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ちゅ~る

『ネコがつい夢中になってしまうあのおやつを巡ってあんな事に…』的なエピソードです。

それではごゆっくりお楽しみ下さい。

最近、主の仕事現場ではどんなネコも夢中になってしまうスティックタイプの液状おやつ『ちゅ~る』のCMが話題となっている。

自身が所属するバンドのメンバーやスタッフからの勧めも有り、スマホで動画を撮影してみる事にした。


「ほ~ら、モカ、モモ。おいで、おやつだよ。」

スティックの切り口からちゅ~るを少し出すと、愛猫達に分かる様にちらつかせる。


「ねぇ、モモ。あれ絶対、例のあのおやつだよね?」

「うん、間違い無いよ。ついつい夢中になっちゃう、例のあのおやつだよ!」

商品名こそ分からないふたりだったが、主が手にしている物がちゅ~るである事を確信すると目を輝かせながら飛び付く。


思惑通り愛猫達を引き寄せる事に成功した主は動画撮影の為利き手である右手でスマホを持ち、利き手ではない左手でちゅ~るを持って食べやすい位置に差し出す。


「ふにゃぁ、美味しい・・・。」

「はにゃぁ、幸せぇ・・・。」


恍惚とした表情を浮かべながら1本のちゅ~るをペロペロと舐めるふたり。

その愛くるしい光景はまさにCMで観た物と同じであり、主は思わず顔を綻ばせる。

しかし、そんな和やかなひと時も長くは続かない様で・・・。


「(もっと、食べたい・・・。)」

そう思うあまり、前のめりになるモカは無意識にモモの身体を押しており、気が付けばちゅ~るから遠ざける形になっていた。


「やだ、モカ。あんまり押さないでよ。」

「ちょ、モモ。そんなに前に出ないでよ。」


1本のちゅ~るを求めるあまり気が付けば我を忘れて押し合いになるふたり。

異変を感じた主は動画撮影を続けつつふたりを宥める。


「ちょっとふたり共、ケンカしないで。」


そんな願いも虚しくちゅ~るに夢中になっているふたりはその行動を更にエスカレートさせる。


「お願いだから、もう少し詰めてよ!」


そう言いながらモカに詰め寄るモモ。

しかし、意図せず突き飛ばす形になってしまいバランスを崩したモカはその勢いのまま主の左手に激突してしまう。


「ふにゃっ!」


背中を強打した弾みにモカは喚声を上げるとそのまま床に手をついて座り込んでしまう。

そして、モカがぶつかった事により主が左手に握っているちゅ~るのスティックに必要以上の力が加わり、その影響で目の前に居たモモの顔目掛け勢い良く中身が飛び出してしまった。


「はにゃあ~!」


突然の出来事に自分に何が起こったのか理解出来ないままモモは驚きの余り悲鳴を上げながら尻もちをついた。


「大変!今タオル持ってくるから待ってて!」


予期せぬハプニングに慌てた主は脱衣場に収納されているタオルを取りに行く為、撮影を止め一旦その場から離れる。


「えぇ~ん、酷い。顔がドロドロになっちゃった・・・。」

涙目になりながら、汚れた顔を拭おうとするモモ。

一方モカはというと、先程から下を向いて座り込んだまま動こうとしない。

打ち所が悪かったのだろうか。

顔が汚れてしまった事に対しモカを責めようかとも考えていたが、こうなってしまったのも元はと言えば自分が誤って突き飛ばしてしまったのに他ならない。

後ろめたさを感じたモモはモカに声をかける。


「ちょっと、モカ!?」


しかし、当の本人はというと呼び掛けられているのにも関わらず聞いている様子を全く感じさせない。

モモは立ち上がりモカの傍まで行くと、何やら小さな声でブツブツと呟いている。


「・・・しそう・・・。」


至近距離まで来ているにも関わらずまだ聞き取れずにいたが、恐らく今言うべき言葉ではないだろう。

今度は耳を澄まして聞いてみる。


「美味しそう・・・。」


一瞬、何の事を言っているのか分からないでいたモモ。

だが、顔を上げこちらに向かって視線を送るモカの表情で先程の発言の意図を理解した。


「え?まさか。そんな、嘘でしょ・・・?」

これから起こるかもしれない出来事を想像し、少し怯えながらたじろぐモモ。

しかし、そんな思いとは裏腹にモカはゆっくりと立ち上がるとそのままジリジリと壁際まで詰め寄る。


「お願い。舐めさせてぇ~!」

そう叫びながら、飛びかかったモカはちゅ~るまみれになったモモの顔面をベロベロと舐め始めた。


「やぁ~。モカ、やめてよぉ~!」

「タオルで拭くなんて勿体無いよぉ~。 だから、ご主人様が戻って来るまでに舐めないとぉ~!」

「はにゃああああああ!」

貪る様にモモの顔面に着いたちゅ~るを舐めるモカ。

余りの凄まじい勢いにモモは床に押し倒されるもモカは顔面を舐める事をやめなかった。


「お待たせぇ~。モモ、今顔を拭いて・・・」

タオルを持って戻って来た主は、愛猫達の姿を見て主は思わず立ち尽くす。

そこには、ちゅ~るを浴びせられたモモの顔面をひたすら舐め続けるモカの姿が有った。


「モモぉ。美味しい、美味しいよぉ~。たまんないよぉ~(ちゅ~るが)。」

「モカ、お願い。やめて・・・。はにゃぁ~・・・。」


目の前で繰り広げられている光景は、じゃれ合いとは程遠い愛猫達の姿。


「(動画撮影は一旦、やめておこう。)」


主はそう思いながらズボンのポケットにそっとスマホをしまうのであった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ご意見、ご感想等が有りましたらお気軽にどうぞ。

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