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第四十九話:王の義務:調和の報酬と統治の課題

 古王討伐の激務、ギルティアの監査、そしてユグドラの統合という一連の山場を終えた夜。ヒカルは執務室で一人、淹れたての紅茶を啜っていた。疲労は回復したが、六龍姫の絶え間ない愛の奔流と、それを公正に裁定する「王の義務」だけが、彼の心を休ませなかった。


「……ユグドラの武人の誇りですら、この愛の奔惰(ほんば)には耐えられないだろうな」


 ヒカルの独り言に、隣で戦略盤の再編成案を検討していた蒼玉の理性竜姫アクアが静かに応じた。


「王。貴方の疲弊は、論理的には非合理ですが、原因は明確です。貴方の『絆の共感者』は、我々六龍姫の『種の存続』という本能的な愛の要求を、常に最大出力で受け止めているからです」


 アクアの冷静な分析は、ヒカルの心に鉛のように重く響く。ヒカルは、この機に以前から抱いていた疑問を口にした。


「アクア。お前たちのファミリーネームがレヴィアはフレイムハート、お前はフロストヴィーナ、テラはグランディナと、すべて異なるのはなぜだ?お前たちは六龍姫、つまり姉妹ではないのか?」


 アクアは眼鏡の奥で目を見開き、静かにその論理的な秘密を明かした。


「それは、我が竜族の王位継承が女系優先である我が竜族は、王国の存続のための『種の存続計画』に由来します。我々六龍姫は、父は同じですが、母が異なります。それぞれ異なる血統を持つ異母姉妹なのです」


 ヒカルは息を飲んだ。ヴァルキリアを含めた六龍姫が、血統、属性、そしてユニゾン適性という、種の存続のための異なる要素を持つ戦略的子孫だったという事実。それは、彼女たちの激しい愛の独占競争が、単なる感情ではなく、王国の未来に直結する本能的な義務であることを示していた。


「我々竜族は、『調律の才能』を持つ王、つまり貴方を迎えることで、種の純粋性とユニゾンという最高の戦略的兵器を未来へ繋げられます。そして、王の寵愛、特に『第一王妃』の地位が確定すれば、その姫の部隊の資源配分、発言権、そして血統の優位性が盟約軍内で絶対的なものとなる。故に、王妃の座を巡る競争は、王への愛と同時に、種の存続と勢力の国力をかけた最優先の義務なのです」


 アクアの言葉に、ヒカルは息を飲み、その恐ろしい論理に戦慄した。彼女たちの愛が、王国の血生臭い政治構造と直結していることを、ようやく理解したのだ。


 だからこそ、レヴィアは「夫!」「正妻!」と情熱的に叫び、アクアは「論理的な愛」「官僚機構」と理性を盾に、テラは「母性の献身」で内政を固めようとする。その必死さは、彼女たちの命と彼女たちの部隊の存続がかかっているからだと、ヒカルは愛の奔流の真の重さを初めて知った。


 ◇◆◇◆◇


 その日の昼過ぎ。


 ヒカルは、六龍盟約軍の統合成功とユグドラ登用を祝う名目で、六龍姫の「王の義務(ヒカルの独占時間)」を巡る競争の場を設けた。しかし、単なる独占要求ではなく、彼女たちの愛は新王国の統治課題の提示という形で発露した。


 紅蓮の激情竜姫レヴィアが、執務室の扉を蹴破る勢いで飛び込んできた。


「夫! 貴方の愛こそが、私の激情という名の火力を最大化させる! 愛の報酬として、私との情熱的な独占時間を要求するわ! だがその前に、フレアの部隊は古王軍との連戦で戦闘資源が枯渇しかけている! 早急な武力再編成こそ、王の義務よ!」


 テラは、ルーナと並び立ち、献身的な安息と内政の課題を主張する。


「主《あるじ》。王の肉体的安寧は、最も重要な防御です。わらわの母性的な愛とルーナ姉さまの調律の光による安息の独占を。そして、古王軍残党の編入により食料・住居といった兵站が許容限界を超えている。統治機構による地域復興こそ、王の義務です」


 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静さを装いつつ、最も重大な構造的課題を提示した。


「王。私の論理的な愛とギルティアの財務監査が、この競争を勝利に導く。しかし、盟約軍は現在、軍事組織に過ぎません。法務、行政、財務を担う文官や官僚機構が皆無であるという統治上の構造的欠陥を早急に埋め、新王国の骨子を確立すべきです」


 疾風の遊撃竜姫セフィラが、軽やかな風と共に執務室の窓を叩いた。


「団長! 最高の冒険の成果は、団長との自由な愛だよ! だがその前に、放浪の運び屋(ウィンド・ランナー)が人間社会との通商ルートを確立しつつある。国際的な物流網と諜報ルートを確保するための外交・通商機関の設立こそが、王の義務だね!」


 闇の王女ヴァルキリアは、その孤高の闇の中で静かに、しかし強い威圧をもって口を開いた。


「契約者。貴方の闇の王族としての忠誠は、闇の特務機関の創設計画をシェイドと共に私と話し合うことで証明される。そして、古王軍の残党が持つ古い技術と魔術の知識を統合・管理し、闇に潜む敵の謀略に対抗する情報機関の設立こそが、最も重要なあなたの責務であり、軍全体の防衛の要だと力説する」


 ヒカルは、六龍姫の愛の感情の奔流と、それぞれの戦略的な統治課題の提示という重圧に再び精神的な疲弊を覚えながらも、その提示された課題が新王国の骨子となることを悟る。


「静粛に! お前たちの愛は、すべてこの軍団に不可欠な義務だ。貴様たちの課題提示は、この王国の次の戦略となる!」


 ヒカルは、王の命を守るため、テラとルーナによる安寧の調律の時間を最優先で確保しつつ、六龍姫が提示した統治上の課題を解決するため、十二の誓約軍団と六大王室職責を創設することを決意する。


【第50話へ続く】



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