3.冒険者への第一歩と運命の出会い
三日間の徒歩の旅を経て、リリア・メルローズはついに宝石都市エメラルドの城門前に立っていた。
朝陽が街の建造物に当たると、街全体が虹色に輝いた。エメラルドグリーンの尖塔が天に向かって伸び、その表面には無数の小さな宝石がちりばめられている。
城門をくぐった瞬間、リリアの足が止まった。
「すごい...本当にお伽話の世界みたい」
目の前に広がる光景は、故郷の小さな村では想像もできない華やかさだった。大通りを歩く人々の肌は陶器のように滑らかで、髪は絹糸のように艶やかに輝いている。美容魔術によって磨き上げられた美しさが、そこかしこに溢れていた。
みんな、こんなにも美しいのか。リリアは驚愕の想いで行き交う人々を見つめた。
自分の服装を見下ろすと、故郷から持参した質素な旅装は洗いざらしで色褪せている。周囲の人々が身に纏う煌びやかな衣装と比べると、まるで場違いな存在のように思えた。
すれ違う美女の一人が、ちらりとリリアを見て小さく眉をひそめた。その視線に込められた軽蔑的な感情を敏感に察知し、リリアは思わず身を縮こまらせた。
やっぱり、私なんかがこんな場所に来るべきじゃなかった。心の奥で後悔の念が頭をもたげる。でも、もう引き返すことはできない。故郷には何も残っていないのだから。
街角では美容魔術の実演が行われていた。美容魔術師が杖を振ると、通りすがりの女性の肌が瞬時に輝きを増し、髪がサラサラと美しく流れるようになる。見物客から歓声が上がり、拍手が響いた。
香水店からは甘くて高貴な香りが漂い、宝石商の店先では美容魔術の触媒となる鉱石が美しく陳列されている。ルビーやサファイア、エメラルド——数え切れないほどの宝石が、陽光を受けて七色に煌めいていた。
あんな高価な宝石を美容魔術のために使うなんて。一つ一つの宝石が、リリアの故郷では一年分の生活費に相当するほど高価だった。美の追求にかけるエメラルドの人々の情熱と財力に、リリアは圧倒された。
でも、同時に心の奥で燃えるような決意が湧き上がった。この街の美しい人々を見れば見るほど、自分も彼女たちのようになりたいという想いが強くなる。トムを見返すためでも、ローザに勝つためでもない。自分自身のために、この街で美しく、強い女性になるのだ。
ここで私は変わる。絶対に美しくなってみせる。
リリアは背筋を伸ばし、足を前に進めた。今はまだ場違いな存在かもしれない。でも、いつかきっと——自分もこの街の美しい女性たちの一人になってみせる。
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「黄金の天秤」は、エメラルドの中央広場に面した巨大な建物だった。
黄金で装飾された看板には、天秤のマークが燦然と輝いている。重厚な扉を開けて中に入ると、受付嬢の美しさにリリアは息を呑んだ。
完璧に整った顔立ち、艶やかな金髪、そして透き通るような肌——間違いなく高価な美容魔術を施している。
こんな美しい人が受付をしているなんて。さすがエメラルドね。リリアは改めてこの街の格の違いを感じた。
「新人登録をお願いします」
リリアが声をかけると、受付嬢は愛想良く微笑んだ。
「はい、こちらの書類にご記入ください。ご出身は?」
「ローズヴィル村です」
「あら、随分遠くから!冒険者を目指すきっかけは何ですか?」
リリアは一瞬言葉に詰まった。本当の理由——幼馴染にフラれたから、美しくなりたいから——なんて言えるはずもない。
「強くなりたいんです。そして...いつか『ヴィーナス・ティアーズ』のような素晴らしいパーティーに加わりたくて」
受付嬢の目が輝いた。
「ヴィーナス・ティアーズ!私も大ファンなんです。彼女たちは本当に美しくて強くて...憧れますよね」
この街では、ヴィーナス・ティアーズは本当に有名なのね。リリアは実感した。
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そんな話をしていると、ギルドの扉が大きく開いた。
「お疲れさまでした!」
受付嬢の声が一際明るくなった。リリアが振り返ると、そこには——
五人の絶世の美女が立っていた。
先頭を歩くのは、長身で凛とした美しさを持つ女騎士。完璧なプロポーションを包む騎士装束は、胸元や腹部、太ももが大胆に露出したデザインで、まるで舞踏会のドレスのように華やかだった。その露出した肌は、美容魔術で磨き上げられ、一分の隙もなく輝いている。
続くのは、銀髪のエルフの魔術師。見た目は二十代前半だが、その神秘的な青い瞳には深い知性が宿っている。透けるような薄い素材のローブは、肩や背中、脚線美を惜しげもなく露わにし、動くたびに布がひらめいて磨き上げられた肌が視線を奪う。
三番目は、柔らかな金髪の僧侶。清楚なローブを身につけているが、袖は短く、スカートには深いスリットが入って健康的な太ももや腕が露わになっている。清純さと大胆さが同居した独特の魅力を放っていた。
四番目は小柄な盗賊。赤みがかった茶髪といたずらっぽい瞳が印象的で、ショートパンツと腹部の開いたトップスという露出度の高い軽装に身を包んでいる。動きやすさと美しさを両立させた完璧なスタイルだった。
そして最後に——健康的な美しさと親しみやすい笑顔を持つ女戦士が続いた。彼女の鎧は胸当てと肩当て、腰当てのみで構成されており、鍛え上げられた腹筋や二の腕、太ももが大胆に露わになっている。しかし、その露出した筋肉は美容魔術で引き締められ、健康的な輝きを放っていた。まさに「美しい戦士」の名にふさわしい装いだった。
リリアは息を呑んだ。
これが、これがヴィーナス・ティアーズ。リリアの心が震えた。
「ヴィーナス・ティアーズの皆さん、お帰りなさい!」
受付嬢の声に、ギルド内がざわめいた。他の冒険者たちが一斉に振り返り、憧れの眼差しを向ける。
「今日も秘色の地下宮殿から素晴らしい素材を持ち帰りました」
女騎士——セレスティアが、涼やかな声で報告する。その声の美しさにも、リリアは魅了された。
五人が受付で手続きをしている間、リリアは見とれるように彼女たちを見つめていた。これが『ヴィーナス・ティアーズ』。美と強さを兼ね備えた、彼女の憧れのパーティー。
いつか私も、あんな風に美しくなりたい。憧れの想いがリリアの胸を満たした。
「君も冒険者志望かい?」
突然声をかけられ、リリアは慌てて振り返った。声の主は、がっしりとした体格の中年男性の冒険者だった。
「あ、はい。今日登録したばかりです」
「そうか。なら忠告しておくが、あの五人に憧れるのは構わんが、真似だけはするんじゃないぞ」
「え?」
「あの露出度の高い装備を見ろ。普通なら防御力が心配になるところだが、彼女たちはその装備でも戦える実力があるから成り立つんだ。見た目だけ真似して死んだ新人を何人も見てきた」
男性の言葉は重く、リリアの胸に響いた。美しさだけでなく、それを支える実力。改めて、『ヴィーナス・ティアーズ』の凄さを思い知る。
やっぱり、見た目だけじゃダメなのね。強さも必要——。リリアは改めて現実を認識した。