マーレちゃん
朝陽と共に外に出る。
俺がいた建物は大地に生えたかのような作りのツリーハウスだった。
周りはサッカー場のような芝生の広場になっていて、その外は鬱屈とした森だった。
朝陽が住んでいるという場所は森の中なのに、まるで切り離された空間のように整備されていた。
「さて、始めようか」
「えー」
「まずは、魔力操作。君の得意な魔法は、液体金属だ」
「すげえ、ピンポイントだな。でもかっこいい」
「さて、時間がない。ビシビシ行くよ」
それから、魔法技術から体術まで、教わっては即実践を朝日と繰り返し一ヶ月がたった。
朝陽の歳はわからないが、見た目は若い。
俺もやりたい盛りの高校生だし、手を出そうかとも思ったが、朝陽曰く私に勝てたらいいよとのことだ。
そう言われても朝陽は俺の100倍くらい強いので、勝てる気がしない。
そんな相手に無理矢理などできるはずもなく、健全な日々が流れた。
「さてそろそろ最初の実践。約束通り悪魔でいこう」
「くだらねえこと覚えてやがるな、師匠は」
「君にとってはかなり強い悪魔を召喚するつもりだから、5分粘ったら終わりでいいよ」
「おっかねえな。死にたくねえんだけど」
「大丈夫。神の加護があるから、そう簡単には死なないよ」
「本当かなー。確かに、師匠にやられて腕がとれても治ったけど。」
初めて腕がとれたときは驚いたが、痛覚を操作するすべも覚えたので今ではそれなりに慣れた。
慣れって恐ろしいな。
「では、いでよ。マーレちゃん」
「マーレちゃん?」
朝陽が掲げた手のひらが漆黒に包まれ、その闇の中から一人の少女が現れた。
漆黒のミニスカドレスのツインテール美少女。
男の妄想を詰め込んだ見た目と言っても過言ではないが、禍々しいオーラを放っていた。
「ひええ、、、あ、あんたは」
「私は、朝陽ちゃんだ。よろしくな」
「よろしくなじゃないわよ。あんたが何のようなのよ」
「ふむふむ。私を知っている奴だったか。まあいいや。そこにいる男を5分以内に殺せ。さもなくば殺す」
「ええええ。しょうがないな。やるか」
「マジかよ」
マーレちゃんが殴りかかってくる。
俺はなんとかかわすと、魔力で液体金属を生み出す。
まだ繊細な操作はできないので、不格好な剣にした。
両手に大剣を持つなど普通はあり得ないが、この世界では魔力で肉体を操作する技術、通称体術があるので問題ない。
剣を持ったまま、アクロバティックに動き回って相手を倒す。これが今の俺のスタイル。
師匠に鍛えてもらったので、元の世界ではあり得ない超高速の戦闘にもついていけた。
俺とマーレちゃんはほぼ互角。
素手で俺の剣を弾くマーレちゃんは恐ろしいが、致命傷になるような攻撃は受けていない。
これなら5分耐えるくらいはいけそうだ。
「思ったよりやるわね。じゃあ、いくわよ。マーレちゃん2倍」
文字通りマーレちゃんは二倍の大きさになった。
ただ2倍になっただけなら恐るるに足らないというのが漫画などのお約束だが、マーレちゃんは一味違う。
物理法則を無視してくる。いや、むしろこれが正しい物理法則なのだろうか。
身体が二倍になったら、速さも二倍になった。
重さは2乗倍、4倍だ。エネルギーはスピード×重さ。
さっきまで互角だった俺がかなうはずのない化け物だ。
考えるまもなく、一方的にボコボコにされた。
肉体が完全に壊れないよう、液体金属で身体を内部と外部からコーティングした。
あとは、神の加護で再生し続ける。
痛覚を遮断しているので痛みはないがつらい。
死ぬほどつらい。
魔力がある限り生きていられるが死にたくなってきた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおお」
死の淵で覚醒した俺は、体術が向上し、マーレちゃんの動きを見切って脳天に剣を叩きつけた。
頭に剣が突き刺さっていったんひるんだマーレちゃんに追撃をたたき込み続ける。
マーレちゃん2倍匹敵する速度の攻撃をできるようになったが、依然としてパワーの差は歴然。
ひるんで防戦一方のマーレちゃんに反撃の隙を与えたら、俺はもうだめだ。
ぼろぼろの肉体で隙のない攻撃を絶え間なく、浴びせ続ける。
これだけ全力でやっていたら5分持つかわからない。
そんな不安を覚える暇もない。
ひたすらに攻撃を繰り出すが、全く時間が進んでない気もする。
「マーレちゃん4倍」
マーレちゃんは元の4倍の大きさなった。
単純な計算で速度4倍、重さ16倍。
全力で魔力を注ぎ込み、身体を備える。
巨大な拳が一瞬で炸裂。
防御に回した手足がすぐに引きちぎれたが、気にしている場合ではない。
命をつなぐことだけに全力を投じて液体金属で肉体の補強、神の加護で再生をした。
思いっきり吹き飛ばされ、後方の木々をなぎ倒しながら森に飛んでいった。
ようやく止まった俺は、丸太状態で生きているのも不思議な身体だった。
もうどうにか命をつなぐ魔力しか残っていない。
痛覚のコントロールどことか意識も保てなそうだ。
いくら神の加護があってもこれはダメかもしれない。
「おお、生きてるね。及第点かな。回復できそう?」
朝陽が軽い声で言ってくる。
「で、、、できない、、、」
「ふむふむ、そっかー」
朝陽が魔法を発動すると、栞の身体は一瞬で回復した。
「私の育成計画はやっぱり完璧だね」
「どこがだ!死にかけたわ。あいつはどうしたんだ?」
「ああ。マーレちゃんのこと?帰ってもらったよ。死にかけってことはちょっといいギリギリを攻めてたってことだよね」
ケラケラ笑いながら話す朝陽は、マーレちゃんよりよっぽど悪魔だった。




