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013 リュージ

「あえて説明しなくても分かるよな?」


「念のために説明してほしい」


 ヤスヒコはチンピラ集団から10メートルほどの距離を保つ。

 サナは目に涙を浮かべながらヤスヒコの後ろに隠れていた。


「おいリュージ、お前マジでなめられてんな!」


 集団の一人が言うと、他の連中がゲラゲラと笑う。

 ナンパ野郎でリーダー格のリュージは、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ならあえて説明してやるよ。集めた魔石を全て差し出せ。あと女もな」


 リュージは懐からナイフを取り出した。


「ダンジョンは治外法権だ。従わないと殺すぞ?」


 ドスの利いた声でヤスヒコを睨む。

 サナは「ひっ」と身を縮こめた。


「ん? ダンジョンは治外法権ってどういう意味だ?」


 真顔で尋ねるヤスヒコ。


「何寝ぼけたことを言ってんだぁ?」


 と言いつつ、リュージはご丁寧に説明を始めた。


「ダンジョン内に監視の目はねぇ。だからここで何をしたって証拠を残さなけりゃお咎めなしだ。ガタガタ抜かしてっとマジで殺してその辺に埋めるぞ」


 ヤスヒコはニヤリと笑った。


「ならここでお前らをボコボコにしても怒られないわけか」


 先ほどまで、ヤスヒコは穏便に乗りきる方法を考えていた。

 派手に立ち回ったら暴行罪で逮捕されるのではないかと不安だったからだ。

 正当防衛もやり過ぎれば過剰防衛となる。

 法律家でもないヤスヒコには、過剰防衛かどうかの線引きが分からない。

 だから悩んでいたが、リュージのおかげでその必要がなくなった。


「ヒュー! 言うねぇ!」


「これだけの数相手に強気だねぇ!」


「彼女にかっこつけたいからって命を粗末にし過ぎっしょー!」


 チンピラ連中が盛り上がる。


「ヤスヒコ君……」


 ヤスヒコは振り返り、サナの頭を撫でた。


「すぐに終わらせるから大人しくしていてくれ」


 リュージに向かって歩き出すヤスヒコ。


「俺たちも舐められたもんだなぁ! おい、マジでこのガキ殺すぞ!」


「「「おう!」」」


 リュージの号令でチンピラどもが一斉に動き出した。

 数の利を活かすことなく真正面から突撃する。

 相手がヤスヒコだけということで油断していた。


「お前らに喧嘩ってものを教えてやる」


 ヤスヒコはファイティングポーズをとった。


「ほざけ!」


 一人目のチンピラが飛びかかる。

 ――が、跳躍と同時に後方へ吹き飛んだ。

 ヤスヒコが最小限の動きで顔面に右ストレートを放ったのだ。


「速ッ! コイツ、ボクサーかよ!」


「ボクシングの経験などない」


 ヤスヒコは次々にチンピラを倒していく。

 無駄のない動きで攻撃を回避し、カウンターで仕留める。

 拳を痛めないよう肘打ちや蹴りも組み合わせた。


「お、おい、どうなってんだよ! コイツ!」


「人間の動きじゃねぇ!」


 一人、また一人、チンピラが沈んでいく。

 武器の種類や体格などは一切関係ない。

 近くにいる者からやられていった。


「グハッ……」


 ヤスヒコの視界に映る最後のチンピラもダウン。

 ガラの悪い数十人の男が、物の見事にのびている。

 しかし、その中にリュージの姿はなかった。


「動くな! この女を殺すぞ!」


 リュージはサナの人質にしていた。

 早々にヤスヒコの強さを察知し、保険のためにサナを狙ったのだ。


「ヤスヒコ君、助けて……」


 首にナイフを当てられて、サナは震えながら涙を流す。


「おいおいおい、その作戦はよしたほうがいい」


 ヤスヒコは呆れ顔で距離を詰めていく。


「近づいてくるんじゃねぇ! 止まれ!」


 リュージが怒鳴るけれど、ヤスヒコの足は止まらない。


「マジでこの女を殺すぞ! 誤解しているようだが、このナイフはダンジョン武器じゃない。普通のナイフだ。だから人間だって切れる。止まらないと本気で女を殺すぞ!」


「その言い方からするとダンジョン武器で人を切ることはできないのか」


 またひとつ賢くなった、と言いながら前進するヤスヒコ。


「なんで止まらねぇんだよ! 女が死んでもいいのか!」


 ここで初めてヤスヒコは止まった。


「死ぬのはよくないよ。サナは大事な友達だからな」


「そうだろ?」


 ヘヘ、とニヤけるリュージ。

 イカれた男に思えるヤスヒコも所詮は只の人。

 交渉の主導権を握れたと思った。

 ――が、気のせいだった。


「だからサナを傷つけるな。謝ったら殴らないでおいてやるからさ」


 そう言って、ヤスヒコは再び歩き出したのだ。


「なんなんだよお前! なんで止まらねぇんだよ!」


 リュージの本音がこぼれる。

 サナも「嘘でしょ」と言いたげな顔でヤスヒコを見ていた。


「お前は先のことを考えないようだな」


「なんだと?」


「サナを殺した場合、お前は俺に殺される」


「なっ……!」


「だがサナを解放して俺たちに謝れば無傷でギルドに帰れる」


 いよいよヤスヒコとリュージの距離が2メートルをきる。

 手を伸ばせば届きそうな距離だ。


「選ぶのはお前だ。サナを殺して俺に殺されるか、サナを解放して謝罪するか。早くしないと俺の手が届いちまうぞ?」


 ヤスヒコは歩幅を狭めて前進。


「ぐっ……」


 リュージは怯えきった顔でヤスヒコを見る。


(なんなだよコイツ。なんで表情を変えないんだよ)


 そして、リュージの我慢が限界を超えた。


「やってらんねぇ! イカれてやがる! やべーよ! なんなんだよ!」


 リュージはサナを解放した。

 ただしプライドが邪魔して謝罪をすることはなかった。

 サナを押し飛ばしてヤスヒコにぶつけると、その隙に逃げようとしたのだ。


「ガッ……」


 しかし、ヤスヒコの脇を抜けようとしたところで視界が揺らぐ。

 足を引っかけられて盛大に転んだ。


「な、なんなんだよ! 女は解放したじゃねぇか!」


 プルプル震えるリュージ。

 立ち上がろうにも腰が抜けて脚の力が入らない。


「でも謝らなかったからな。その報いは受けてもらう」


「あ、謝る! 謝るから! ごめ――」


「もう遅い!」


 次の瞬間、ヤスヒコはリュージの顔を踏みつけた。

 整形で高くした鼻が粉砕され、派手な血飛沫が地面を赤く染める。


「今のはサナの分だ。そして次が俺の分だ」


 ヤスヒコは追加の蹴りをぶち込んだ。

 今度は男の急所である二つのゴールデンボールを攻撃。


「んがっ!」


 リュージは涎を垂らしながら気を失った。


「すまんな、怖い思いをさせて」


 戦いが済むとヤスヒコはサナに謝った。


「だ、大丈夫です。ヤスヒコ君、すごくかっこよかった……」


 サナの目はうっとりしていた。


「帰ろうか」


「はい!」


 ポータルに向かうヤスヒコ。

 サナはその隣に立ち、さりげなくヤスヒコと手を繋ぐ。


「あの、手を繋いでも、大丈夫でしょうか?」


「もう繋いでいるようだが?」


「え、あの、その……」


「別にいいよ」


「ありがとうございます!」


 二人の姿は、傍からはカップルにしか見えなかった。

 もちろんヤスヒコは気づいていない。


お読みいただきありがとうございます。


本作をお楽しみいただけている方は、

下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして

応援してもらえないでしょうか。


多くの方に作品を読んでいただけることが

更新を続けるモチベーションに繋がっていますので、

協力してもらえると大変助かります。


長々と恐縮ですが、

引き続き何卒よろしくお願いいたします。

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