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【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~裏切られた天才軍師は愛の和音で成り上がる  作者: ざつ
本編 第一部 竜の内戦 編

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第八話:超高圧ブレスと王の覚悟

 紅蓮の激情竜姫レヴィアと蒼玉の理性竜姫アクアの二龍ユニゾン「超高圧ブレス」の訓練が、鍾乳洞内で開始された。しかし、訓練は開始早々、レヴィアの感情の暴走で中断された。


 レヴィアは不満をあらわにした。


「やめよ、ヒカル! こんな複雑なユニゾンなんて要らないわ! 私の炎は、貴方への愛があれば最強よ! 個々の力で十分だわ!」


 その時、深海の戦術師シエルが静かに前に進み出た。彼女はヒカルに、現状の軍団が置かれた絶望的な状況を説明し始めた。


「いえ、王よ。レヴィア様の単独のブレスでは、旧体制派の古王が持つ強大な兵力に対し、防御力と継戦能力が圧倒的に不足します。我々が生き残るには、個々の能力の総和をはるかに超える『絆の力』が必要です。それが、ユニゾンブレスです」


 シエルは一瞬言葉を切り、ヒカルを見つめた。


「複数の竜姫の魔力を愛の絆で調和させ、力の質そのものを変える唯一の戦術です。難易度は極めて高いが、王の統率力なくして、この超高次の火力は得られません」


 ヒカルは深く頷いた。


「そうだ、シエルの言う通りだ。レヴィア、アクア。貴様たちの愛の力が必要なのだ」

「そうそう、レヴィア。あなたも竜の姫の一人なのだから、私にうまく合わせてご覧なさいな」

「う、うるさいわね。夫のお願いでなければ、あんたとだなんて……」


 しぶしぶとヒカルの指示に従うレヴィア。


「アクア、お前も少しはレヴィアと合わせるという意識を高めてくれ!! もうすこしF音は音程を低めに狙うんだ!」


 レヴィアは、ヒカルがアクアに魔力の出力を指示するたびに、激しい嫉妬を覚えた。レヴィアの魔力が感情の揺らぎとして暴走し、圧縮されるはずだったブレスが不安定な光の塊と化して、ヒカルに向かって飛び散った。


「ヒカル様、危ない!」


(まずい! レヴィアのD音が、嫉妬の炎で上擦った《うわずった》! アクアのF音ファとの間で、予測不能な不協和音ディスコードが発生している! このままでは、和音が自己崩壊オート・ブレイクし、魔力が全方向へランダムに暴発する!)


 その瞬間、爆炎龍将軍フレアと深海の戦術師シエルが、同時にヒカルの前に飛び出した。


 フレアは純粋な忠誠心でヒカルを覆い隠し、シエルは冷静に魔力障壁を展開して直撃を防いだのだ。ヒカルは、二人の副官が己の命を顧みず身を挺した事実に、怒りと決意をみなぎらせた。


 ヒカルは、背後に控える二人の竜族を振り返り、大きく深呼吸をした。


「レヴィア! アクア!」


 ヒカルの叱責が、鍾乳洞の静寂を破った。


「何たる失態か!! 貴様らは、この無様な失敗をどう説明する! 貴様らの感情の衝突が、今、忠誠心厚い副官たちの命を危険に晒したのだ! 王である俺、そして貴様らを愛する俺が、この程度の嫉妬で滅びるところだったのだぞ!」


 ヒカルは、二人の竜姫の瞳を真っ直ぐに見つめた。姫たちは、ヒカルの心の奥からの叱責を受け入れ、しゅんと首を下げた。


「我が軍団の命運は、ユニゾンにかかっている。そして、ユニゾンは愛の信頼によってのみ成立する」


 ヒカルは深呼吸をして、二人に言い放った。


「紅蓮の激情竜姫レヴィア! 蒼玉の理性竜姫アクア! 妻としての愛を――この王に見せてみろ!」


 ◇◆◇◆◇


 ヒカルの『妻としての愛』を要求する言葉は、二人の竜姫の感情を調和へと導いた。二人の竜姫の感情が安定した瞬間、ヒカルはすかさずブレスの発動を指示する。ヒカルは、二人の竜姫の愛のベクトルが完璧に調和していることを確認した。


「レヴィア、アクア。今、お前たちは完全な絆の和音を奏でている。最大火力を発揮しろ。完全竜体へ!」


 ヒカルの命令が響くと、レヴィアとアクアは同時に体長20メートル級の巨大な炎と水の竜へと再び変身を遂げた。この完全竜体への変化は、最大の魔力と破壊力を解き放つが、その分、竜姫たちの感情が剥き出しとなり、一歩間違えれば制御不能の暴走に陥る。


 ヒカルは、「絆の共感者」として、二人の竜姫の激しい愛のベクトルが「ユニゾンブレス」という絶対的な調和を生み出すよう、精神的な調律を開始した。


「今だ! 超高圧ブレス、発射!」


 炎と水が衝突ではなく絡み合い一つの流れにまとまっていく。一瞬だが、完璧な和音を奏でた。その必殺の一撃が、鍾乳洞の壁を深く穿った。


(とりあえずまだまだ訓練が必要だな……。しかも、先ほどのような暴発のリスクまであるとは……。流石に先ほどのは死を覚悟したぞ……。危なかった……。失敗して自滅だけは避けたい……)





 訓練の成功を見ていたフレアは、シエルと共に王を守った事実に、忠誠心と、彼女の理知的な美しさへの複雑な憧れを感じていた。


 ヒカルは、ユニゾン成功の褒美としてレヴィアとアクアを同時に褒め称えた。レヴィアは至福の表情を見せたが、アクアは赤面させながらも、努めて冷静を装った。


「ごほん……王よ。か、感情の衝突は、今後も発生します。王の公正な裁定を、軍務の成果で競わせる仕組みが必要ではないか、と」


「うむ、何か提案があるのか?」


「はい、このアクアに進言の機会をいただきとうございます」


 ヒカルは、身を乗り出し、提案を聞くことにした。アクアは、MVP制度の具体的な詳細を説明した。


「戦功を立て、最も軍に貢献した者に、王からの特別な褒美を与える。評価はシエルと私で論理的に計算し、褒美の内容は、抱擁やキスといった、王の愛を独占できる権利とする。これにより、嫉妬という非合理な感情を、軍の貢献度という最も合理的な競争原理へと昇華させます」


 ヒカルは、このシステムが持つ非情なまでの効率性に、内心で驚嘆した。


「採用だ。MVP制度を制定する。我が軍団の士気は、貴様たちの愛の努力によって維持されるだろう」




 ◇◆◇◆◇


 鍾乳洞内に竜族の寝息が響き渡る中、ヒカルはようやく与えられた寝床で一人になった。


 岩肌の冷たさが、彼の火照った身体に心地よい。この数日、彼は追手と戦闘、そして竜の姫たちの激しい感情の奔流に晒され、肉体的な疲労よりも、精神的な消耗が限界に達していた。


 ヒカルは、腕を組んで天井を見つめた。


(竜姫二人の感情の制御は、戦場の指揮以上にしんどいぞ…………)


 彼の脳裏には、紅蓮の髪を持つレヴィアの激情的な笑顔と、銀色の髪を持つアクアの氷のようなクールビューティの顔が交互に浮かぶ。二人とも人間離れした完璧な美しさを持っている。


 しかし、その根底にあるのは、数千倍の火力を吐き出す炎竜と、すべてを凍結させる静かな支配力を持つ水竜という、恐るべき怪物の真の姿だ。


「この強気な態度も、いつまで持つか分からない虚勢だな……」


 ヒカルは、無人の空間で、どっと押し寄せる疲労と共に、ようやく弱音を吐いた。


 彼の心の中で鳴り響いていた『絆の共感者』の警鐘が止まり、訪れたこの静寂だけが、彼の唯一の安息だった。この「竜の王」というキャラは、生存と復讐のために彼が無理して作り上げた仮面でしかない。


 静寂の中で、ヒカルは谷底に消えたリリアの面影を思い出す。彼女の優しさ、献身的な笑顔。人間社会で唯一、彼が信じた光だった。


(リリア…………。この過酷な「愛の戦記」を生き残ってやる。そうしないと、俺はカインに復讐できない。この命を懸けた虚勢を、お前の優しさが正しかったという証拠に変えてやる……)


 ヒカルは、二人の竜姫の激しい愛を受け止めながら、竜の王として生きることを覚悟し、静かに眠りに落ちていった。


【第9話へ続く】

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