テディベア その03
前回投稿した『その02』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
『ガチャ!』
淋しさを募らせるあまり目に溜まった涙が流れ落ちそうになるも玄関のドアの開閉音に反応し頭の上の耳をピンと立てたふたりは揃って主が帰宅して来た事を察する。
「今の音。」
「ご主人様じゃないかしら?」
顔を見合わせ共通の『勘』が働いた事を確認し合った後、徐に口を閉ざしたふたりは音がした玄関の方へと耳を傾けると程無くして主以外の者の気配を感じ取った。
「誰か一緒に居るみたいだわ。」
「だ、大丈夫だよ。きっとご主人様のお友達かお仕事関係の人とかだよ。」
不安そうにするモモを気遣い慰める様な言葉を告げるモカ。
宛らその台詞は穏やかな心境ではない自分に対して言い聞かせている様にも見える。
そうしている内に主の物と交わる様にしてフローリング越しから聞こえる足音が近付くにつれ次第に警戒心を強めるふたり。
だが、廊下とキッチンを隔て設置されたガラス戸が開いた際に目に入った光景をきっかけに自分達の中で最大限まで高めていた警戒心のボルテージを一旦和らげる事にするのだった。
「運んでくれて、ありがとう。重たかったでしょ?」
「別に良いわよ。それよりこれ何処に置けば良い?」
「取り敢えず、その辺に置いてもらって良いよ。」
ほろ酔い加減の主が自宅へと招き入れた末、キッチンへと案内したのは自身が所属するバンドのマネージャーである安藤。
担当するミュージシャンの送迎を兼ねこのアパートへとやって来た安藤は家主であるフミエの指示の下、抱えていた荷物をキッチンの端へと降ろすと溜め息を一つ吐いた。
そして、リビングとキッチンを繋ぐ出入口付近にてモカとモモが窺う様にして見守る中、主とマネージャーによる他愛の無い会話が始まる。
「それにしても酒豪で有名だったあんたが程々に飲むのを止めてその上一次会で切り上げるなんてねぇ・・・。」
「ミュージシャンは身体が資本だからね。それにキャリア的にも年齢的にももう酒絡みでメンバーや安藤さんに迷惑や心配を掛ける訳にはいかないし・・・。」
物思いに耽る様にして語った安藤へ何気無い装いで返答するフミエ。
するとその一言に安藤は感銘すると共にインディーズ期からメジャーとして活動する様になった今に至るまでマネジメントを担当して来たバンドのメンバーの1人であるフミエが『アーティスト』としてだけではなく『人間』としても成長している事に気付くのだった。
「幾つになっても『ガキ』のまんまだと思ってたけど、あんたも何時の間にか大人になったわね・・・。」
「あはは。何それ?少し『おばさん』臭いよ。」
担当するバンドのメンバー達と分かち合った忘れられない過去の出来事が脳内にて蘇る中、安藤はフミエへたった今芽生えたばかりの想いを口にする。
しかし、先程自身が発した台詞に対し当初予測していたものとは異なるリアクションを示したのに加え感慨深げにしながらその想いを口にした安藤の心中を悟る事が出来なかったらしいフミエは湿っぽい空気になるのを懸念し、控えめに笑いながら洒落っぽい言葉をマネージャーへと投げ掛ける。
「誰が『おばさん』だって・・・?」
「あ、いや・・・。あとカヤにも言ったけどモカとモモの事も有るしね。」
『おばさん』という言葉に反応しドスの利いた声をさせ鋭い目付きを送る安藤に慄くあまり咄嗟に話題を変えるフミエ。
それを受け表情を従来のものへと戻した安藤はリビングの片隅から此方の様子を窺っている三毛とアメリカンショートヘアの子ネコ達に目をやる。
フミエが2匹を引き連れるまでの経緯を知っている彼女にとって何か想う事が有るらしく少しの間、無言を貫くのだった。
その頃、この時点で先程フローリング越しに感じた主以外の足音の正体がマネージャーの安藤のものであった事を完全に理解したモカとモモは彼女達のやり取りを横目に井戸端会議の様なやり取りを行っていた。
「ねぇ、モカ。あの『おばさん』、ご主人様のお仕事を手伝ってくれる人だよね?」
「うん。多分そうだよ、モモ。それにあの『おばさん』、ご主人様があたしを此処に連れて来てくれた時も一緒に居たし・・・。」
すると何処からともなく自分の事を『おばさん』呼びする声が聞こえた事で安藤は無意識に鋭い眼光を再びさせるとその眼差しを三毛とアメリカンショートヘアの子ネコ2匹へと送る。
「ふにゃっ・・・!?」
「はにゃっ・・・!?」
あまりの迫力にふたりが硬直してしまう中、マネージャーによる奇妙な行動にフミエは困惑しながらも何事かと尋ねる。
「どうしたの?」
「あ、いや。また私の事を『おばさん』呼びした声が聞こえた気がして・・・。」
「えぇ、何言ってるの?『素面』でキャラに無い様な事するのは止してよぉ。」
周りを気にする様にして室内の到る所に視線を向ける安藤。
至って真剣な装いで不審な動作をする安藤を目の当たりにするも飽くまでも彼女なりの冗談なのであろうと捉える事にしたフミエは苦笑をしながらも窘める様な言葉を述べた。
「こ、怖かったわね、モカ・・・。」
「う、うん。あたしちょっとだけチビりそうになっちゃったよ・・・。」
一方で余程の恐怖を覚えたのか身体と比例し声を震わせながら現在の心境を口にするふたりは暫くの間、その場に立ったままの状態で居るのだった。
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