第九十一話:魔人カインの嘲笑と愛の戦争(精鋭の衝突)
魔人カインは、悪魔と魔人化人類兵の軍勢を盟約軍との間に展開させながら、ヒカルに一対一の決闘を要求した。
「ヒカル! 貴様と私の因縁は、全軍の衝突で終わらせるべきではない! 貴様が裏切られた、あの王都の広場で、たった一人で私と決着をつけろ! 貴様の優しさが真実なら、愛する者を戦場に連れて行く罪悪感に打ち勝てるか、証明してみせろ!」
カインの要求は、ヒカルの心の最も深いトラウマを突く、最後の精神攻撃だった。カインの戦略的な狙いは、「一対一の決闘」という幻想で盟約軍のユニゾンを分断し、全軍の衝突で生じるノイズを、ヒカルの調律不能な領域まで高めることにあった。
アクアは、冷静な瞳でヒカルに視線を集中させた。
「王よ。カインの要求は罠ですが、王の理念を証明する象徴的な機会です。もしもの時は、私自らが盾となります。全軍の理性を信じて、決闘を受け入れてください!」
他の五龍姫も、アクアの決意に続いた。
「夫よ! 私たちの愛は、貴方の命よりも強靭だ!」
テラは、ヒカルの胸元にそっと唇を寄せ、静かにキスをした。
「主、わらわの命を、貴方の愛の盾としてお使いください」
他の姫たちも次々とヒカルの頬や額にキスを贈り、無言のまま決意と愛を王に捧げた。
「カインの要求、受け入れる! 貴様の憎悪を断ち切り、世界の秩序を護る王の義務として、この決闘を受ける!」
ヒカルは、六人の妻たちの命懸けの愛を受け止め、王としての孤独な決断を下した。そして、さらに続ける。
「しかし、これは決闘ではない。全軍の勝利を賭けた、戦略的な『囮』だ。六龍盟約軍の精鋭、カインの魔人軍勢を包囲し、総攻撃の準備を整えろ!」
ヒカルは、小さく振り返り、リリアの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「リリア。お前の愛は、俺の最後の盾だ。近接護衛として、俺に付き添ってくれるか?」
リリアは、ヒカルの頬にそっと触れ、涙を堪えながら微笑んだ。
「ヒカル様。私の静かな愛は、王の決断を尊重します。王室メイド隊長官として、王の近接護衛の責務を、命に代えても果たします」
◇◆◇◆◇
ヒカルは、リリアを近接護衛として伴い、因縁の帝都広場へと進み出た。広場の外郭では、盟約軍の精鋭がカインの魔人軍勢を包囲し、「愛」と「憎悪」を核とした精鋭同士の総力戦が始まった。
カインは、魔人化装甲を装着したまま、ヒカルとリリアの前に立ちはだかる。
カインは、ヒカルを見下し、再び下品な高笑いを響かせた。
「ハッハッハッ! ヒカル! 貴様は私の要求を無視したな! 貴様の『一対一の決闘』という美しい幻想を、自ら『全軍の総力戦』という泥沼に引きずり込むとは! 貴様の愛は、やはり裏切りと泥沼の論理に汚染されている!」
ヒカルは冷静さを保ち、静かに剣の柄に手をかけた。
「カイン。貴様が卑怯な手段で、私を帝都広場へ誘い出したことは、最初から計算済みだ。貴様との決着は、個人的な復讐ではない。貴様の狂気を断ち切り、世界を護る王の義務だ。貴様の醜い論理など、聞く必要はない。」
カインは、ヒカルの隣に立つリリアに視線を向け、その表情を憎悪で歪ませた。
「フン! 貴様が護るべきは、この女か! 貴様が裏切りに絶望し、谷底に突き落とした『脆い人類の希望の残滓』! 貴様は知っているか、リリアの愛は、貴様の愛を否定する論理的な結論でしかない。貴様が愛した人類は、貴様を裏切るだけでなく、貴様の愛を否定する狂信者を生み出すのだ!」
カインの執拗な挑発が、ヒカルの心に裏切りのトラウマを蘇らせ、ヒカルの指揮棒を握る手がわずかに震えた。
その時、リリアがヒカルの前に一歩踏み出し、カインをまっすぐ見据えた。
「カイン! 貴方の言葉は、憎悪に汚染されたノイズです! 私の愛は、貴方の『論理的な結論』など聞きません。ヒカル様が私を救ってくださった優しさこそが、この世界で唯一の真実です!」
リリアは、憎悪を込めた声でカインを断罪した。
「貴方が私を治療し、利用したことは知っています。命を救ってくださったことには感謝しますが、私のヒカル様への想いを利用した貴方の行為は、命を救った事実を以てしても償えない、最も卑劣で醜い論理です。私の愛は、貴方の狂信的な憎悪の道具ではない。貴方の愛なき論理は、ヒカル様の愛の前には、無力です!」
王室メイド隊の面々が、リリアの言葉に呼応し、地下施設の外壁から声を張り上げた。
「そうだ! リリア長官の言う通りだ!」
「カインめ、愛を汚すな!」
「長官の愛は、貴様の狂気には屈しない!」
リリアの、静かで強い、人間としての愛の否定が、カインの狂気を刺激した。
カインは、リリアの言葉に、「ば、馬鹿な! 人間の愛など、脆い幻想だ!」と、屈辱的な絶叫を上げ、遂に自らの卑怯な約束を破った。
カインは、魔人化装甲から凄まじい闇の魔力を解放し、ヒカルとリリア、そして後方の六龍姫たちへ向けて、無数の憎悪のエネルギー弾を叩きつける。
「約束を破るなど、私の論理では許されないが、愛なき論理は、愛に敗北するのだ! ヒカル! 貴様の愛の結末を、ここで見ておけ!」
カインの卑劣な総攻撃は、六龍姫全員が待機する後方へと向けられた。
「貴様は、人であることを捨てた!」
ヒカルは、カインの卑劣な攻撃と、魔人化という卑怯な手段を目の当たりにし、王の裁定を下した。
「カイン! 貴様が人であることを捨て、卑怯な手段を選んだ時点で、一対一の決闘は成立しない! お前が望んだのは、愛の証明ではなく、世界の破壊だ!」
「許さないわ、カイン! 貴様が王の愛を侮辱するのなら、我の炎の激情が、貴様を焼き尽くす!」
レヴィアの激情の炎が、ヒカルの心を守る「守護の情熱」へと昇華し、ユニゾン発動の機運が最高潮に達する。
【第92話へ続く】
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