テディベア その09
前回投稿した『その08』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
ベランダにて喫煙中のフミエが2本目の煙草に火を点け始めた頃、リビングでは愛撫を十分に堪能したモカとモモがガラス戸越しに主の後ろ姿を見ながらその余韻に浸っていたのだった。
「はにゃぁ、やっぱりご主人様になでなでしてもらえると良いわねぇ。」
「あたしなんかなでなでしてもらいながら寝ちゃいそうになっちゃったよ。」
間延びした口調でモモと他愛の無いやり取りを行っている最中、モカはふとテディベアの方へと目を向ける。
ぬいぐるみなので動く事は勿論、言葉を発したりするなど毛頭も無いのだがモカには何故かそんな気配がしてならなかったのだった。
「どうしたの、モカ?」
「あ、ううん。何でも無いよ。」
何事かと尋ねられるも上手く説明が出来る自信が無かったモカはモモに対し一先ずお茶を濁す様にして返答した。
すると2本目のマールボロ・メンソールを吸い終えたフミエがガラス戸を開け携帯灰皿と100円ライターを片手にリビングへと戻って来た。
『カラカラカラ・・・。』
ガラス戸の開く音と共にその方向へと目をやるモカとモモ。
一方で愛猫達からの視線を感じながらもフミエはガラス戸を閉めた上で2匹の前を素通りするとそのままキッチンへと向かいビスケットタイプのキャットフードを収納スペースから取り出すと緑色と桃色のフードボウルに適切な量を心掛けつつ均一になる様に入れる。
『パラパラパラ・・・。』
先程、愛撫を堪能した為か煙草の匂いを一瞬だけ漂わせキッチンへ向かう主へ着いて行く事無くモカとモモはその場から一連の動向を目視する。
そこからプラスティック製のフードボウルにビスケットタイプのキャットフードがふたりの耳にも届く程の音を立て流れる様にして落下していく光景を確認する。
それを受けての事か五感を刺激されたらしいモカの腹の音が盛大に鳴り出した。
『ぐううううう・・・。』
「ふにゃっ・・・!?」
自分ではコントロール出来ない腹の音に比例してモカは顔を赤くさせるとその様子を滑稽に思うあまりモモは声を出して笑う。
(余談だが、モモはこの時モカと仲直りした日の事を思い出した。)
「ふふふ。よっぽどお腹が空いているらしいわね、モカ?」
「えへへ、そうみたい・・・。」
モモの言葉にモカが照れ笑いを浮かべ返答する中、緑色と桃色、それぞれのフードボウルにキャットフードを入れ終わり定位置に戻すとフミエはリビングに居る三毛猫とアメリカンショートヘアへ呼び掛ける。
「モカ、モモ。ご飯入れといたから食べにおいで。」
主の声に従いふたりはキッチンへと移動しようとするもテディベアの視線が気になるのかモカはふと足を止め後ろを振り返る。
するとそれに気付いたモモは少し離れた場所から不可解な行動をするモカに声を掛ける。
「モカ、行きましょ?ご主人様が呼んでるわ。」
「ああ、うん。そうだね・・・。」
眉を顰め不思議そうに此方を見るモモにモカは今の心境を悟られぬ様にしながらも朝食を取る為、揃ってキッチンへと向かったのであった。
「「いただきま~す。」」
主には届かないと分かってはいるものの声を合わせ食事の前の挨拶をするモカとモモ。
片や与えたキャットフードを今まさに食べようとしている愛猫達の姿を見届けるとフミエは自身の朝食の準備へと取り掛かる事にする。
人気実力共に十分備わっているアーティストであるが為に同世代の一般職に就いている者達よりも比較的多い収入を得ているフミエ。
故に一人暮らしにしては割と広い間取りの部屋に住んでいるものの食事に関しては然程拘りが無いらしく普段からあまり高級な物を口にしない様だ。
それを裏付ける根拠として朝食を作り終えた彼女がキッチンのテーブルに並べたのはトースト1枚、目玉焼き、無糖のプレーンヨーグルト、少しの量が盛られたサラダ、それに飲み物として用意したブラック珈琲といった品々であった。
因みにトーストに至っては焼いた後にバターとジャムを塗るらしくキッチンのテーブルへと運ぶ前に調理スペースにてその工程を行うのだった。
「さてと、食べるとするか・・・。」
そう言うと珈琲を少し口に含んだ後、トーストを両手で半分に切り分けると利き手である右手に持っている方を齧った。
補足として述べておくと珈琲は行きつけの喫茶店にて購入した『モカブレンド』、パンに塗っているジャムはアヲハタ社の『果実まるごと 白桃』である。
奇しくも愛猫であるモカとモモに因んでいる様にも窺えるこれ等の品目。
解説しておくと珈琲に関してはモカを飼う前後で『ガテマラブレンド』や『コロンビアブレンド』等のブレンド珈琲の類を一時的に愛飲していた事も有ったが結局のところ『モカブレンド』に落ち着いたらしい。
そして、ジャムについては一貫してアヲハタ社が製造販売している商品を好むフミエだったが定番である『いちご』を始め『ブルーベリー』や『マーマレード』、『あんず』等と渡り歩いた末に『白桃』に行き着いたのだった。
加えて珈琲は味や香りが極力損なわぬ様、ファスナー付きのプラスティックバッグに入れ冷凍庫にて保存している事もこの場を借りて説明しておこう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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