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ハンドパワー

今回は久々に1話完結物のエピソードをお届けします。

それではごゆっくりご覧下さい。

夏の暑さもすっかり遠退き、朝晩には肌寒さを感じるも日中は比較的過ごしやすい気候になった11月3日。

ラジオ番組の公開生放送に出演するというスケジュールの為、既に家を出た主の寝室にてモカとモモは出窓カウンターに座りそこから街の様子を眺めていた。


「今日は何だか道が混んでるね?」

「そうね。天気が良いからみんな何処かに出掛けるのかしら?」


ふたりの話す内容から察するに文化の日である今日は多くの歩行者や車が行き交っている事が窺える。

そんな中、誰かと約束でもしているのかスマートフォンの液晶画面を頻りに気にしながらも赤信号で足止めを余儀無くされている大学生風の青年を発見する。


「あの人、何だか渡りたそうにしてる。」

「もしかしたら急いでるのかしら?」


するとその先に在る歩行者用の信号機を指差しながらモカがモモへこんな事を口にした。


「モモ、今からあたし『ハンドパワー』であの信号機の色を変えてみせるよ。」

「『ハンドパワー』、何よそれ?」

「『ハンドパワー』というのは、つまり、その・・・、あれだよ『ハンド』な『パワー』という事だよ。」

「はにゃ?それ説明になってないじゃない・・・。」


返答に困るあまり支離滅裂な事を言い出すモカに呆れるモモ。

そんなモモの表情を目の当たりにするとモカは居直る様にしてこう明言した。


「要するにあたしの念力で今、赤になっている信号機の色を青に変えてみせるって事。」

「本当にそんな事出来るの?」

「勿論。このあたしに不可能の文字は無いのだよ。」


疑ってかかるモモの言葉を跳ね返すとモカは眼光を鋭くさせ信号機に向かって(まじな)いを唱えた。


「ちちんぷいぷい、信号機よ青に変われぇ・・・。」


すると先刻まで赤く点灯していた信号機が青へと変わりそれに気付いた大学生風の青年が小走りに横断歩道を渡り始めるのだった。


「はにゃぁ、凄い。本当に青に変わっちゃった!」

「どう、凄いでしょう?」


驚きのあまり目を丸くするモモの横で誇らしげに胸を張るモカ。

そのやり取りの後、モカはモモへ今自分がしてみせた様に『ハンドパワー』を実践してみないかと提案した。


「ええ?そんな事言われても・・・。それにあたしに『ハンドパワー』なんて有る訳無いでしょ?」

「そんなのやってみないと分かんないじゃん、ね。」

「じゃ、じゃぁやってみるわね・・・。」


1度は躊躇するもモカに促され実践する事にしたモモは自動車用の信号機に向かって呪いを唱えた。


「ちちんぷいぷい、信号機よ赤に変わりなさい・・・。」


少し自信無さそうにするモモだったが、その想いとは裏腹に信号機の青い光りが黄色へと変わると程無くして赤になったのだった。


「ふにゃあ!凄いじゃんモモ、信号機が赤に変わったよ!」

「もしかしたらモカみたいにあたしにも『ハンドパワー』が有るのかしら?」


目の前で起こった光景に興奮を隠せないモカから囃し立てられた事で満更でもない様子を見せるモモ。

この高揚感の中、モモに対し更なる期待を寄せるモカは向かって正面に在る建物の一部分を指差しこう要請した。


「モモ、今度はあのコンビニの自動ドアを開けてみせてよ!」


モカが指差した先に見えたのは主もよく利用するコンビニの自動ドア。

マンションの1階部分にテナントとして入居しているこのコンビニ。

普段、この時間帯にはフォーマルな服装をした者が多く利用するも祝日という事も有ってか店内にはカジュアルな出で立ちの客が多く見られた。


「はにゃぁ、何だか難しそう・・・。」

「そんな事言わずに1回やってみせて。」

「うん、分かった・・・。」


難易度の高い要求に卑屈になるも再びモカに促されるとモモは深呼吸をした後、呪いを口にする。


「ちちんぷいぷい、自動ドアよ開きなさ~い。」


しかし、その想いも虚しく自動ドアは開くどころかピタリと定位置で閉じられたままであった。


「はにゃぁ、やっぱりあたしには出来ないんだわ・・・。」

「モモ、諦めないで。あたしも力を貸してあげる!」

「モカ・・・。うん!」


ガックリと肩を落とし残念そうにするモモを励ますとふたりで力を合わせて一緒に自動ドアを開けようと提案するモカ。

それを受けモモはモカの気持ちに打たれたのか表情を変え力強く返事をした。


「じゃぁ、準備は良い?」

「ええ、何時でも。」


コンビニの自動ドアの方向へ手をかざし合図を送った後、ふたりは声を揃えて呪いの言葉を唱えた。


「「せーの、ちちんぷいぷい(ひら)け自動ドア!」」


気持ちを1つにするかの如く唱えた事が功を奏したのか、今までそんな気配さえ感じられなかった自動ドアが開いたのであった。


「ふにゃあ!モモ、自動ドアが開いたよ。」

「本当ね、やったわぁ!」

「あたし達、やれば何だって出来るんだよ。」

「そうね。あたし、モカとなら何でも出来る様な気がして来たわ。」


この結果に満足したのかふたりははしゃぎながら無邪気に笑い合うも次の瞬間、先程までとは打って変わり虚無感を覚えるあまり真顔になるのであった。


「はぁ・・・。どうしてあたし『ハンドパワー』なんて言ったんだろう?」

「あたしもノッてみたけど、こんな気持ちになるなんて思わなかったわ。」


一連の言動を振り返りそれらの全てにおいて無意味なものであったと思い知るとふたりして溜め息交じりに所感を述べ始めた。


「信号機にしたって色が変わるタイミングで呪文を唱えただけだし・・・。」

「自動ドアが開いたのだって偶然、センサーに何かが反応しただけの事じゃないかしら・・・。」


一頻りぼやいた後、『お互い様』と言いたげにするもそれを口に出す事無く相手の顔を見合うふたり。


「あっちの部屋に行こうか?」

「そうしましょう。」


そしてふたりは規則的に変わり続ける信号機の光りと何かに反応する度に開く自動ドアを背中越しに感じながらもリビングへと移動する為、主の寝室を後にしたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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