2.美への憧憬と決意の瞬間
一人きりの家に帰ったリリアは、鏡の前に座り込んだ。
そばかすだらけの肌、特別美しいとは言えない顔立ち、平凡な茶色の髪。エステリア王国では美しさが全てだった。美しい者が愛され、美しい者が幸せになる。それが現実だった。
「どうして...どうして私は美しく生まれなかったの?」
涙がぽろぽろと落ちる。亡き母が作ってくれた大切なドレスに染みを作りながら、リリアは泣き続けた。
両親を疫病で失って三年。トムとの約束だけが、リリアの生きる支えだった。それも今日、脆くも崩れ去った。もう彼女には、この村に残る理由は何もない。
その時、記憶の奥から一つの名前が浮かび上がった。
「ヴィーナス・ティアーズ...」
エステリア王国で語り継がれる伝説の美女パーティー。ただ美しいだけでなく、圧倒的な強さを持つ五人の女性たち。彼女たちは美容魔術に莫大な投資をして、自らの美しさを極限まで磨き上げているという。
そして何より——彼女たちは自分の力で美しさを手に入れていた。
リリアは涙を拭い、立ち上がった。
鏡に映る自分を見つめながら、固く拳を握った。
「私は変わる。絶対に美しくなる」
美容魔術には莫大な費用がかかる。そのためには冒険者として成功し、高額な報酬を得なければならない。危険で困難な道のりになるだろう。
でも、それでも——
「いつか私も、ヴィーナス・ティアーズのように美しく、強い女性になる」
窓の外では、エステリア王国の首都である宝石都市エメラルドの方角に、夕陽が沈んでいく。その光を見つめながら、リリアは心に誓った。
トムを見返すためではない。ローザに勝つためでもない。
自分自身のために。自分の人生を、自分の手で掴むために。
翌朝、リリア・メルローズは故郷ローズヴィル村を後にした。
両親の形見と僅かな所持品を詰めた荷物は軽かったが、心に抱いた決意は何よりも重く、そして強かった。
目指すは宝石都市エメラルド。夢は冒険者として成功し、美容魔術で真の美しさを手に入れること。
そして最終的には——ヴィーナス・ティアーズのような、美しく強い女性になることだった。
村の入り口で振り返ると、トムとローザが手を繋いで歩いているのが見えた。
リリアはもう涙を流さなかった。代わりに、燃えるような決意を胸に、未知なる冒険の世界へと歩みを進めた。
いつか、いつか私も誰もが振り返るような美しい女性になってみせる。リリアは心の奥で強く誓った。
朝陽が、新たな人生へと歩み出すリリアの背中を照らしていた。




