。


「王の最終防御戦略は、この闇の特務機関が、王の光が届かない場所から、論理的に遂行してみせます」



 ◇◆◇◆◇


 その夜、ヒカルの当番制は、純白の調和聖女ルーナが独占していた。テラによる安息の時間と重なっていたため、ヒカルの心身は、この上ない安寧に包まれていた。


「ヒカル様」


 ルーナは、ヒカルの胸に顔を埋め、嬉しそうに語り始めた。


「ヴァルキリア姉さまと、シェイドの闇の忠誠心が、私の光の調律に耳を傾けてくれました」


 ヒカルは黙って聞いている。


「姉さまは、孤高の呪いを王国の最終防御戦略として昇華させ、シェイドと共に、光の届かぬ場所からこの王国を下支えすると誓ってくれました」


 ルーナの言葉に、ヒカルは驚きと安堵を覚えた。闇の王族が、光の姫の献身を受け入れたという事実は、ヒカルの「優しさが最強の力」という理念が、竜族全体の調和へと繋がった、最大の成功だった。


「ルーナ…………ありがとう。お前の愛は、俺の想像を超える統合の力を持っている」


 ヒカルはルーナの髪を優しく撫でた。


「ヴァルキリアとシェイドが、裏の防御を固めてくれた。お前は表の安寧を護ってくれる。お前たちの愛の調律こそが、新王国の最も強靭な最終防御戦略だ」


 ルーナはヒカルの腕の中で、満ち足りた微笑みを浮かべた。


「はい。どちらかだけではダメ。私たちみんなでヒカル様を盛り立て、この王国を護りましょう。それが、王妃の座をかけた、私たち全員の愛の義務ですから」


 ヒカルは、ルーナの言葉に込められた六龍姫全員の愛の競争の重圧を感じながらも、その愛が王国の防御という形で結実したことに、安堵を覚えるのだった。


【第53話へ続く】


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