テディベア その04
前回投稿した『その03』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
モカとモモが蛇に睨まれた蛙の様な状況下にある傍ら安藤のスマートフォンのバイブレーションが作動する。
それに気付くと彼女はビジネススーツのジャケットのポケットに入れているスマートフォンを取り出すと一旦、液晶画面に表示された発信者を確認した上で応答する。
「はい、もしもし。どうしたのコバヤシ?」
どうやら発信者はフミエが所属するバンドのメンバーであるコバヤシらしく安藤が電話に出た事を機にミュージシャンとマネージャーによるやり取りが始まった。
「あ、安藤さん。今、何処に居んの?」
「んん?『何処』ってフミエの家だけど。」
「ええ、フミエの!?何でまた?」
「決まってるでしょ、送迎よ。マネージャーとしての業務を熟してんのよ。」
酒に酔っている為か大袈裟な反応を示すコバヤシに対し電話越しの安藤は敢えて何時も通りに接する。
「ふぅん。まぁいいや。それより二次会もう始まってるから早く来てよ。」
あしらっている様にも感じられる安藤の振る舞いにめげる事無くそんな催促をするコバヤシ。
察するに二次会が開始されているのにも拘らず未だにやって来ない安藤に痺れを切らし勢い任せに電話して来た様だ。
一方で彼の付近ではドラムを担当するサノが同レーベルに所属するアーティストやスタッフ達と談笑しながらも彼女の到着を今か今かと待ち侘びているのだった。
「分かったわ、すぐ行く。」
「うん、待ってるよ。サノ達と酒飲みながらね。」
かなり酔いが回っているらしくそれを窺わせる発言をするコバヤシに安藤は最後まで冷静な態度を貫き通した末、電話を切るのだった。
ライブの際、ステージ上にて『缶ビールの一気飲み』や『歯ギター』等といった破天荒なパフォーマンスを披露するコバヤシだが普段の彼は口数の少ない落ち着き払った雰囲気を可持ち出す年相応の青年。
そんな一面を持つコバヤシが賑やかな口調で自分に向け電話をして来た事に初めの内は僅かに煩わしく思ったものの次第に微笑ましさを覚えた安藤。
またコバヤシとの通話中、スピーカー越しから聞こえたサノの笑い声から加入当初は自分を出せず遠慮勝ちだった彼が知らない間に周囲と打ち解ける程の関係性を築き上げたのだと察すると同時に心が和らいだ彼女はスマートフォンの液晶画面をスリープモードにした後、ジャケットのポケットに仕舞ったのだった。
「もう行くの?」
「ええ。コバヤシが早く来いって。それにアイツとサノの送迎もしなきゃいけないしね。」
一連の話の内容を耳にし、フミエは間も無く安藤がこの部屋を後にするのだと感知するとマネージャーはそれを肯定した上で酔い過ぎて動けなくなるだろうコバヤシとサノの送迎を引き受ける事を補足した。
「そう。何時もゴメンね、ありがとう。」
「良いのよ、あんた達を支えるのがマネージャーとしての私の仕事なんだから。」
バンド内に於いてサブリーダー的なポジションを担うフミエ。
業務時間外だというのにメンバーであるサノは兎も角、バンドの発起人でありリーダーという立場であるコバヤシの面倒までもマネージャーに押し付ける形となってしまい申し訳無さそうに礼を言うフミエに安藤は自身が担当するミュージシャンに気を遣わせたくなかったのか平然とした態度を強調する様にして返答したのだった。
「あと、コバヤシに伝えておいてね。『明日のレコーディングは遅刻厳禁』だって。」
「ええ、言っておくわ。それとフミエが『もう酒絡みで皆に迷惑掛けたくない』って私に言ってた事もね。」
「あはは。当て付けも良いとこだね。」
マネージャーとしての心遣いを理解しながらも嫌な顔一つせず答えた素振りを見た事で少し安心したフミエは冗談を交えたコバヤシへの伝言を安藤へ依頼する。
それを受け安藤は今の言葉に便乗する形で付け加えた後、フミエと共に笑い合うのだった。
ミュージシャンとマネージャーによる会話に一区切り付いた頃、安藤は徐にフミエの愛猫達に視線を向けるとそのまま2匹が居る方へと歩み寄る。
『おばさん』という禁断のフレーズを口にし、無意識の内に反応した彼女から鋭い眼光を向けられたモカとモモ。
それが故に今まさに硬直状態に居るふたりは徐々に近付く安藤に緊張を覚える中、彼女はモカとモモへ両手を指し伸ばす。
「はっ・・・!」
「ひぃ・・・!」
その動作に気付き表情が強張るモカの隣でモモは悲鳴に似た声を上げる。
そして、佇んだまま大きな瞳を力強く瞑ったふたりだったが程無くして頭部から何やら心地良い感触を覚える。
困惑しながらも目を開けるとそこには此方に微笑みかける様にして自分達の頭を撫でている安藤の姿が在った。
「それじゃぁね。三毛猫ちゃん、アメショちゃん。」
左右それぞれの手の平で安藤はふたりの頭を撫でつつ語り掛ける。
そこから主同様に優しい温もりを感じたふたりは先刻までの緊張が解れると条件反射的にゴロゴロと喉を鳴らすのだった。
「あと、フミエをよろしくね・・・。」
2匹の子ネコへ飼い主であるフミエに聞こえない様に意味深な言葉を囁く安藤。
どういった意図が有ってその発言に至ったのかを理解出来ないままモカとモモは玄関へと向かう安藤の後ろ姿を物思いに見詰めるのだった。
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