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「ねぇ、大丈夫?」

「……うー……」

 机に突っ伏す俺の背中を、隣の高木さんが擦ってくれていた。

 昨晩の懇親会は、一人酒の寂しさに即悪酔いしたフレイ氏が自らのみ参加する自慢大会を始め、続いて服を脱ぎだし、それを止めるのに四苦八苦していると終いにはテンション上がりまくってガチアルコールを未成年にまで無理矢理飲ませ始めるという最悪の展開になり、それから十数時間が経過した現在、俺は絶賛グロッキー状態だった。

「あのナルシー野郎……」

 静止するべきはずの大人であるフレイ氏が学徒に酒を勧め、挙句明けた今朝はその一切の記憶を無くしているという始末。

 こちらが必死になって顧問の公然わいせつ罪を未然に防いでやったというのに、それすら欠片も憶えていない。

 本当に性質が悪い。

 それにしたって、今朝チラッと見たちづるさんがケロッとしていたのには驚いた。昨日は俺以上に飲まされていたはずなのに。

 今思い返してみると、お開きまで顔色一つ変わらなかった気がする。保宜なんて口をつけた瞬間に真っ赤になってトイレに駆け込んだのにな。

「昨日、大変だったの?」

「……そりゃあもう」

「そう言ってる割に満足そうな顔してるんだけど、それってどういうことかな」

「どういうことなんだろうな」

 なんて言いあっていたら背後から、ゲンナリしたような声が掛かった。

「おはよう。朝からお熱いね、お二人さん」

「な、何言ってるのよ加藤君!」

「やーやー赤くなっちゃって。ごちそうさまです」

「……なぁ虎之助。その朝から熱い俺の想いが今にも口から飛び出しそうなんだが、お前にぶつけてもいいだろうか」

「空気ブレイカーだねサタン君!」

「誰のことだよサタンって」

「佐田君以外に誰がいるの? 佐田、さだ、さた、サタン。……ど、どう!?」

「それはフリだと考えてもいいんだよな」

「え、何の?」

「サタンって、RPGとかでも結構色々吐いてるよな。なんちゃらブレスみたいなの」

「本気がビシビシ伝わってくるね。止めて」

「そうか、残念だ」

 虎之助を加えての他愛もない談笑。俺も喋っているうちにグロッキー状態から抜け出せてきた。

 授業の開始時間も迫ってきた。この時間になると急に教室内の人も増えてきて、大学生活初めての授業が始まるという実感が一気に込み上げてきた。

 記念すべき最初の授業は『植物論』。内容を見るに高校までの『生物』でやった範囲と大差ないようだったが、『論』とつくと途端に大学らしくなる。

 いよいよ、チャイムが鳴った。

 柄にもなく背筋などを伸ばしながら、教師の登場を待つ。

 そしてガラガラとスライドドアを開く音と同時に姿を見せた人物に、教室が固まった。

 特に、俺の隣に座っていた高木さんなどは『カチーン』という効果音が聞こえそうなほどに全身を硬直させていた。呆然といった具合に近い、魂が抜けたような現の抜けっぷりだった。

「どうも皆さん。お元気?」

 ……元々お元気でなかった上に、あなたの登場で益々お元気でなくなりました。

 教壇に登ったのは、資料で確認しておいたこの授業の担当教員とは違う人。

 更に言えば、俺の隣で見事な石灰柱となっている高木さんに言い寄ってきた男たちを、一人残らず社会の掃き溜めに追放してきたという慈悲なきエクスキューショナー。

 烈火の如く燃え盛るシスコンお姉さんにして、この大学の学長。

「……俺、消されるのかな」

 高木晴香が、そこにいた。

「ご愁傷様だね」

 一つ後ろの席に座っていた虎之助が、慰めるように俺の肩を二度叩いてきた。隠そうともしない含み笑いは腹が立つ。

「少しの間だったけど楽しかったよありがとう」

「棒読みは止めてくれ」

「だって、感情を押し隠してないと涙を催しちゃいそうで」

 笑いの間違いだろう。

「まぁとりあえず、さようなら」

「泣きそうな割に最後はあっさりしてるんだな」

「僕のせめてもの強がりだよ」

 自分で言うところが何とも何とも。

 そんな遣り取りを取り繕った表情でする俺だが、内心ではピューピュー寒風吹きすさぶ心象風景。

 隣から伝わってくる固い空気もあって、俺も一緒にカッチコチになりそうだったが、その一歩手前でお隣さんが茫然自失状態から復帰した。

「な、何でお姉ちゃんが……?」

「……俺を亡き者にしに来たんじゃないか?」

「……、…………」

 否定はしてくれないのね。

 そんなこんなで俺が絶望していると、

「『植物論』の担当だった岩倉先生が産休ということで、急遽私が受け持つことになりました」

 産休なんて急に決まるものでもないと思うんだが、そこのところどうだろう。

 それ以前に、岩倉先生は男だ。

 岩倉先生が身包み剥がされて荒野のような何も無い場所に転がされている、嫌な想像だけが膨らんでいく。

「この『植物論』も、私なりに進めていきますので、そこのところよろしく」

 その『私なり』の方向性が未知なのでは、よろしくされがたいのですがね。

「それでは早速、授業を始めたいと思います」

「………………」

「返事は?」

「…………はーい……?」

 予想以上に面倒くさい人らしい。

 しかし。その面倒くささが凝集されていたのは、この直後のセリフだった。

「それでは、行ってらっしゃい」

「は?」

 生徒全員の頭上に?マークが浮かんでいたことだろう。いろいろ端折り過ぎだ。

 訊ねたくても訊ねられない空気の中、教室にいる全ての人の中で最も学長と親しいであろう高木さんが、思い切って手を挙げた。

「せ、先生」

「どうしました、高木さん?」

「行く……というのは一体、どこへでしょう?」

「探検に決まってるじゃないですか」

 探検とな。どうやら俺の公開処刑ではないようで、ひとまず一安心。

「皆さんは大学に入学したてで、構内の棟の配置や教室の位置などまだ分かっていない部分も多いことでしょう。なので、この時間を使って存分に構内を探検してもらおうと思います」

 意外とマトモな提案だった。

「ただし、私の指定したチェックポイントを通過しないといけません」

 余計なオプションが付かなければ、な。

「これから皆さんに、一枚の地図を渡します。そこに複数示されている構内のチェックポイントにちょっとした小物が人数分置いてありますので、それらを持ち帰らないといけない、というルールです。時間以内に戻って来れなかったり、小物を持って来れなかったりした場合、例え期末テストでいい点を取っても単位はあげられませんので悪しからず」

 最後の一言はいけない。

 高校まではあまり馴染みのなかった『単位』という単語とは、大学生がこれを取った逃したで一喜一憂する禁断のワードであることを、俺は理解している。

 すなわち、昨日付けで大学生となった俺だって、それに一喜一憂する人種になったということに他ならない。

「皆さん頑張ってください。ちなみにこの授業…………『必修』、ですからね」

「…………!」

 必修。それは単位という禁断のワードの中でも最も忌むべきもの。

 これを逃せば留年確定という、禁忌のスペルだった。

 記念すべき大学生初授業の単位であり、しかも一年次から留年の危機とあっては、生徒たちの起こすアクションなど、火を見るより明らかだった。

 一様にシュタッと席を立つ。血相を変えて学長の下から地図を引っ手繰ると、瞬く間に教室から駆け出していった。

 出遅れてしまったのは、俺、虎之助、高木さんの三人。他の同級生は綺麗さっぱり教室から消え失せていた。

「……とりあえず、俺らも行くか」

「……そうだね、佐田君」

「……僕、また巻き込まれポジション?」

 恐る恐る教卓に近づき、教卓上にある地図を掴もうと手を伸ばす。

 予想していたような暴力イベントも起こらず、シスコン学長という関門を無傷で突破することができたのは僥倖だった。

 なぜか抜き足差し足で教室を退出しようとする俺たち三人。ドアに手を掛け、ようやくこの微妙に張り詰めた空気から抜け出せる――

 ――と、安堵の息をついたその瞬間。

「佐田彦名君、といったかしら」

 ビクゥッ!! と背筋が伸びた。

 背後から、高木晴香学長の御声が掛けられたのだ。

 俺一人、名指しで。

 錆びの回ったブリキのようにぎこちない動きで、振り返る。

 どこかで見たことのある気がする種類の笑顔を浮かべた妹大好きお姉ちゃんが、こちらへ目を向けていた。

 その表情のまま、再び口を開く。

「妹のこと」

 キタ――――――!!

「……な、何でございましょう?」

 下手に出てしまうのも生物の生存本能からして無理からぬことだったように思う。

 それでも次にどんな辛辣な罵言が俺に浴びせかけられるのか半ば覚悟しながら、待つ。

 しかし、その口から発せられた言葉の続きは、俺にとって意外なものだった。

「よろしく頼むわね」

 苦笑に顔を歪めながら、そう言ったのだ。

 それは何だか……そう、妹のことを真っ当に心配する姉の顔で、聞いていた印象と丸っきり違う表情に面食らってしまう。

 俺が呆然としていると、学長はシッシと追い払う仕草をする。

「早く行きなさい。君はきっと、他の人よりも時間が掛かるわ」

 虎之助に肩を掴まれることで現に復帰した俺は、最後の学長の言葉に首を捻りながらも教室を出る。後にはちゃんと、どうしてかムスッとした顔の虎之助と、頬を赤らめた高木さんが付いてきていた。

 しかし、かく言う俺は、今どんな表情をしているのだろうか。緊張しすぎて凝り固まった表情筋のせいで、自分で自分の表情が把握できない。

 でも。少なくとも気分的には悪い表情でないことだけは確信できる。

 俺の大学生活の先を閉ざしていた暗雲が一つ、晴れたのだからな。



 構内ですれ違う園芸学科生も複数人で固まって動いていたので、三人でいる俺たちも特に問題ないだろう。

 とりあえず、それぞれ受け取った地図を広げてみる。

「第一チェックポイント、構内南西にあるグラウンドのベンチ、か」

「第二チェックポイントは、構内南東にある四号棟の屋上だって」

「第三チェックポイントなんて、構内北にある学食のカウンター下とか書いてあるよ」

「綺麗に三つ隅っこに配置しやがって」

「これ、意外と時間かかりそうだよね」

「僕、留年とか嫌だよ」

 文句たらたらと垂れ流しながら、それでも足を止めることなく第一チェックポイントへと向かっていった。

 大学での一単元は九十分。高校に比べたら欠伸が出るほど長いといっても、今回に限っては、その間に構内三箇所に設置されたチェックポイントを回らなければならないのだ。あまり悠長に構えてもいられない。

 という訳で、第一チェックポイント。当大学のグラウンド。

「ベンチベンチー……」

「あっ、あれじゃない?」

 高木さんが指差す先に、確かに真新しい木製のベンチがあった。ビー玉のようなものが入った籠が、そこに置かれている。あれが学長の言っていた小物とやらだろうが、籠の中の残りは三個。教室を出た時間を考えれば当然だが、俺たちが最後のようだった。

「ともあれ、第一チェックポイントクリアだね」

 虎之助が息を弾ませている。同じくささやかな喜びを分かち合いたい俺だったが、しかしここに来てから、妙な気配を感じてならなかった。

「? どうしたの?」

「……いや」

 何だこれ。何かに引き付けられるような妙な感覚。おまけに何者かにジーッと見つめられているような不気味さまで付属している。

 傍から見れば、特に目に止まるものもない場所でキョロキョロしている俺の方が奇妙に映るだろう。しかし、この生暖かく背筋を撫でられるような感覚の正体を確かめることが俺にとっては現在の最優先事項だった。

 ふと。

グラウンド横の雑木林の中に、何か異質の色がチラッと見えた気がした。

「あ、ちょっと佐田君?」

 高木さんの戸惑うような声を置いて、そちらへと歩みを進める。

 下草をザクザクと踏みしめ。彦生えの枝を払い除け。

「あ…………」

 見つけた。

「ねぇちょっと、どうしたの……って」

 俺が発見したものを高木さんも見、そして同様に息を詰めた。

 そこには、小さな祠があった。

 本当に小さい、成人男性なら腕の中に収められてしまえそうなサイズの祠。

 なのに、その存在感は確かなものだった。

 初詣などで大きな神社に行った際に感じる、空気が冷たくなったような、もしくは張り詰めたような感覚。

 喉がひりひりする。

 神仏など信じていない人間でも感じ取ってしまう、畏敬の圧迫感。

 それと同様のものが祠から発せられており、気付くと俺は、その祠に向かって深く一礼していた。

 葉群を踏む音に頭を上げれば、高木さんが祠に近づき、中を覗き込んでいた。

「えーっと、『奉納・稲荷大明神』……? これって……」

 と言ったかと思いきやバッと振り返り、胡乱な目で俺をじーっと見つめてくる。

「な、何だ?」

「佐田君」

「はい!」

「猿って好き?」

「はい?」

「猿にシンパシーとか感じちゃう?」

「いや特には」

 感じる人間がいたら見てみたい。きっと猿顔だ。

 高木さんの理解に窮する言葉の羅列はここで終わらなかった。

一息で俺に肉薄すると、まじまじと俺の全身を上から下まで隈なく眺めながら、

「佐田君って、そんなに鼻大きくないよね」

「いきなり何だ」

「大柄って訳でもないし」

「お前の好みの話か」

 鼻がデカくて、かつ大柄。そんでもって猿。

テングザルしか思いつかんな。

「ち、違うよ! ただちょっと確認を」

「だから何のだ」

「あ、あんまり女の子の秘密を追求しちゃいけないんだよ!」

 明らかに俺が関わってる雰囲気でもか。それはあんまりだと思うが。

プライバシーだなんだと、自分のことをひた隠しにするのが最近の風潮なのは理解しているが、自分に関わることとなると何とも納得しがたい。

「ともかく! 時間も無いんだから、次のところ行こ!」

 高木さんは無理矢理話を終わらせると、自ら先頭に立ってスッタカ歩き始めた。

結局、今のは何だったのだろうか。

 と考えているうちに高木さんはどんどん先に進んで行ってしまう。見る間に離れていく背中に俺は焦って、咄嗟に祠にあった御札のようなものを掴んで出て来てしまったが、やはりマズかっただろうか。ややもすれば、祟られたりするんだろうか。

 とか不安がるものの、どうしてか心の奥ではそんな事はないと楽観していた。

 そもそも何で御札を手にとってしまったのかは、そうしなければならないと思った、としか説明のしようがない。



 第二チェックポイント。構内南東にある四号棟の屋上。

 到着したそこは思ったほど広いスペースではなく、先生の置いていったアイテムもすぐに見つけることができた。

 ……できたのだが、今回は少々あからさまに過ぎた。

「……また祠があるんだけど」

 虎之助が気味悪そうに、誰でも見れば分かる事実確認を行う。

 俺はというと、第一チェックポイントにあった祠を見つけたときと同様の圧迫感を得ていた。この祠は間違いなく、先ほどの祠と性質を同じくするのものだ。

 再び、反射的に一礼。

 高木さんの足音で顔を上げるところまで一緒だった。

「やっぱり、ここも稲荷大明神」

「……なあ、稲荷って何なんだ?」

 稲荷っていうデカい神社が京都の方にあることは知っているが、そのワードの詳細についてはこれっぽっちも知識が無い。

 唯一知っていることといえば、狐が関係あるってことだな。だがこの場面で、それを知っているから何がどうなるという訳でもないことは俺にも分かる。

「佐田君って、あんまり神社とか行かないの?」

「そうだな…………神社って名詞を口に出すのも正月か祭り時くらいで、その他にはこれといって思い出がないな」

「そうなんだ……」

 どうしてそこでショックを受けたような声を出すのか。ついでに『私、気にしてないから!』みたいな感じで気丈に笑いかけるのも止めろ。

 何だか変な勘違いをしそうになるだろうが。

「ねぇ、とりあえず次行こうよ。結構時間ピンチだよ?」

「ん? ああ、そうだな」

 虎之助の言葉に頷いた俺たちは、足早に屋上から抜け出した。

 ともあれ、第一チェックポイントに続いて第二チェックポイントにも祠があった。これは某かの意図を感じる。

 やはり今度も義務感に駆られ御札を頂戴したのだが、今回は拍手などを二回してみた。

何もしないよりかはマシだろうという俺の賢明な判断だ。

さて、次は何をしようか。



「……何だか今日の夜とかおしっこちびって寝れなくなりそう」

 第三チェックポイントに到着して早々、うんざりした様子で虎之助がぼやいた。

「一体何だ藪から棒に。おねしょ予告ならママンの膝上でやってくれ」

「僕一人暮らしだから!」

 そうだったか。

「んで? なんで小便ちびりそうなんだよ?」

「だってだって! ここにもけったいな祠があるよ!? まるで学長に『さっさと昇天してしまえ』って言われてるみたいで怖いよ!」

「被害妄想だな」

「……そうかなぁ」

 どんな権謀術数が絡んでいたのだとしても、目先にぶら下がる単位という餌を逃すわけにはいかない。虎之助が言っていたように、一年目から留年とか勘弁願いたい。

 学食のカウンター下に置いてあったアイテムを無事ゲットした俺たちだが三度奇妙な感覚に襲われ、少し奥まったところに向かうと、人目を忍ぶといった具合に第一第二チェックポイントと同様の祠を見つけた。

 まあ虎之助が怖がる気持ちも分かる。学長のことがなくても、行く先々に古ぼけた祠があっては、何かオカルトめいた来歴を感じずにはいられないだろう。

 今回は半ば意識的に礼をし、それから二礼二拍手一礼をした。神社に関することで俺が知っている唯一と言っていい作法だ。

 ここでも御札を頂戴する。これで都合三枚揃った訳だが、揃って何があるのか、そもそも三枚でコンプリートなのか、俺は知らん。

 ともかく、だ。三つのチェックポイントも通過し、学長の用意したアイテムも事変無くゲットすることができた。

 どうやら単位は確保できそうだな。

「そろそろ行こうよ。少し早めに歩いてギリギリかも」

「そうだな。ここまで来てタイムアップとか洒落にならん」

「う、うん。早くここ離れよう」

 何に起因するか分からない虎之助のビビリようを、笑うことはできなかった。



 チャイムが鳴る数秒前に教室に滑り込んだ俺たちは、学長のニマニマとした笑みに迎えられた。その裏に何を思っていたのかは、俺の思考の及ぶところではない。

『植物論』の授業以降は、特にイレギュラーなファクターで教員が代わることもなく、これが大学の授業だということを納得させられる多少高度な授業が展開された。

 昼休みを挟んで三時間目も終了。本日のカリキュラムはこれにてお開きだ。後は各々帰宅したり部活に勤しんだり繁華街へ繰り出したりと、自由な時間となる。

 そして俺はというと。

「…………」

 性懲りも無く『LDK同好会』という札の下げられたドアの前に立っていたのだった。

 中からは時折談笑の声が漏れ聞こえてくる。複数人が既に来ているようだ。

 一旦そこで深呼吸を行う。どうしてか、ドアを開くには多少の憂鬱が伴った。昨日は確かに居心地がいいと思ったんだがな。

 それもこれも、あのへべれけ顧問が原因に違いない。

 未成年に散々酒を飲ませた挙句、自分は記憶を無くしてあっけらかんと翌日現れる。性質が悪いにもほどがあるだろう。

 初めて飲んだ酒の味がCMで見るような爽やかな笑顔を浮かべられるものでなかったのは、一緒に飲んだ人間が関係していたに違いない。

 飲みの席では連れがどんな酔い方をするかが重要であるという教訓を心に刻み付けた昨日の夜だったわけだが、思い返すと文句の一つも言ってやりたくなってきた。

 ならば、目の前の扉を開けないと始まらない。

「うっし」

 気合を一つ声に込めて、両頬を叩く。

 そしてドアノブに手を掛け――ようとしたら、そのドアノブが勝手に動いた。

 それが示す意味は単純明快。中から誰かが開けようとしているのだ。

 しかし、そのスピードが予想外だった。

 焦点を合わせていたドアノブが一瞬で俺の視界から消え失せる、とか現実を認識する間もなく左頬に重い衝撃が走った。

「ばふぐぉ!!」

 目にも止まらぬ高速で内側から開かれたドアが、俺の頬を打ったのだ。明らかに年期の入った扉には過剰労働に違いない高駆動で、その勢いに押された俺は更に倒れて強か側頭部を強打。目の前に火花が散る、なんて表現を初めて実感を持って使った瞬間だった。

 揺れているように感じる頭を抱えつつ状況を確認しようとしたのだが、そこで追い討ちが仕掛けられた。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………」

 会室内から飛び出してきた巨大な物体に轢かれたのだ。

 表現としては『轢かれた』で間違いない。それほどの重質量高速移動物体だった。

 その正体を目視で確認はできなかったが、僅かな水滴の跡がここから延々と続いていて明確にその存在を顕示しているし、さらに言うなら尾を引くように残していった嗚咽の声には聞き覚えがあった。というか忘れようがない。

 それが一種のトラウマとして俺に刷り込まれたのは、つい昨日のことなのだから。

 昨日のガイダンス時。妹にこっぴどく拒絶された哀れな男が、今と同様の嗚咽を漏らして教室から逃げ去っていったことは、まだ記憶に新しい。

 そう。高木兄こと高木風馬だ。

 しかし、昨日を俺の命日にしようとしたあの賎丈夫が、どうしてLDK同好会の会室から飛び出してくるのか。皆目見当がつかない。LDK同好会には妹の高木さんも関わっていないし、アイツがちょっかいを出す謂れは無いはずだが。

 まさかとは思うが、妹からの言いつけで俺に手を出せないからって、俺が入会したLDKの人たちに憂さ晴らしを……みたいなことじゃないだろうな。

 至るところがズキズキと痛む身体をおして立ち上がると、無意識に焦る内心を隠しつつ急いで内部へと滑り込む。

するとそこでは――

「び、びっくりしまし……っ、げほっ」

「はいお茶」

「ありがとうございます、ちづるちゃん」

 ずずー。

「はー、落ち着きました」

「良かったわね。って、あら佐田君? 来てたのなら声掛けてくれればいいのに」

「あ、ほんとだ佐田君です。こんにちは」

 心配とは無縁の、和やかな会話を繰り広げていた。

 しかし、保宜の頬が赤く上気しているのは確かで。

 ただ立派なニンジンを一本その手に持っているのは、一体どういった趣旨のプロパガンダなのか。

「……何か、あった?」

「はい。ありました」

「…………」

「…………?」

 俺を見て不思議そうに小首を傾げるのはどういうことだ。

「……聞いてもいいのか?」

「はい? 構いませんけど」

 いいんだ。一向に答えてくれなかったから言いにくいことなのかと思ったのだが、そうでもなかったらしい。

 いちいち会話を止めるのは、彼女の身体が弱いことに一因があるのかもしれない。

「ごめんなさいね。こういう子なのよ」

 ちづるさんは俺の意図に気付いてくれたらしい。艶かしい目尻を下げて苦笑する。

 申し訳ないが、大学生にはとても見えなかった。

「今、不愉快な思考をされた気がするのだけど、気のせいかしら?」

「きっと気のせいだ。心労が溜まってるんじゃないか?」

 笑顔のままのちづるさんから与えられるプレッシャーもあって、どっと疲れた俺は手近なところにあった椅子を引き寄せると、どっかと腰を下ろした。

「そんで、何があったのさ? さっきそこで号泣しながら走り去る高木風馬と……その、なんだ。すれ違ったけども」

「あぁえーっと、そうですそうなんです。その、高木……風馬さん? から先ほど……」

「……先ほど?」

 随分と溜めるじゃないか。これは、それなりの内容を期待してもいいということか。

 保宜の可愛らしい小さな唇から紡がれるのは果たして、どのような言葉なのかね。ハラスメントの種となりそうな告白か、はたまたイッツマスビージョーキーング! と笑い飛ばしたくなる笑い種か。

「先ほど、その高木さんから」

「高木さんから?」

「プロポーズされました」

「…………」

 どうやら後者だったようだ。

 告白すら通り越してプロポーズな辺りが、頭のネジを一個といわず何個か母親の腹に忘れてきたと思しき高木兄らしいといえばらしい。

「それで……どう、答えたんだ?」

 答えは分かりきっているがな。

「もちろん断りましたよ」

 まあ当然か。

「何と言いましょうか……そう、そうです。あの人は『生理的に無理』、です」

 だだっ広い草原でむしゃむしゃ草を食んでる羊のような人畜無害な見てくれのくせに、この子は切れ味鋭い牙と爪を持っていた。

 確かにメンタル面に……多少の問題を抱えているのは否めないとは思うが、それ以外の男子としての優良点はほぼ余すところなく持ち合わせているように俺には見える。

 ただ、メンタル面の問題が『多少』と言う表現で包括できる範囲のものかどうか聞かれると、俺としても返答に窮するがな。

 彼氏がシスコンとか、女子はどう思うのだろう。

一、家族を大切にして素敵。

二、私と妹のどっちが大事なの?

三、キモい。

 保宜にとっては、この三つの中で選ぶのなら選択肢三だったのだろう。生理的に無理とか言うくらいだからな。

「にしても、何でそこまで」

「ミオはあの人苦手です。だって、何だか……そのぅ……、……き、斬り殺されそうなんですもん」

 極端だが、俺も正直頷きそうになった。

 奴に殺人衝動が眠っていることに関しては、否定する気は毛頭ない。俺だって昨日殺されかけたんだから。刀くらい簡単に持ち出してきそうだ。

 つまり保宜はそのあたりを咄嗟に見抜いたのか。だとしたらかなりの慧眼だ。

 しかし、分からないことが一つある。

「そもそも、どうしてそんな唐突に惚れた張ったの大騒動が発生したんだ? 高木兄に何か思わせぶりなことでもしたのか?」

「し、してませんよ! さっき会ったのが初対面ですっ」

 なぬ?

 と疑問を浮かべたところで、ちづるさんが話しに入ってきた。

「何か意味のわからないことを叫んでいたわね。確か……『海石榴市の八十の岐に立ち平し、と頓に聞こえし猿はここにおるかぁ! おれば疾く馳せ参じ、大蛇をすら一太刀の下に切り伏せる我が鋭なる剣の染みとな』まで言ってから、たっぷり五分くらいフリーズしてたわ。ミオを見つめながら顔を真っ赤にしてね」

 剣とか自分で言ってたんだ。そりゃ斬り殺されるとか思うわ。

 それにしても、また『猿』か。今日の一時間目に高木さんからやたら俺と猿の関係性について言及されたが、高木家の人からは俺が猿顔に見えるのだろうか。

 ちょっとショック。

 と、そこでちづるさんが、遠い目をしながら外を見た。

「いわゆる一目惚れってものかしらね」

 その憂いを帯びた表情は、尚のことちづるさんを妙齢の貴婦人の如く映し出した。

「私、その手の状態に陥ったことがないから、いまいち共感できないのよね。ねぇ、どう佐田君? 同じ男として、一目惚れに共感できる?」

「まあ、そうだな」

「あらそうなの。なら佐田君。私に一目惚れした?」

「いえ、滅相も御座いません」

 敬語になるのは条件反射だ。致し方ない。

「それはどういった意味の返答かしら?」

「お答え致しかねます」

「そう。もったいない事をしたわね、あなた。私に一目惚れしていたなら、刺激的な蜜月が待っていたわよ」

「刺激的ではなく刺激しか待っていない気がします。しかも受容体は痛覚神経のみ」

「ふふ、面白いわね。あなたと話していると飽きないわ。私たち、案外気が合っているんじゃないかしら」

「勘弁してください」

 土下座した。

 のにも関わらず、ちづるさんは攻勢を緩めてはくれなかった。

「ふふ、やっぱり私たち気が合うのよ。今のあなた見て私、ゾクって来たもの」

 暗いブラウンの長い髪が何かのオーラに揺れるように広がる。どうやら完全に『クラブ稲倉ちづる』に支配下登録されてしまったようだ。

 そのこと自体も十分な恐怖だが、それより何より……嫌がっていない自分がいることがもっと怖かった。

 今の危険な衝動はそっと心の奥に隠しておこう。そうしよう。

「それじゃあ早速、親睦を深めましょうか」

「は?」

 土下座の姿勢のまま、ちづるさんを見上げる。するとそこには、妖しげな笑みを浮かべた艶っぽいお姉さんがいて。

 ちょっと色々危機だった。

「私、見ての通り貞淑な女として生きてきたから、あまりそういったことが造詣が深くないのよ」

「……嘘つけ」

「何か言った?」

「いえ何も」

 土下座の姿勢のまましばらくいたせいで、足が痺れてしまっている。これでは立って逃げることもままならない。

 この場で唯一フリーなはずの保宜は、ニンジン振り回しながら頬染めてアワアワしているし、藁ほどの役にも立ちそうにない。

 見れば、どうしたって同い年には見えないお姉さんが、指をわきわきさせながら、じりじりと迫ってきている。

 もう、身を任せるしかないか。

 ……ヤバイ。嫌じゃない。

 期待か不安か、それとも別の何かなのか。自分でも判別できない感情を持て余した微妙な表情のまま、俺は目を瞑る。

 数分後の俺はきっと、彼女に忠誠を誓う従順な騎士になっていることだろう。

 ――それも悪くない。

 とか考えた、その時。

「ダメダメダメェ――!!」

「ぐぁう!」

 何者かに突き飛ばされた。

 錐揉み状態で安普請の壁に激突する。ずーんという重い振動音に続いて、ぱらぱらと天上から建材の粉が落ちてくる。

 逆さの状態でずるずると壁を伝い落ちていく俺が、混乱した頭をフル回転させて認識した犯人は――

「何やってるのよ!」

 シスコン兄にはめっぽう厳しい、一見天女に紛う怒れる少女。

 逆さまになった高木朔耶だった。

「あら、どなた?」

「だ、誰でもいいでしょう! アンタが何やってたのかって訊いてるの!」

「あまり大きい声出さないでくれる? うちのミオが怖がってるわ」

 見ると、確かに部屋の隅っこで膝を抱えてぶるぶる震えていた。しかも涙目。

 保宜の慧眼では、それほどの恐怖対象に映るのか、高木さんは。

 しかし高木さんも、異様に怖がっている保宜の様子を見て冷静さを取り戻したようだ。荒れる呼吸を二、三度深呼吸して落ち着かせる。

 それからどうするのかと鈍い痛みの残る頭で眺めていると、当の彼女は口を開くことはなく俺の元までスタスタ歩いてきて、徐に俺の襟首を掴み上げた。

 そのまま、巨人の如く屈強な兄をすら締め上げた膂力でもって引き摺っていく。

 の、喉が絞まる。

「佐田君をどこに連れて行くのかしら?」

「ここではないどこかよ!」

「あら、ロマンチックなセリフ。私もいつか言ってみたいわ。いえ、言われてみたいの間違いかしら」

「どちらでも勝手にどうぞ! でも相手はこの人じゃないでしょ!」

 と高木さんが叫んだ途端、部屋の隅っこから、ふぇぇ、というすすり泣きが聞こえた。

「だから大きい声出さないでって何度言えば分かるのかしら。ほら、うちのミオが泣き出しちゃったじゃない」

「……っ、ふんっ。行こう佐田君。やっぱり、ここにいちゃダメ。私と一緒にどこか別のサークルに――」

「それは困る」

 と、やたら偉ぶって仰々しい声が聞こえた。そして女性の声質となったら、思い当たるのは一人だけだ。

 会室の入口で、通せん坊するように仁王立ちする一人の女性。少し日に焼けた小麦色の肌色に、日射で若干色の抜けた黒髪ポニーテールが踊っている。

「なっ、御厨斎都姫……!? 今日は四時間目まで授業のはずじゃ」

「どうして君がそんな事を知っているのかは置いておくとして、四限目の講義を担当していた三輪先生が『ちょっと酒飲みたくなったわ』とか言い出して早めに授業を切り上げてくれたのだよ。さすがは三輪先生だ」

「クビよクビ――――!」

「君にそんな権限があるのか?」

「か、簡単よそのくらい! 三輪先生が授業放棄したってお姉ちゃんに報告すれば、すぐに辞令が出て、三輪先生はこの大学にいられなくなるわ。ふん、私って完璧ね!」

「君の『カンペキ』は字が違うだろう」

「な、何ですって?」

 きっと癇癪の『癇』に、悪癖の『癖』だろう。

「それは癲癇の『癇』に、書癖の『癖』と書く」

「……はぁ?」

 何とも言えない微妙な言葉のチョイスだった。口頭で言われてもパッと想像しにくいワードなため、高木さんには伝わっていない。

 そのお陰か、この場はすぐに収まった。

「ともかくだが、彼を連れて行くことは許可できない」

「どうして貴女の許可がいるのよ?」

「彼がLDK同好会の一員だからだ」

「そんなの会長って立場を利用した、ただの横暴じゃない!」

「君ほどじゃないさ」

 先輩の返答はいちいち高木さんの癇に障るよう練り直されている。このままでは本当に高木さんが癇癖持ちになってしまいそうだ。

 結局のところ、俺が意志をはっきりさせれば止まる騒動な訳だし、そろそろ口を挟まないと。

 とか思っていたところにタイミング悪く、別の人間の声が調停に割って入った。

「やあ。そんなに盛ってどうしたんだい? 悋気諍いならボクも大好物だよ?」

 いつの間にか会室に来ていた、厚顔無恥のへべれけ教師、フレイ氏だった。

「ブヒ」

 傍らに豚のシュールがいるのも既に見慣れた光景だ。

 それはともかくとして、高木晴香といいフレイ氏といい、大学の教師というのはどうしてこうも面倒くさい人間ばかりなのか。

 話がややこしくなってしょうがない。

「そうです先生。悋気諍いなのです、これは」

 アンタも乗るな、先輩。

「な、何よ『リンキー酒井』って。最近出てきたピン芸人の名前? 知らないわよ、そんな人」

 高木さんの語彙力に万歳。貴女のお陰で場が和む。

 大和撫子みたいな雰囲気出しといて、さてはこの人、国語とか苦手だぞ。

「まあまあボクの身体でも見て和もうよ」

「和める人間がいたら見てみたいですね」

「ブヒ」

 先輩も切れ味鋭い切り返しを会得している様子。ちゃっかりシュールも賛同したように鼻を鳴らしていた。

 しかしながら、そんなものには慣れっこなのか、フレイ氏は一層深く破顔すると、視線の行き先を変更した。

「ところで保宜さん。その立派なニンジンはどうしたんだい?」

 その一言で、会室にいた全員の視線が保宜の持つ赤橙色の野菜に向かう。

「は、え? こ、これですか? 先ほど、貰いました」

 保宜はハッとしたように涙の溜まっていた目元を拭うと、答えた。

「へぇ、誰から?」

「高木の、えーっと……そう、風馬さんです」

 ビクッ、と高木さんが肩を震わせる。

「なるほど。そういえば彼、畜産学科だったね」

 馬の餌ってことか?

「えと、『我が燃え盛る至愛の証、何卒お受け取り下さい!』って言われました。会って数分後に」

 保宜の証言に無言のまま顔を俯け、高木さんが回れ右する。

 前髪の隙間から一瞬だけ覗いた口角が異様に吊り上がって見えたのは、気のせいだろうか。

「何だか凄く怖くって、ミオがゴメンなさいって断ったら、ぶわっと泣き出して会室から出て行っちゃいました。凄い勢いで叫んでましたよ。うおおおおん、って。狼みたいに」

 高木さんがゆったりと歩き出す。

 それはきっと、己の一族の恥を晒した男に制裁を加えるために。

 すれ違いざまにはっきりと見えた口元は、男でも震え上がるほどの恐懼を秘めたピエロのような上弦の三日月形で、かすかに動いているのは何かを呟いているからか。

 俺に読唇できた範囲では、

――あのばかあに、と。

 その邪悪な雰囲気に慄いたシュールが俺の足に鼻先を押し付けてくる。それを抱え上げながら俺もその温かい体温を少しきつめに抱き締めた。

 やがて高木さんは会室から退出し、皆で廊下に顔を出しながらその背中が見えなくなるまで見送る。そうしてから俺は、ようやくと胸を撫で下ろした。

 やはりあの人を敵に回してはいけない。きっと目を覆うような未来しか待っていないだろうから。

 高木晴香に目を付けられないよう? ノウ、それだけではダメだ。

 虎之助は確かにこう言っていたはずだ。高木家に目を付けられるな、と。

 本当にその通りだ。あの三人は誰一人として敵に回していいはずがない。高木家には安全牌など一人もいないのだ。それぞれが役満リーチ状態で、破滅の危険を孕んでいる。

 そう心から得心していると、先輩の声が聞こえた。

「高木家の面々は本当にみな愉快だな」

 あの三人を愉快という表現で片付けますか。

「まあこれで、ようやく落ち着いて話ができる。今の騒ぎの内に全員が揃っているし、さすがはあたしのLDK同好会だ」

 そもそも、ここでする話なんてあるんだろうか。ただの世間話じゃないのか?

「さて、LDK同好会の正式発足から二日目の今日」

「ちょっと待って下さい」

「何かね」

「どういうことですか、正式発足二日目って」

「言葉通りだ。LDK同好会が正式に大学から承認されたのは昨日のこと。サークル立ち上げに規定されている人数が集まっていなかったのだから当然だろう」

 つまるところ、俺はサークル立ち上げの人数合わせに使われたということで、悪い匂いのする棒のどこかしらを掴まされていたのか。

「表向きは『近隣の賃貸情報を収集・検分し、これから一人暮らしを考えている学生へ優良物件の情報を提供する』ことを活動内容としている」

 自ら『表向きは』とか言っちゃうんですね。

「なら裏は?」

「それを今から話そうと思っていたのだ」

 すると先輩は腕組みして目を瞑る。鼻の穴を大きくしながら鼻息を噴き出して、間もなく、カッと目を見開いた。

「我々が真に目指すものとは!」

「随分と煽りますね」

「しっ。斎都姫姐さんは自分がフィーバーしてる時に茶々入れられると怒るわよ」

「……了解」

 ぶっちゃけ面倒くさい。

「目指すものとは!」

 何も言いませんから続きをどうぞ。

 先輩はどこかの国で市民を扇動する革命家のように大きく両手を広げ、語る言葉にも暑苦しいほどの熱が籠っている。

 そんな先輩の姿を、俺は冷めた目で見つめていた。

 どうせその『真に目指すもの』とやらも、おふざけまたは冗談で終わる程度のものだろう。これまでこの人を見てきた上での判断として、そう思ってしまう。

 そう言えば昨日も結局活動内容は聞けないままだった。

まさか本当に、大学のサークルの活動内容なんてあって無いようなもの、なんてことはあるまいな。

 なんてつまらない予想をしていた俺は当然、次に先輩の口から放たれる言葉になど一片の期待もしていなかった。

 と、そこでふと気付く。

 わざわざ『期待していない』とか考えるということは、

 ――俺は、ここに何かを期待していたのか?

 …………。

 正直に言おう。俺は特に大学生というものに、これといった希望や気概といったものを持っていない。

 園芸学科に、ひいてはこの農業大学に進路を決めたのだって、ただ単に植物が好きだからという漠然とした理由からだ。その植物に関した講義でさえ、結局俺には単なる眠気を催す時間でしかなかった。

 はっきりとした夢や目標、熱意を持って入ってきた人には申し訳ないが、そもそも俺にとって大学なんて、親に『行っておけ』と言われたから来たような場所。

 その程度のものなのだ。

 そんな淡白な俺が、この大学に来て何かを期待していた? しかも高い授業料を払っている学業の方ではなく、こんなけったいなメンバーの揃ったサークル活動に?

 思考が表情に出ていたかどうかは分からない。だが先輩はどうしてか俺の顔を見て、確かに笑みを濃くしたのだ。

 それから不敵な、しかし自信に裏打ちされた笑みを浮かべつつ先輩が口にしたのは、こんな言葉だった。

「日本国の救済だ」

 ……意味が分からない。

 これまで通りの俺で、相手がこれまで通りの先輩であったなら、即行で冗談は止めろとツッコミを入れるところだろう。

 ところがどうだ。今の俺は変に真面目なことを考えてしまっていて、今の先輩はまるで嘘は無いと豪語するような、自信に溢れた表情をしている。

 ツッコミを入れようにも、俺の脳内検索機能は適切な言葉を見つけられなかった。

 周りを見てみると、ちづるさんと保宜は、明らかに俺と同じような状態だと分かる表情をしていた。

 変わらぬ微笑を浮かべているのは先輩と、そしてフレイ氏の二人だ。

「その鍵となるのが他でもない。君だ、佐田彦名君」

 ビシッと指差されても、言われている意味を全く理解できない。

「君は、ようやく見つけた『導き手』なのだ」

「……導き手?」

「そうだ」

 なんですかその畏まった呼称は。

 それ以前に、いきなり『日本を救うための鍵は君だ!』とか言われても、漫画みたいにおいそれと信じられるはずもあるまい。

『君にはまだ君自身も知らない大きな力が眠っている』とか、『実は君は過去に世界を救った英雄の生まれ変わりなのだ』とか言われて素直に信じられる年齢はだいぶ昔に過ぎ去っている。

『導き手』? アホか。

 きっと誰でも一笑に付すはずだ。

 ――馬鹿らしい、と。

 なのに先輩は大真面目に胸を張っている。加えて俺をじっと見つめる強い眼光も、真剣そのものだ。

 しかしふと、先輩が表情を緩めた。

「まぁ、すぐに信じなくても構わない」

「え、いいんですか?」

 鍵だとか言っていたのに。鍵と証するからには、先輩たちの中で俺は結構重要なポストにいるんじゃないのか?

「構わない。きっとそれは自ずと自覚するものだ」

「…………だったら、その『導き手』とやらのことも教える必要は無かったんじゃ?」

「そういう訳にもいかなかったのだ、残念ながら。君にはこれからの活動を通した中で、自分自身を見つめてもらいたい」

「?」

「……あまり、時間的猶予がないのだ」

 この口調は、あまりに切実だった。

「もうすぐ『神節』が訪れる」

「『神節』?」

 聞き返すと、先輩が無言のまま首肯した。おまけに表情を再び真剣に改める。

「暦が一回りする六十年毎に訪れる節目の年。それを我々は『神節』と呼んでいる」

 六十年。いわゆる還暦。それはまた随分と長い期間だな。オリンピックとかワールドカップの四年毎でも俺としては長く感じるのに。

 てか『我々』って、先輩とフレイ氏の他にも誰かいるような表現に聞こえるのだが。

「日本は太古より、様々な宗教が入り乱れてきた。土着の神道以外にも、仏教、儒教、道教、キリスト教などが日本に輸入され、多くの信者を生んだ。また、そこから独自の発展をさせた陰陽道や神仏混淆という考え方も大元から分枝する形で自然と創出された」

 いきなりオカルティックな方向に飛んだな。

「他にも日本に流入してきていないものも合わせたら星の数の宗教的思想が、この世界には存在する。しかしだ。その膨大な数の思想全てに共通することがある。分かるか?」

「分かりません」

 即答したが、嘘をつくよりマシだろう。

「素直でよろしい」

 一瞬だけ先輩も固い表情をふっと解いたが、すぐ元に戻った。

「宗教的思想。それらはほぼ例外なく全て、神話や、それに類する説話を下敷きにしている、ということだ」

「はぁ。……神話、ですか」

「しかも、それらに共通して重要視されていたのが『十二』という数字なんだ」

 フレイ氏が先輩の言葉を継いだ。こちらの表情は相変わらず気の抜けた微笑のままだ。

「栄華を極めた古の文明では数字が開発され、次第に暦というものを考え出す人間も出てきた。太陽暦・太陰暦共に一年を十二ヶ月と定めているし、やがて生まれた時間の概念も同じく十二という数字を取り上げているのは、ボクたちも知るところだよね」

 その『十二』が五回巡ると、六十という先に言った期間になるってことか。

 六十年という期間に関しての疑問は――根本的に信じられる話かどうかという懐疑を無視するならば――解けたと言っていい。しかしまだ、もっとも大事な部分の説明を受けていない。

「……まあ、千歩譲ってそれは分かりました。けど、六十年毎に来る、その『神節』とかいう年に、一体何があるって言うんです?」

「会議だ」

 一言だった。

 人の常識や理性を丸ごと無視して、ここまで壮大なスケールで話してきたのだから、日本沈没とか地球滅亡とか、それくらいのものが出てくるものと思っていたのに。

 少し拍子抜けだった。

「会議……ですか?」

 これまで沈黙を保っていた保宜がおずおずといった感じで訊く。ようやく先輩たちの電波トークに耐性が付きはじめたらしい。

「ああ、会議だ」

 その問いに答える形で、もう一度先輩が口にした。

 確かに拍子抜け。ともすればギャグとして笑ってしまいそうな話。

 ところがその重々しい口ぶりと一点の曇りもない眼差しからは、これまでの疑問云々全部抜きにして信じてしまってもいいかもしれない、なんて思わせるくらいの意志の強さが伝わってきた。

 先輩は腕組みし、鼻息を一つ。

「世界趨勢決定会議。通称WTC」

 胸を張ってふんぞり返り、自信満々にのたまった、その会議とやらの名称。

 ――世界趨勢決定会議。通称WTC。

 何だよ、通称って。

「……………………」

「何だその目は」

「……いえ別に」

 と、その時。

「別に今は信じなくてもいい。でも、とりあえずは真面目に聞いてほしいな」

 険のある声に驚いてそちらを向くと、いつも緩みきった微笑を絶やさないフレイ氏が、苛立たし気に顔を歪ませていた。表情などはそのままなのに、語調からそれが伝わってくる。

 もしこれが演技だったとしたら、俺は無断でフレイ氏の履歴書を芸能プロダクションに送りつけてしまいそうだ。

 それほどの本気が伝わってきた。

「確かに信じられない話かもしれない。生まれてこの方、当然の常識の中で暮らしてきた君たちにとっては可笑しな御伽噺でしかないかもしれない。だったら、それはそれで一向に構わないから、その笑い話として、どうか記憶に止めてくれないかな」

 次の言葉を喋るとき、既に刺々しさは抜けていた。元の柔和な色を取り戻し、大人気なかったと詫びるように目尻を下げている。

 俺は初めて、この人が年長者であるということを思い知った。

 いとも簡単に、聞く体勢と心構えを整えられてしまったから。

 先輩が小さく目礼し、フレイ氏はいつもの微笑でそれに応える。

 やはり、年功というものは偉大だった。

 おほん、と先輩が気を取り直すように咳払いをした。元の話に戻る合図だろう。

「確かに、こちらの話し方にも問題があった。その点は詫びよう」

 それから先輩が一気に挙げ連ねた要点を箇条書きにしていくと、このような感じだ。


 一、六十年ごとに訪れる『神節』に世界趨勢決定会議が開催されること。

 二、それが今年なこと。

 三、その会議によって、以降六十年間の国の運命が決定すること。

 四、前回のその会議において、日本が極端に工業的な発展を望んだこと。

 五、それ故に現在、様々な問題が生じて来ていること。


 更にフレイ氏が追加事項として、

「世界趨勢決定会議とは、全世界から、各国の神々が集まって行われる大集会なんだ。それぞれの国の来し方を省み、また向かうべき行く末を決める、それはもう大事な大事な場だよ。それでこのWTCは、いわゆるこの世界とは違う次元『第十三層』に存在する並行世界『神界』で行われるんだ。この会議は分野ごとに分かれていて、まず大きな括りとして産業・環境・平和の三つがある。ここから更に細かく分類されていく。環境の中の都市環境、またその中の公害問題関連、といった具合にね」

「あたしたちはこの会議に参加しなければならない。それは、この農業大学の学生に課せられた使命だ」

 そうして、二人は黙った。

 会室を包むのは、形容しがたい沈黙。

 もちろんツッコミどころはたくさんあった。

 それこそ御伽噺。

 神々だの、違う次元だの、並行世界だの。もし本当に存在したなら、そもそも今の地球上に起きている問題で思い悩むこともないだろう、というような夢物語だ。

 だってそうだろう? もし神様なんてのがいるならパパッと問題を解決してくれるだろうし、もし異世界なんてものがあるなら早いトコこの問題ばかりの世界に見切りをつけてそっちに移住してしまえばいいんだから。

 否を呈すべき項目は確かに多くあったのに、それを口にすることの方が間違っていると思わせてしまう空気、雰囲気。

 ――だったら。

 今の話の明瞭化に時間を費やした方が、まだ有意義だろう?

 含むところは何も無い、と言えば嘘になるが。

「質問があります」

「何だ?」

「この農大がWTCとやらの中で参加するのは、どの分野なんです? まさかとは思いますが、全てのフィールドを網羅しないといけない、なんてことはありませんよね」

「あ、ああ。それはもちろんだ」

 油断したのか、先輩は一瞬ほっ、と安堵したような顔を見せたが、すぐに無表情を取り繕ったので、俺も気付かなかったふりをしておく。

「農大の学生が参加するのは大学の名称が示す通り、産業の内の農業分野だ」

「では、それが農大の学生の使命とされているのはなぜですか?」

「日本の何箇所かに存在する第十三層へと繋がる扉が、この大学構内にもあるからだ」

「それと時間的猶予がない、って話でしたけど、それは開催期日が迫っているっていうことですか?」

「その通りだ」

「具体的な日にちは?」

「悠久の時を生きる神々の世界に、そのような細かな時間概念は存在しない。だいたいがこちらの世界の一ヶ月単位で指定される」

「……なら、時間的猶予がないってのは?」

 細かな時間概念が無いくせに猶予がないってのもおかしいな話しだ。

「別に一ヶ月単位で指定されたところで、迫る期日はあるだろう? その月の晦日というものが」

 別に得意げに話すことでもないでしょう。

「少なくともその日までに神界に赴いて今後の方向性だけでも伝えなければ、今後六十年間の日本は……それはもう大変なことになる」

 ごくっ、と一応喉を鳴らすフリだけをしておいた。

「……どうなるんです?」

「口に出すのも憚られる」

 雰囲気を作って言うが、ただ知らないだけなんじゃないかと思う。

「が、少なくとも六十年間コントが続くことになるな」

 まさかとは思うが『混沌』と言いたいのだろうか。まったく、六十年間もコントが続いてたまるか。一体どれだけ笑いの絶えない六十年間になるんだ。

 まぁ普通に考えて混沌の方が願い下げだが。

「……じゃあ、その指定された月ってのは何月なんです?」

「四月だ」

「…………。……俺の聞き間違いかもしれません。もう一度お願いします」

「四月だ」

「…………。……何年のです?」

「だから今年と言っただろう」

「ハハ、ホントだ。全然猶予ないですね」

「だろう? ははは」

「ハハハ」

「ははは」

「ハハハハハハハハ……ハアァ!? 本当に全然時間無いじゃないですか!」

「それはたった今、君も自分で認めたではないか。それとも、事実確認のための反復か?だとしたらその用心深さ、あたしが惚れるに値する慎ましさだ」

「冗談は死んでから言って下さい。それよりも、だったら早くその神界とやらに行かないといけないじゃないですか」

 もし本当に行けるんだとしたら、だが。

「そうしたいのは山々なのだが、そこにも一つ問題がある」

「なんです?」

「扉の場所が分からないのだ」

「…………」

 どうも先輩たちの眼前に聳立している関門は、えらく初歩的な問題のようだった。

「……どうするんですか、そんなんで」

「その解決のために君がいる」

「は?」

 どうしてそこで俺の名前が?

「それを探すことこそが、『導き手』たる君の責務だ」

「……は?」

 同じ疑問符をもう一度繰り返す。

 何だそれ。つまり今回その会議に扉が見つけられなかったなんて根本的な理由で参加できなかった場合、その責任は全て俺に掛かってくるってこと? 今後六十年間が大変になことになるっていうことの責任が?

 勘弁してくれ。

 別に本当にそうなると信じたわけではないが、被る可能性のある責任は極力回避しておきたい。

「ブヒ……?」

 抱いたままのシュールが心配そうに俺を見上げてきていた。

 心を落ち着かせるようにその温もりを撫でながら、

「ちょっと待って下さいよ。そもそも俺は何が何だか分かってもいないのに、いきなり初手を任されても困ります」

「心配するな、ヒントはある。君はそこから扉の在処を推測するんだ」

「推測するだけなら先輩もできるのでは?」

「あたしは少しコチラが足りないからな」

 そう言って先輩は自分のこめかみ辺りをつつく。

「だから、君の出番だ」

 体のいい責任逃れだ。

 俺がジトッとした目を先輩に向けていると、横から肩をぽんぽんと叩かれた。

「まぁ佐田君。よく分からないけれど、私たちも手伝うから」

「そ、そうです。お役に立てるか分かりませんが、ミオもお手伝いしますっ」

 ちづるさんと保宜だった。

 その心遣い、感涙に噎びそうだ。

 温かい言葉に勇気を貰い、こちらの反応を窺っているような先輩に眇めた目を向けた。

「それで、そのヒントとは何です?」

「やる気になってくれて何よりだ。扉の在処のヒントだが、まず『三』という数字」

「……三、ですか?」

「そうだ。『三』だ」

 随分と抽象的なヒントだな。これだけでは場所を示すヒントとしての意味を成すとは思えない。

「そしてもう一つ」

 となると、こちらが本命か。

「『社』というのが鍵になるらしい。またその扉自体も、大きな『社』の中に安置されているという」

「社? 社というと、あの神社とかの建物のことですか」

「まぁ……恐らく」

 この期に及んで、そういう曖昧な返答は止めてほしい。

 その指弾する意志が目付きにも現れていたらしい。先輩が珍しく慌てた様子で諸手をぶんぶん振っていた。

「あ、あたしも詳しくはよく分からないのだ。ただ、今言った通りのことが伝えられているだけで」

「誰から?」

「秘密だ」

「で、誰から?」

「女性の秘密を追求するものじゃない。秘密は秘密であってこそ甘い香りを放つのだ。それに、その方が君も好みだろう?」

 人の嗜好を勝手に決めるな。

「ともかく! 君には今の二つのヒントから神界への扉を探してもらう。違約の場合は厳罰に処す。分かったな?」

「俺、そもそも契約とかしてましたっけ?」

 と、先輩は口の端を吊り上げた小憎たらしい笑みを浮かべた。

「なるほど、君がそう言うのは構わない。が、もし見つけられなかった場合、君は日本の全国民から嘲弄の視線を浴びながら半生を過ごすことになるぞ」

 やっぱりコント!? コントなのか!?

「冗談だ」

「この流れで今のは洒落になりません!」

「そうか。あたしにコメディアンの才は無かったようだ。済まない、夫婦漫才の未来は途絶えてしまったな」

「夫婦漫才どころか、夫婦になる未来すらありません」

「ははは、君は本当にシャイだな」

「…………はぁ」

 陰気な溜息をついて申し訳ないが、溜息が漏れるのも仕方のないことだったと理解してもらいたい。

 別に先輩との会話だけが俺を憂鬱にしていたのではない。ふと思い返した会話全てが、俺を鬱屈のどん底に叩き落していたのだ。

「…………はぁ」

 暗澹たる気分の原因を考え、再び不意の溜息をつき、思う。

 えらい大役を任されてしまった、と。

 ……別に、先輩の話を信じた訳じゃないがな。


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