第七話:炎と水の組織図、愛の調停と王の決意
アクアの不意打ちのキスと、それに対する紅蓮の激情竜姫レヴィアの臨界点を超えた激情により、鍾乳洞内は灼熱と冷気が渦巻く大混乱となった。ヒカルは、竜族総出でレヴィアを押さえ込みながら、このままでは軍団が自滅すると確信した。
「レヴィア、落ち着け! 貴様の熱でこの鍾乳洞が崩壊するぞ! アクアも、貴様は参謀の役割を理解していない!」
レヴィアは涙と怒りで顔を真っ赤にし、ヒカルにしがみついた。その魅力的な身体が、王の鎧のようにヒカルに密着する。
「アクア! 貴様、私の夫にキスをするなど! しかも『王』は当然として、『王妃』ですってぇ!? あんな理性の塊に、ヒカルを渡さないわ!」
蒼玉の理性竜姫アクアは、銀色の長い髪を持つクールビューティとしての冷徹さを保ちながらも、内心では明らかに動揺していた。彼女の反論は、論理的でありながらも、いつになく感情的に響く。
「馬鹿げたことを。貴様の感情論は非合理です、レヴィア。私は王の知性に忠誠を誓ったまで。あなたは王を独占する激情しか持たないから、王にふさわしい理性を理解できないのよ」
ヒカルは、二人の竜姫の間に立ち、両者の感情を力ではなく論理で調停することを決意した。
「静かにしろ、二人とも! 貴様たちの愛の形は、どちらも軍に必要不可欠だ!」
ヒカルは、手のひらに魔力を込め、空中に光の文字で軍団の新たな組織図を書き出した。
「これより、二龍盟約軍の組織図を制定する。貴様たちの能力と愛の形を、最も効率的な役割に配分する」
ヒカルは明確な権限と兵力分配を提示した。
「【紅蓮の激情竜姫レヴィア】は、引き続き攻撃の主力とする。配下の竜族約350体を率い、最大火力をもって戦場を切り開け。貴様の情熱的な愛こそが、軍の士気の源だ」
レヴィアの顔に、攻撃の主力という地位への満足感が浮かんだ。
「レヴィアの部隊から約50体を割き、【爆炎龍将軍フレア】を切り込み特攻隊長とする。最前線で敵の指揮系統を破壊する、最も危険な任務を担え」
フレアは、王の信頼に応えるように一歩前に出た。
「御意!王の命ならば、我ら爆炎龍将軍の部隊が、敵の心臓を確実に焼き尽くします!」
(フレア、お前はレヴィアの激情というトランペットに、苛烈で華麗なファンファーレという名の伴奏を加える。お前の忠誠心が、ユニゾンの音色をより力強くする)
「次に、【蒼玉の理性竜姫アクア】。貴様は全軍の参謀とし、後方から前線の動きを統括し、資源と兵力の消耗を計算しろ。配下から約50体の精鋭部隊を割き、司令部直属の参謀部隊とする」
アクアは、全軍の参謀という地位に静かな満足感を示したが、その直後、レヴィアの鋭い眼差しがヒカルを射貫いた。
「待って、夫どの! アクアを司令部直属にするのはやめて! あなたのすぐそばに、あの泥棒猫がいるなんて、絶対に嫌よ!」
◇◆◇◆◇
紅蓮の激情竜姫のあからさまな独占欲に、ヒカルは、これはまずいと脳をフル回転させて、妥協案を見つけ出した。
「仕方ないな、レヴィア。【蒼玉の理性竜姫アクア】は、全軍の参謀という役割は変わらないが、司令部直属の近接護衛は外す。王の主戦力である約150体の部隊を率いて、【深海の戦術師シエル】と共に本陣の護りと兵站の管理を徹底せよ」
そして、ヒカルはシエルの役割を正式に定めた。
「【深海の戦術師シエル】。貴様はアクアの下で、本陣の護りと資源・経済管理を統括せよ。貴様の部隊は50体。貴様の理知的な判断こそが、軍の継戦能力を保証する」
(シエル、お前はアクアの理性に、緻密なメトロノームのような調整を担う。お前の冷静な知性こそが、ユニゾンの音の軌道を精密に保つ生命線となる)
シエルは一歩前に出ると、一切の感情を排した冷たい声で、王に誓いを捧げた。
「御意、王。この編成であれば、資源の最適配分に基づき、戦闘における継戦能力を37%向上させることが可能です。私の部隊は、この鍾乳洞の経済防衛を論理的に完遂します」
蒼玉の理性竜姫アクアは、レヴィアの独占欲に屈した形にやや不服を示しつつも、王の公正な裁定を理性の力で受け入れた。
「よろしい。本陣の資源は、王への私の理性の愛で絶対に守り抜くわ。レヴィア、感情論で計算を狂わせないことね」
レヴィアは不満をあらわにしながらも、ヒカルの公正な裁定と、攻撃の主力を任されたことに満足した。
「ふん、仕方ないわね! でも、夫どの。あなたにキスできるのは私だけよ。分かったわね、アクア!」
「あー、はいはい・・・・・・」
レヴィアの激情をアクアはさらりと受け流した。それがさらにレヴィアの苛立ちを刺激するが、おそらくアクアはわざとやっているのだろう。
この一連のやり取りを冷静に見つめていた深海の戦術師シエルは、眼鏡の奥で目を見開き、やたらとムキになるアクアの姿に、ややあきれていた。
(アクア様が、ここまで感情的に王の愛情を求めるとは…………。これもあの人間、ヒカルの『絆の共感者』の作用か。感情の非合理性を否定し続けた姫が、自らその非合理に囚われている。人間とは、解析不能な存在だ)
シエルは、冷静な分析を越えた好奇心を刺激され、ヒカルへの関心を深めた。
ヒカルは、二人の竜姫の愛の形を戦略に変換し、二龍盟約軍の骨格をなんとか固めることができた。しかし、彼の心には、張り詰めた疲労感が残った。
(竜姫二人の感情の制御は、戦場の指揮以上にしんどいぞ。この感情の奔流に、俺の『絆の共感者』の異能は常に晒される)
ヒカルは、シエルの冷徹な論理と、フレアの燃えるような忠誠心を数値化できないことに、王としての孤独を覚えた。彼らの言葉だけを信じ、その裏に隠された嫉妬や野心を人間的な洞察力だけで見抜くことこそが、王の真の試練だと悟った。
(なんとかなったが、竜姫二人の感情の制御は、戦場の指揮以上にしんどいぞ。この感情の奔流に、俺の『絆の共感者』の異能は常に晒される)
ヒカルは、疲労を押し殺して決心を固めた。
(だが、そうしないと俺はここで生き残れない。そして、仇敵カインに復讐し、この世界を支配する人間社会の腐敗を打ち砕くことはできない。この竜姫たちの愛と力を、俺の剣にするしかない)
ヒカルは、二人の竜姫の激しい愛を受け止めながら、竜の王として生きることを覚悟した。
【第8話へ続く】
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