表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は、六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~  作者: ざつ
第二部 人類統合戦争 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/102

第八十七話:王の安全マニュアル策定とマインドコントロールの終焉

 カイン包囲網『三本の矢』を完遂し、憎悪の残滓の掃討作戦を終えたことで、ヒカルは極度の疲労に晒されていた。この戦術的な疲弊に、六龍姫の調律の重圧も重なり、彼の判断力はわずかに鈍っていた。この状態こそが、カインの魔術的な最終謀略を誘発する引き金となった。


 盟約軍の司令部。執務室で、ヒカルの近接護衛を務める幼馴染で、王室メイド隊長官のリリア・シャイニングが、一枚の羊皮紙をヒカルの前に提出した。


「ヒカル様。王の御身の安全を護るため、王室メイド隊と協力し、『王の安全マニュアル』を策定いたしました」


 リリアは、明るい亜麻色の髪を揺らし、献身的な微笑みを浮かべる。そのマニュアルには、王妃たちによる愛の独占行動が、王の疲弊を招き、ユニゾンの安定性を乱す戦略的リスクであると、緻密にデータ化されていた。


「このマニュアルの核は、王妃様方の嫉妬によるユニゾン暴走リスクを、『公的な愛情表現』に変換する仕組みです。具体的には、週末の当番制の前に、王妃全員に対し、王への『公衆の面前での五秒間の抱擁』を義務付けます。これにより、私的な嫉妬のガス抜きを行い、愛の調律を安定させます」


「ちょっと待った、リリア。公衆の、部下たちの前でか!?」

「ん? 何か問題ございますか? これまで私も含めた面前で何度も王妃様方とキスされていたではありませんか?」

「……た、確かに」


 リリアは幼馴染と言う立場を最大限に使って捲し立てた。


「だいたいヒカル様は女心が分かっていらっしゃらなさすぎますわ。レヴィア様があれだけお怒りになる理由はお分かりになられて?」

「それは、彼女の武功の……」

「あーもう。それです! レヴィア様もアクア様も、皆様、王であるヒカル様のお役に立ちたい。でも、それ以上に『私を見てほしい』だけなのです。そしてそれを周りにも認めさせたいの!」


 リリアの提案は、愛の奔流という非合理を、軍の規律という論理で制御しようとする、彼女らしい静かな献身の形だった。


「な、なるほど……リリア。お前の愛は、軍師だった俺の知性にも勝る。このマニュアルは直ちに採用する」

「ええ、これは半分はリリアからのお願いなのです。ヒカル様には幸せになっていただきたいのです!」


 ヒカルは、疲弊した表情を浮かべながらも、リリアの知恵と忠誠心を心から信頼していた。


 だが、その次の瞬間、リリアの表情から一切の光が消え、瞳の奥に、かつてカインと同じ種類の狂信的な光が宿る。カインの暗号シグナルが、リリアの心に埋め込まれた「人類存続のための狂信的な忠誠心」のスイッチを入れていたのだ。


「いいえ、ヒカル様。貴方の優しさこそが、この世界を滅ぼす毒なのです。あなたこそが世界のほころびの元なのです」

「おい、リリア。一体何を言っているんだ!?」

「カイン様のお導きこそが、人類を救う唯一の真実の光なのです。貴方の愛は、偽りです」


 リリアはそう呟くと、迷いなくヒカルの心臓めがけて、腰に隠し持っていた暗器を突き刺そうと飛びかかった。


 ◇◆◇◆◇


 リリアの「裏切り」は、ヒカルにとって、かつてカインに裏切られた時よりも、遥かに深い絶望をもたらした。彼の「優しさが最強の力」という信念の根幹を成す、唯一信じた人間からの裏切りだったからだ。


「リリア…まさか、お前まで、俺を裏切るのか!」


 ヒカルの優しさへの信頼が、彼の全精神を崩壊寸前に追い込んだ。その衝撃で六龍姫からの愛のユニゾンが唐突に途切れる。


 しかし、リリアの暗器はヒカルに届かなかった。


 紅の髪のフェンリア(炎のメイド)が、リリアとヒカルの間に炎の魔力を叩き込み、その動きを一瞬止める。


「リリア長官が…本気で、私たちを殺しに!? 一瞬の躊躇が命取りになるわ…!」


 フェンリアの叫びは、『信頼している上官を攻撃する』というメイド隊全員の精神的な隙を露呈させた。


 リリアはその一瞬の躊躇を見逃さなかった。本来なら人であるリリアが精鋭の竜であるメイド隊と渡り合うことなどあり得ない。それくらいの戦闘能力の差があるはずである。


 だかしかし、彼女の体術は竜族の力による戦闘力では表せない領域にある。炎の魔力の僅かな隙を縫い、司令部の家具や壁を足場として高速で跳躍し、邪魔者の排除へと動く。


 テラナ(土のメイド)とルナリス(闇のメイド)が、瞬時に第二波の防御に入った。


 テラナは、リリアの足場に土の障壁を瞬間的に展開し、その動きを物理的に封じようとするが、リリアはまるで最初からそこにはいなかったかのように、土の障壁をわずか一寸で回避し、既にヒカルの射程圏内にいる。


 ルナリスは、闇の暗器術でリリアの暗器を弾き飛ばしたが、リリアは体術で体勢を捻り、弾かれた暗器の反動を利用してさらに加速した。


「王の行動は論理的に予測可能!」


 水のメイド、アクアリーヌが、暗器の軌道を読み解き、王の避難経路へ向けて水流の結界を張る。


「ヒカル様の逃げ道の確保をお願い!」


 風のメイド、ウィンドラが、窓の外へ高速の気流を発生させ、王の避難ルートを確保する。


 メイド隊全員の「王を護る使命」が、「長官への信頼」をかろうじて上回り、リリアの動きを『制圧』ではなく『限定的な拘束』に留めていた。


「メイド隊! 全員、第二警戒態勢! 王の絶対防御を!」


 この瞬間、闇の竜姫ヴァルキリアと光の竜姫ルーナが執務室に駆けつけた。


「なにが起きている!?」

「ヴァルキリア様、ルーナ様! リリア様が急に……」


 二人の王妃は、リリアの眼に、狂気を即座に感じ取った。カインの最後の謀略を感知した二人の対極の王妃が、王の絶望を前に、愛の調律を決断する。


「カインの仕業ね……」

「ええ、相変わらず姑息な手を使いますわ……」


 ルーナは、珍しく苛立ちを隠さなかった。彼女は、このようなカインの卑劣な策略を心の底から毛嫌いしていた。


「ヴァルキリア姉さま。闇の力で、魔術的な支配の『憎悪の和音』を断ち切ってください! 私の光の調律が、その闇を浄化し、リリア殿の魂の安寧を取り戻します!」

「ルーナ。貴様の光の献身は理解した。闇は、憎悪を断ち切るためにある。我が闇の力に、貴様の光の魔力を添えろ。『愛の解放の和音ユニゾン』を叩き込む!」


 ヴァルキリアとルーナは、その場でユニゾンを発動させた。メイド隊全員が、ユニゾンの補助に徹する。テラナは「土の魔力によるリリアの肉体の固定」を、ルナリスは「闇の魔力による精神的な魔術の解析補助」を継続。メイド隊は、ユニゾン補助という最高の忠誠を示した。


 ヴァルキリアの闇の魔力とルーナの光の魔力が融合し、リリアを優しく包み込む。かつてヴァルキリア自身を古王の呪いから解放した「解放のユニゾン」の光が、リリアの瞳の狂信的な光を打ち消す。


「う、あ……ヒカル…様……」


 リリアは、意識が正常に戻ると同時に、自身が王を暗殺しようとした事実に絶望し、その場で崩れ落ちた。彼女の頬には、涙が伝っていた。


 ヒカルは、崩壊寸前だった精神を、メイド隊とヴァルキリア、ルーナの「光と闇の調律」によって辛うじて繋ぎ止められた。彼は、リリアの肉体的な裏切りよりも、彼女を信じきっていた己の優しさの敗北に、深い絶望を覚える。


「リリア。俺は、お前を、信じている……。そして、俺はカイン、お前を許すことは絶対にない……」


 王を護るメイド隊の忠誠のユニゾン補助と、リリアの心に宿る真の愛が、カインの最後の謀略を論理的に打ち砕いた瞬間だった。しかし、ヒカルの心には、人間への不信という、決して消えない深い傷が刻まれた。


 こうして、カインの最後の切り札は尽きた。ヒカルは、深い絶望と傷を抱えながら、彼の潜伏先である王都地下の旧教団施設へ向かう最終決断を下す。



【第88話へ続く】


ぜひご感想をお寄せください。

また評価とブックマークもしていただけると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ