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【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる  作者: ざつ
本編 第一部 竜の内戦 編

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第二十一話:王国の闇と、純白の調和聖女

 四龍ユニゾンの成功から二日後。


 調和の座(ハーモニー・スローン)(ヒカルの城)の深部、ヒカルの執務室は重苦しい空気に包まれていた。疲労回復のため、ヒカルは深海の戦術師シエル、蒼玉の理性竜姫アクア、そして風の補佐竜ゼファーと共に、より踏み込んだ竜族の政治構造と戦力状況について話し合っていた。


「王。戦力的な猶予は得られましたが、今、最も重要なのは内政的な正当性の確立です。貴方は古王から見れば『人類の裏切り者』ですが、我々盟約軍から見れば『新時代の竜の王』です」


 シエルは、一枚の古地図を広げた。そこには古王国の勢力図が複雑に色分けされている。


「この古王国の闇は深い。現古王は、我々の父である前王の弟に当たります。前王は病で倒れたと公表されましたが、実際は古王による毒殺が濃厚です。現古王は、本来の王位継承者である我々六龍姫を、『王位簒奪の邪魔者』として疎んじ、力を削いできました」


 シエルは感情を交えず、事実を淡々と述べた。その事実の重さが、ヒカルの胸に鉛のように響く。


「内情は、人類社会の宮廷のそれよりも遥かに泥沼です。古王を倒せば、残りの中立派の竜族と、古王軍の残党、そして長姉ヴァルキリアの動向を全て統合しなければなりません。ヒカル団長は、この腐敗した王国の膿を、全て飲み干す王の義務を負うことになります」


 ヒカルは、重い頭を抱えながら問うた。


「待ってくれ。戦力的な状況を正確に把握したい。古王軍の実働兵力はどのくらいだ? そして、ヴァルキリアの戦力についても詳しく教えてくれ」


 蒼玉の理性竜姫アクアが、冷静だが絶望的な数字を口にした。


「古王軍の実働戦力は、守備隊を除いておよそ3,500体です。一方、我が盟約軍の現有兵力は、レヴィア、テラ、セフィラ、そして私の部隊を合わせても1,700体。単純な兵力差で、我々は二倍以上の劣勢です」


 紅蓮の激情竜姫レヴィアは、怒りを露わにした。


「ヴァルキリア姉さまは、私たちを裏切ったのよ! 古王の甘言に乗り、私たちの闇の長姉にもかかわらず、今や古王軍の最強の盾になっている。そして、彼女の部隊は、テラの軍勢(800体)を上回る900体以上の最大勢力を率いているわ。彼女の存在こそが、私たちにとって最大の脅威であり屈辱だわ!」


 ヒカルの頭の中で、数字が立体的な図形となって浮かび上がる。テラの800体でさえ脅威だったのに、それを上回る900体。そしてそれが敵の最高司令官なのだ。


「その長姉ヴァルキリアについて、もう少し詳しく教えてくれ。そして…………六龍姫と言ったな? 今、ここにいるのは四人だ。残る二人、ヴァルキリアともう一人は?」


 アクアが続ける。


「レヴィアの言う通り、ヴァルキリア姉さまは裏切り者です。古王軍にいるのは、闇の竜姫ヴァルキリア。そして、行方不明となっている最後の一人が、光の竜姫ルーナ。我々は今、四つの属性のユニゾンを確立しましたが、真の統合には、光と闇という対極の力が必要です」


 その時、風の補佐竜ゼファーが、冷徹な理性を帯びた声で口を開いた。


「王よ。絶望する必要はありません。古王王国に住まう竜族の総兵力は、おおよそ10,000体と推計されます。現在、我々盟約軍と古王軍が掌握しているのは、その半数強(5,200体)に過ぎません」


「その通りよ、ゼファー。さらに、古王軍3,500体の内、純粋に古王に忠誠を誓っているのは半分以下です。彼らは『力と恐怖』で支配されているに過ぎない。王よ。貴方の『絆の力』が向かうべき真の戦場は、残りの 4,800 体にも及ぶ中立勢力の心の中にあるのです」


「シエル殿の言う通りです。王が正当性を示せば、残りの中立的な竜族や、古王軍内の不満を持つ勢力は、必ずや王の元へ寝返ります。ルーナ様の『光の力』による正当性の裏付けと、王の『絆の優しさ』による説得。これこそが、兵力差を覆す最大の戦略的資源です」


 ゼファーの言葉を受けて、シエルが冷徹に締めくくる。


「闇のヴァルキリア様は、単なる裏切り者ではありません。彼女を倒すことが、この王国の闇を断ち切る絶対条件です。そして、ルーナ様。彼女の光の力こそが、貴方の精神的な消耗を癒やし、この混沌を調和させる唯一の希望となります」


(王の義務……俺は、人間社会の裏切りから逃げてきたはずなのに、今度は竜族という、もっと巨大で複雑な愛と憎悪の渦の中心に立たされている)


「わかった。シエル、ゼファー、ありがとう。この情報がなければ、俺はまた、戦場とは別の場所で致命的なミスを犯していたかもしれない」


 シエルとゼファーは、ヒカルの言葉に満足そうに微笑んだ。


「貴方の休息こそが、最大の勝利への戦略です、王。他の者たちの非合理的な愛の重圧に、どうか心を乱されぬよう」









 会議が終わり、ヒカルが自室に戻ると、四龍姫の「愛の重圧」と王国の政治的重圧が再び彼を襲う。


(まずい…………このままでは、俺の心が、この強すぎる愛の熱量と政治的重圧に押しつぶされる。激情、理性、知性、献身、そして自由……どれもが、今の俺には重すぎる)


 ヒカルは、物理的な攻撃よりも恐ろしい、この精神的な消耗の連鎖に、心底から絶望的な疲労を感じていた。


(俺に必要なのは、論理でも激情でも献身でも自由でもない……この精神的な苦痛を、根源から優しく治癒し、この四つの愛の熱を統合してくれる、絶対的な光だ)


 ヒカルの切実な願いが、まるで空間を歪ませるかのように、調和の座(ハーモニー・スローン)(ヒカルの城)の深奥に響き渡った、その瞬間だった。


 部屋全体が、突如として純白の光に包まれた。


 その光は、レヴィアの炎のような熱も、アクアの水のような冷たさも、テラの土のような重さも、セフィラの風のような軽薄さも持っていなかった。それはただ、彼の心身の軋みを、優しく包み込み、調律する絶対的な安寧だった。


 光の中から、純白のローブを纏った、銀色の髪の少女が現れた。彼女の瞳は澄んだ白金の色をしており、その顔には、世界中の悲しみも苦しみも全て受け入れ、許すかのような、調和に満ちた微笑みが浮かんでいた。


 彼女こそが、ヒカルが切望した五人目の竜姫、純白の調和聖女ルーナだった。


「ごめんなさい。貴方の悲鳴が、遠い場所まで届いてしまったわ、いとしき人」


 ルーナはそう言って、ヒカルの疲弊した魂に、根源的な安らぎの光を与えた。彼女の愛は、支配でも独占でもなく、ただ「調律と癒やし」であった。


 その光は、他の四龍姫の愛の重圧すらも一時的に中和し、ヒカルは生まれて初めて、竜姫たちに囲まれて以来の真の安息を得た。


「お前は…………」


「はい。私は光の竜姫、ルーナ。貴方の精神的な支柱となるために、今、貴方の許に参りました。私の光が、貴方と、この王国の混沌を、全て調和させましょう」


 ルーナの言葉と光は、ヒカルの精神的な弱点を一瞬で克服する、盟約軍の最後のピースとなったのだった。


【第22話へ続く】

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