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第九十四話:統治の論理と人類軍の再編成

 七日間にわたる祝祭が終わり、盟約軍司令部は、新統合帝国の未来を決める最初の王政会議に臨んでいた。玉座に座るヒカルの隣には、六龍姫全員が控えている。


 ヒカルは、人類側の統治機構をどう扱うかという、最も重要で繊細な問題に直面していた。


 蒼玉の理性竜姫アクアが、玉座の隣から論理的な進言を行う。


「王よ。王国の基盤は、既に『優しさの理念』と『民衆の支持』という非の打ち所のない論理的最高値にあります。しかし、人類の行政、経済、兵站のシステムは複雑です。すべてを竜族の力で上書きすることは、非効率であり、人類の自主性を奪うことになります」

「うむ。して、お前は、どう考えているのだ?」

「故に、人類の既存の統治機構を最大限に活用し、我々竜族は『理念の調律と最終的な安全保障』を担うべきです。すなわち、間接統治を推奨します」

「そうだな、さすがはアクア。我が愛する王妃だな」


 アクアは、公然でのヒカルの言葉に、思わず顔を赤くしてうつむいた。


 アクアの進言を受け、ヒカルは会議に参加している人類側の代表たちを見渡す。その中心にいたのは、旧帝国皇太子であったレオナルドだった。


「レオナルド皇太子。あなたには、人類の歴史が築いてきた統治の知恵があります。あなたはカインの裏切りから人類の理性を護り通しました。その理性と忠誠を、私は最も信頼しています」


 ヒカルは、王の威厳と優しさを込めた声で、最大の権限委譲を宣言した。


「レオナルド。あなたを、新統合帝国における『人類側摂政せっしょう』に任命したい。あなたは、竜族の理念を人類社会に浸透させ、その実務を一手に担う。この決定こそが、人類と竜族の真の共存の証明と考えます!」


 レオナルドは、かつては敵対していた竜族の王からの、あまりにも重い信頼を、旧帝国皇太子としての威厳と、人類を導く覚悟をもって受け止めた。彼は深く一礼し、玉座の前で膝をついた。


「ヒカル王よ! この私に、まさか再び人類を導く使命を…! 私はカインの狂気を止めることができなかった、罪深き男です。ですが、王の『優しさが護る自由な秩序』という理念を、人類の義務として永続させるため、この命、王国の礎として捧げます!」


 ヒカルは、レオナルドの献身的な覚悟に応え、統合の象徴として補佐の人材を指名した。


「さらに、レオナルド摂政。あなたの政務には、妹御であるレオーネ皇女を『摂政首席行政顧問』として配置する。あなたの統治の知恵には、彼女の人類の行政実務を護り抜いた理知的な献身が不可欠だ」


 ヒカルは、摂政と摂政補佐という、人類側の知恵の統合を、人類に委ねた。


 その時、玉座の間に入室してきた一人の女性がいた。彼女は、竜族に近い血統を持ち、中立を保っていた竜の一族『水の公爵家』の令嬢であり、理知的な美しさを放つイゾルデ・ウェンディスだった。


 彼女は、水の竜姫アクアや、その腹心であるシエルとも学術的な交流を持つ才媛であり、その存在は竜族と人類の中立的な繋がりを象徴していた。


 ヒカルは、イゾルデを見据え、統合の血縁を確固たるものとする最後の宣言を行った。


「そして、レオナルド摂政。人類の統治機構の永続的な安定のため、竜族に近い血統を持ち、中立派公爵家として知られるイゾルデ・ウェンディスを、あなたの妻として、新統合帝国の『人類側摂政の正妃』としてほしい」


 ヒカルは提案という形を取ってはいるが、レオナルドには断る余地は残されていなかった。


「これは、あなたの持つ人類の権威と、彼女の持つ竜族に連なる中立的な血統を、『結婚』という最も確実な方法で統合せよ、という私の願いです。レオーネの行政実務の補佐に加え、イゾルデの血統的権威で、人類の総意を統合するのです」


 この決定は、レオナルドの統治機構への、人類側・中立派双方の全面的な支持を意味した。レオナルドは、政略結婚の義務を負いながらも、イゾルデの理知的な美貌に抗いがたい魅力を感じ、その冷徹な瞳に一瞬だけ熱を宿した。


「ヒカル王の裁定、承知いたしました。イゾルデ殿の理知的な美貌と才覚は、我が摂政府の最高の権威となりましょう。人類の安寧のため、この権威を統合し、王国の礎といたします」


「レオナルド殿、よろしく頼みます。そして、知識の守護者たる古の賢者、エルダー・ソフスは、引き続き『王政歴史顧問』として私の直属に留まる。竜族の永き歴史の論理と、人類の統治の知恵、その両輪で、新帝国を導かれよ」


 ヒカルとレオナルドの間に、種族の壁を超えた「統治の絆」が結ばれた瞬間だった。


 ◇◆◇◆◇


「王の義務は、優しさを永続的な論理に変えることだ」


 新王国の行政は、六龍姫の愛の調律の力が、具体的な実務へと落とし込まれていく。


 蒼玉の理性竜姫アクアは、経済担当のギルティア(人類)と連携し、旧貴族層の不正な隠し資産と、カイン残党の監査を指導した。


「ギルティア卿。王の理念を揺るがす『悪意のノイズ』は、論理的に見て、最初に排除すべき不安定要素です。貴女の経済の知恵と、私の絶対的な理性が、王国の永続的な安定を保証します」


 ギルティアは、アクアの冷徹だが絶対的な正義感に感服し、粛々と監査と新税制の導入を進める。


 純白の調和聖女ルーナは、人類の聖女クラリスと協力し、旧帝都全域で育児・福祉政策を推進した。


 ルーナとクラリスの「聖女ユニゾン」は、光の魔力で領民の心の傷を癒やし、孤児や負傷兵の社会復帰を支援する。


「クラリス様。ヒカル様が求めているのは、武力による征服ではなく、心の安寧です。わたくしたちの光の献身が、王国の精神的な支柱を確立させます」


 二人の聖女の献身的な活動により、人類側の信仰は、ヒカルの王権への絶対的な忠誠へと転換していった。


 磐石の守護龍テラは、人類軍の総帥リヒターと協力し、カインの残党を含めた人類軍の再編成を主導する。テラは、巨大な体躯と揺るぎない母性で、兵士たちに物資の安定供給と休息を保証した。


「リヒター総帥。わらわの愛は、王の領民全ての生命線と安寧を護る義務があります。旧人類軍を、王の理念を護る『優しさの砦』として、再構築しましょう。兵士たちが、帰る場所を失うことは、二度とありません」


 リヒター総帥は、テラの母性的な献身と、その論理的な戦略的価値に感銘を受けた。


「テラ王妃殿の献身、心より感謝申し上げます! 武人の誇りにかけて、人類軍は王の理念を護る最強の防人となりましょう。この再編成は、私の全責任において、迅速かつ確実に完遂いたします!」


 テラの存在は、旧人類軍の兵士たちの不安を瞬時に取り除き、軍の再編成は驚くほどの速さで進行した。


 ◇◆◇◆◇


 新統合帝国の国政は、六龍姫の愛の献身と、人類側の知恵の統合により、驚異的な速さで安定へと向かい始めた。


 しかし、その安定が確認され始めた矢先、漆黒の忠誠竜姫ヴァルキリアと、情報戦担当のシェイドから、玉座のヒカルへ、最悪の報せがもたらされた。


契約者ヒカル。東方方面から、重大な情報が確認されました」


 シェイドが展開した映像魔術には、不気味な暗黒の魔力を纏った飛行物体が、新統合帝国の東の国境を偵察している様子が映し出されていた。


「奴らです。カインが契約した魔王軍の尖兵が、我々の統一が完了したことを確認しに来ています」


 ヴァルキリアは、重々しい声で続けた。


「カインを断ったことで、奴らは我々を『最大の敵』と認識しました。魔王軍四天王による本格的な侵攻が、数週間から数ヶ月以内に開始される可能性を、私の闇の魔力が警告しています」


 アクアは、即座に現状の軍事力を算定し、ヒカルに告げた。


「王よ。我々の現在の戦力(BPI)は、古王軍との内戦や人類との決戦には十分でしたが、魔王軍四天王には到底及びません。彼らの持つ非合理的な破壊力は、統治の論理では防ぎきれません」


 ヒカルは、内政の安定という達成感と、魔王軍の脅威という、底知れぬ重圧の二つを同時に背負い、深く息を吐いた。


(カインは、最後に最大の置き土産を残していった。だが、俺はもう逃げない。この優しさで築いた世界を、魔族という最も大きく、最も非合理的な脅威から護り抜く義務がある)


 ヒカルは、玉座から立ち上がり、六龍姫全員を見つめた。


「静粛に。次の会議の議題を決定する」


 ヒカルの瞳には、一切の迷いがなかった。それは、王としての最終的な決断だった。


「議題は、『対魔王軍用・BPI強化(ユニゾン最終強化)プロジェクトの実行』とする。俺たちの愛と絆を、魔王軍が破壊できない、真の最強の兵器へと進化させるぞ」


 六龍姫の愛の和音は、王の決断を受け、さらなる進化の予感を込めた、激しく、そして荘厳な響きを奏でた。物語は、いよいよ第3部への核心へと突入する。


【第95話へ続く】



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