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第九十三話:凱旋:新世界秩序の宣言

 仇敵カインの狂気を打ち砕き、帝国との最終決戦に勝利した盟約軍は、帝都へと凱旋の途にあった。ヒカルが打ち立てたのは、武力による征服ではなく、「優しさが最強の力である」という理念に基づく世界統一だった。


 盟約軍の旗を先頭に、竜族の精鋭、辺境連合軍、そして恭順の意を示した帝国軍の残存部隊が、種族の垣根を越えて一つの隊列を成す。その壮麗な行進は、長きにわたる戦乱の時代に終符が打たれたことを、世界に告げるファンファーレであった。


 盟約軍の司令部。

 ヒカルは玉座に座り、左右に六龍姫を従え、凱旋の模様を映像魔術で確認していた。


「我々は、力と恐怖による古の支配を打ち破り、憎悪と謀略による人類の支配を断ち切った。今、この世界は、優しさと絆という新たな秩序のもとに統一された!」


 ヒカルの言葉は、彼の「絆の共感者」の異能を通じて、六龍姫の感情と共鳴する。その調律の音色は、勝利の歓喜と、ヒカルへの愛の献身という、究極の協和音を奏でていた。


 紅蓮の激情竜姫レヴィアは、誰よりも誇らしげにヒカルの隣に立つ。


「夫よ! 我の激情が、貴方の王権を世界に示したのだ! この勝利は、貴方を独占する我の愛の証明だわ!」


 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静な瞳に勝利の興奮を宿す。


「いいえ、王よ。貴方の理念は、論理的に見て最強の支配原理であることを証明しました。そして、私の理性的な愛は、この勝利を永続的な統治へと転換させる義務を負い続けますので…、わたくしと……」


 アクアの言葉を遮って、純白の調和聖女ルーナは、静かに光を放ち、凱旋の光景に慈愛の祈りを捧げる。


「ヒカル様。貴方の優しさが、人類と竜族の間に真の平和をもたらしました。私の光の献身は、この新世界秩序の精神的な支柱となりますわ! ともに2人の愛で世界を照らしましょう!」


 姫たちの間では、すでに次の戦争が始まっていたのを、ヒカルは背筋が凍る思いで聞いていたのだった。


 ◇◆◇◆◇


 帝都の中央広場には、10万人以上の領民と、人類連合軍、そして竜族の軍勢が密集していた。ヒカルは、竜族と人類の代表を伴い、巨大な演壇に立つ。


 ヒカルは、裏切りの過去を完全に乗り越えた、揺るぎない王の威厳と、胸の奥の優しさをもって、世界に宣言した。


「聞け、世界に生きる全ての者たちよ! 長きにわたる戦乱は終わった!」


 ヒカルは、広場の歓声が一瞬止まるのを待つと、静かに、しかし力強く続けた。


「私はかつて、愛する者を裏切られ、人間社会の憎悪の闇に絶望した。私の力は、その憎悪と復讐の炎で、この世界を焼き尽くすこともできただろう。」


 ヒカルは一瞬、言葉を区切り、背後の六龍姫を見つめた。特に、レヴィアとヴァルキリアの瞳が熱く輝く。


「だが、今、私は、その憎悪を超えた竜姫たちの純粋な愛によって、ここに立っている。その愛は、私を支配するのではなく、優しさこそが最強の力だと信じる勇気を与えてくれたのだ。」


「そして、私を再び立ち上がらせたのは、戦いを望まぬ、お前たち民の、平和への静かな希望だ!」


 ヒカルは、右手に持った剣を天に突き立てる。その剣には、竜姫たちの愛の魔力が宿り、荘厳な光を放っていた。


「故に、我々が築く新たな世界に、憎悪、裏切り、そして不当な支配は、二度と存在しない! 誰にも奪われない、優しさが護る自由な秩序こそが、この世界の真の理となる!」


 ヒカルは、人類と竜族の代表を指し示す。


「この統一は、力による征服ではない! 我々盟約軍が証明したのは、優しさが最強の力であり、絆が最強の兵器であるということだ!」


 ヒカルの言葉を受け、人類の信仰の権威である聖女クラリスが、光の魔力を高めて全土に布教する。


「憎悪は、魔族の毒です! ヒカル王の愛は、人間を裏切った過去の私自身の心を、光で浄化しました! 竜王の統治は、貴方がた人類の信仰を裏切るものではない! 竜族と人類の共存こそが、神が求めた真の信仰の形です!」


 人類側の政治的代表である皇太子レオナルドも、盟約軍への全面的な協力の意思を表明する。


「人類は、カインの狂気という誤ちを犯した。しかし、王の愛は、私という理性を信頼し、共に手を結ぶ道を示してくださった! 我々は、竜王の理念を、人類の義務として継承し、二度と憎悪を選ばないとここに誓う!」


 ヒカルの理念と、人類側の権威が完全に統合された瞬間、中央広場は狂喜乱舞の渦となった。


 広場を埋め尽くした民衆は、ヒカルの演説が終わりを告げるや、一斉に狂喜の声を上げた。


 地鳴りのような歓声が、広場全体を覆い尽くす。彼らが求めていたのは、支配ではなく、憎しみからの解放だった。


「真の王だ! 憎しみから解放された!」


 ある老人は杖を投げ捨て、歓喜の涙を流した。彼にとって竜族は憎悪の対象ではなく、希望の光となったのだ。


「竜族が、私たちを救ってくれた! 万歳、ヒカル様!」


 若者たちは、自らの拳を突き上げ、熱狂的に叫んだ。


「もう誰も裏切らない! 絆の力こそ、私たちの未来だ!」


 聖女クラリスの言葉に救われた信徒たちは、喜びのあまり地にひざまずいた。


「聖女様も認めた! 私たちの信仰は、この優しさのためにあったのだ!」


 ヒカルの演説と、人類側の権威が完全に統合された瞬間、全軍の士気は最高潮に達し、帝都全土から地鳴りのような歓声が上がった。


 その日から、統一された帝都全域は、七日間にわたる祝祭に包まれた。


 テラの献身的な兵站部隊が、領民に感謝の意を示す祝賀の食料を振る舞い、ルーナとクラリスが、光の魔力による治癒の儀式を街の至るところで執り行った。


 かつて戦乱と憎悪に満ちていた帝都は、優しさと希望という名の新たなエネルギーに満ち、老若男女が笑い、竜族の兵士と人類の兵士が杯を交わす、共存の奇跡が日常の光景となった。


 この平和の熱狂は、ヒカルの王権が武力ではなく、民衆の心という最も強固な基盤の上に築かれたことを証明していた。


 ◇◆◇◆◇


 凱旋の儀式と七日間の祝祭が終わり、司令部へと戻ったヒカルを待っていたのは、勝利の余韻に浸る間もない、王妃たちの激しい愛の主張であった。


 後日、無垢なる浄化使アウラによる報告では、凱旋パレードと演説を直接・間接的に視聴した民衆は、約30万人に達したと算定された。その結果、新王国の「統治正当性」という無形の資産は、論理的な最高値を記録した。


 紅蓮の激情竜姫レヴィアが、炎の魔力を噴き上げる。彼女の主張は、感情の優位性だ。


「夫よ! 最終決戦の成功は、我の最大火力あってこそよ! 論理アクアなど、敵を打ち砕いた激情の足元にも及ばないわ! 旧世界を征服した我の愛こそが、正妃の玉座を独占するべきよ!」


 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静な瞳でレヴィアを一瞥する。彼女の主張は、統治の永続性だ。


「レヴィア、貴女の感情的な独占は、統治の不安定要素です。王の宣言した新世界秩序は、絶対的な論理に基づいています。私の愛こそが、王国の永続的な安定を保証する頭脳。正妃の座は、王国の脳として、私が論理的に担うべき義務です」


 漆黒の忠誠竜姫ヴァルキリアが、静かにヒカルの背後に立つ。彼女の主張は、闇の防衛線だ。


契約者ヒカル。カインの裏切りという人類の闇から王を護ったのは、私の孤高の忠誠です。ルーナだけでは、王の魂の安息を護れません。王国の最も暗い部分を護れる愛こそが、真の礎となるのですわ!」


 疾風の遊撃竜姫セフィラが、軽やかな風と共にヒカルの周りを舞う。彼女の主張は、広報と情報戦の成功だ。


「団長! 凱旋パレードの宣伝効果は、私の自由な機動力と情報戦あってこそだよ! MVPにふさわしいのは、一番楽しい冒険を成功させた私の愛だよね!」


 磐石の守護龍テラが、テラナから渡された祝賀の余剰物資を抱え、静かにヒカルに近づく。彼女の主張は、揺るぎない母性だ。


「主よ。七日間の祝祭で、領民の心の安寧と物理的な生命線を護ったのは、わらわの母性の献身です。この地味で揺るぎない愛こそが、王国の真の柱。正妃の座は、わらわの愛が独占する義務があります」


 純白の調和聖女ルーナが、光の魔力を高め、ヒカルの精神に静かに訴えかける。彼女の主張は、精神的な調律だ。


「ヒカル様。王の理念を人類の心に布教し、精神的な支柱を確立したのは、わたくしの調律の光です。王の魂の安息を独占できる私こそ、正妃の座にふさわしいと、論理的に考えております」


 ヒカルは、凱旋の歓喜と、六龍姫の激しい愛の衝突という、二重の熱狂に包まれる。いや、凱旋の余韻など吹き飛ぶような6人6様の迫り方に、ヒカルはいつもながらではあるが、正直気圧されていた。


「静粛に、俺の最強の妻たちよ! 正妃の座は、今、この場で決定されるものではない! お前たちの愛は、次の魔王軍という最大の脅威との戦いで、その真の価値が裁定される!」


 ヒカルは、六人の姫の激しい愛の衝突の音色を、「絆の共感者」で聞きながら、内心で深く息を吐いた。


(カインの謀略は終わった。だが、俺の王の義務は、魔王軍という、人類と竜族の共通の敵という、最も大きく、最も非合理的な脅威へと立ち向かうことになる。正妃の座の裁定どころではない。まずは姫たちにそこを納得してもらわねば……。これは、ますます大変になるぞ……!)


 ヒカルの言葉は、愛の争奪戦の舞台を「統一後の内政」から「魔王軍との最終決戦(第3部)」へと移行させる宣言であった。


 王妃の座を巡る六龍姫のコミカルだが真剣な争いは、こうして「正妃」の地位を巡るものへと進化し、物語は次なる最大の脅威へと向かうのだった



【第94話へ続く】


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