キッチン探索 その01
本作では久々となるシリーズ物を書いてみました。
それではごゆっくりご覧下さい。
まどろみを覚える昼過ぎ。
暑さを感じ始めた今日この頃、昼食を終えて暫く経ったモモは虚ろな目をしながらも生あくびを噛み締める。
「ふわぁ・・・。」
昼寝でもしようかと思い立ったモモはソファに横たわり目を閉じて静かに眠りの世界へ導かれようとするも、この後起きる出来事によりそれは出来ないままに終わる。
「ねぇ、モモぉ!」
突然、何処からか現れモモに向け寝かしてなるまいかと言わんばかりに大きな声で呼び掛けるモカ。
「はにゃあ!」
意図せぬ出来事にモモは驚きながらも奇声を上げるとそれに釣られる形でモカは身体をビクッと震わせた。
「ちょっと、モモ。いきなりビックリするじゃん!」
「それはこっちの台詞よ!」
詰め寄りながらも意見するモカにすぐさま反論するモモ。
そしてモカはケロッとした顔をしながらモモに尋ねる。
「ところでモモ、これから何かするの?」
「お昼寝しようかと思ったけど、急にモカが来たから眠たくなくなっちゃわよ。」
モカの登場により眠気が覚めてしまったモモは昼寝を諦めると共に皮肉めいた言葉を掛けても全く動じる事の無いマイペースな相棒に付き合う事にしたのだった。
「それでモカ、一体あたしに何の用?」
「ねぇモモ。あたし達最近、ちゅ~る食べてないよね?」
少々、気怠そうにしながら用件を尋ねるもそれと全く噛み合わない事を言い始めるモカにモモは思わず拍子抜けしてしまう。
「はにゃ?モカったらあたしの話聞いてた?」
「勿論。今から大事な話をするにあたっての前置きだからモモは一旦、あたしの聞いた事に答えて?」
「え?うん、分かったわ。」
何かしらの理由が有るのか。
そう察したモモは一先ず相槌を打つとモカ主導の下やり取りを行う事にした。
「もし今、ちゅ~るをどれか1本食べられるとしたら何味が良い?」
「『どれか1本』?う~ん、難しい質問ね。モカは何味が食べたいの?」
迷うあまり1つに決め兼ねずモモは参考までにモカの意見を聞く事にした。
「あたし?あたしはマグロ味かな・・・。」
「わぁ、良いわねぇ・・・。」
モモからの問いに少し迷いながらも答えるモカ。
それに対し食い気味に反応するモモであったが直後にモカは自分の述べた答えを訂正しながらもまだ迷っている様子を窺わせる。
「あぁ、でもカツオ味も良いし・・・。いや、ほたて味も捨てがたいなぁ・・・。」
「もう、モカったら。『どれか1本』って言ったのはあなたの方でしょ?」
「う~ん、『どれか1本』って言われてもやっぱ選べない。あたしお魚系の味なら全部好きだなぁ。」
「ふふ。まぁでもその気持ち分かるわ。ちゅ~るってそれぐらい美味しいわよね?」
「だよね?だよね?」
結局、言い出しっぺでありながらも1つに絞り込めないままに終わるモカにモモは同意する様にして自分の意見を述べた。
「モカの言う通りお魚系の味も良いけどあたしとしてはお肉系の味も捨て難いところだわ。」
「おお、そう来たか。」
「あの鶏肉の味わいが何とも言えないわぁ・・・。」
意表を突かれた様な表情を見せるモカの横でモモは鶏肉をベースとして作られたちゅ~るの味わいを思い出すと頬に手を当てながらうっとりとした表情を浮かべるのだった。
「あぁ、ちゅ~るの話をしてたら口の中がちゅ~るになって来たった・・・。」
「あ、何だか分かるわそれ。実はあたしも。」
人間の女の子の姿をイメージしながら生活をしているふたりではあるが本来は生後6ヶ月前後のメスの子ネコ。
1度口にしたら我を忘れてしまう程、夢中になってしまうネコ用のおやつの話に花を咲かせているとモカがモモにこんな提案を投げ掛けた。
「ねぇ、今からちゅ~る食べに行こうよ?」
「ダメよ、そんな事したらご主人様に怒られちゃうわよ?」
モカの誘いをとんでもないと言わんばかりに拒むと加えて大好きな主から叱られる事を懸念するモモ。
「う~ん、じゃぁせめてご主人様が何処に仕舞ってるかだけども知りたくない?」
「え?ま、まぁ仕舞ってる場所だけだったら・・・。」
「じゃぁ、決まりだね?」
少し考えた末に導き出した妥協案にモモは渋々ながらも了解するとモカはそれを受け腰に手を当て胸を張ると高らかに宣言する。
「じゃぁ此処に『ちゅ~る捜索隊』を結成するとしよう!」
「な、なぁにそれ?」
「ふにゃ?モモってば説明しなくても分かるでしょ?ちゅ~るを捜索する為の部隊だよ。」
鈍い反応を示す相棒に飄々としながら説明するモカだったが、次の瞬間モモは何かを悟った様に尋ねる。
「あ、ひょっとしてさっきまであたしとしてたやり取りってその部隊を結成する為の口実?」
「ふにゃ!?そ、そんな事は無いよぉ・・・。」
秘かに抱いていた筈の自分の考えをモモによって簡単に見破られてしまったモカは少々、うろたえながらも話を逸らす。
「それよりも今からこの部隊の『隊長』を発表します!」
「もう、誤魔化さないでよ。」
モモからの指摘を余所に何かの役になりきっているのか低い声で話すモカ。
一層の事軽くあしらってしまおうかという想いが頭に過るモモであったがこの後、モカが発する言葉によりその考えが覆る事となる。
「モモ、今から君を『ちゅ~る捜索隊』の『隊長』に任命します!」
「はにゃ。あたしが『隊長』・・・?」
飽くまでもモカが作り出した設定に過ぎないのだが『隊長』に任命されたモモは先程とは異なった反応を示した。
「ねぇ、モカ。あたし本当に『隊長』?」
「え?う、うん。そうだよ。」
「本当にあたしが『隊長』で良いんだよね?」
「ふにゃ。モモ、だからさっきからそう言ってるじゃん。」
目を輝かせながら何度も尋ねるモモにモカは困惑するあまり思わず役柄を忘れてしまうも改めてそうである事を告げる。
「(『隊長』。何て素敵な響きなのかしら。)」
と、喜びを感じる一方その想いを悟られない様にしながら
「ま、まぁモカの頼みなら仕方ないわね。あたし『隊長』やるわ。」
と、『隊長』としての役目を引き受けるのだった。
その光景を受けモカは
「(モモってこんな一面有ったんだ・・・。)」
と、少々戸惑いを覚えながらも空笑いを浮かべるのだった。
『隊長』という言葉の余韻に浸っている中、モモはモカに向けこんな事を尋ねた。
「ところでモカ、あなたには肩書みたいな物は無いの?」
「あたし?一応考えてはいるよ。」
「へぇ。あたしが『隊長』だからモカはもしかして『副隊長』かしら?」
「うん。『副隊長』兼『指揮官』兼『現場監督』兼『相談役』兼・・・。」
良い気分で居られたのもどうやら束の間だったらしくモモの横で自分の階級を発表するモカを見ながら
「(実質的な主導権はモカが握るのね・・・。)」
と、察するも『ちゅ~る捜索隊』を結成したふたりはキッチンへ移動する。
「さぁて、ちゅ~るは何処に有るんだろう?」
キッチンへ着くなり辺りを見渡し、ちゅ~るが有りそうな場所を探し始めるモカ。
その様子を受け、モモは改めて念を押す様にしてモカに告げる。
「言っておくけど飽くまでもあたしはご主人様が保管している場所を確認するだけだからね?別に今、食べようなんて全然思っていないからね?本当よ!」
「分かってるってぇ・・・。」
『隊長』に任命されたのにも拘らず自己保身とも取れる発言をするモモにモカはニヤニヤと笑いながら返答する。
そんな中、何か思い出した事を窺わせたモカは改まった口調でモモに尋ねる。
「ねぇモモ。あの事覚えてる?」
「『あの事』・・・?」
抽象的な言い方だった為、見当が付かず眉を顰めながら思い出せずにいるモモに
「ほら、あれだよ。」
と前置きしたモカは懐かしそうに語り始める。
「何時だったか覚えてないけどご主人様があたし達にちゅ~るを食べさせてくれた時が有ったよね?」
「あぁ、あの時ね?確かあたし達がちゅ~るを食べてるところをご主人様が撮影してたわね?」
モカが具体的な内容を話してくれたお陰で『あの事』が何の事であるかを察知したモモは共感する様な反応を示した後、当日の出来事を振り返る。
そしてそれを付け加える様にしてモカが『あのハプニング』について触れる。
「それでご主人様が握っていたちゅ~るがモモの顔に思い切りかかった時はビックリしたよね。」
「そうそう。あたしあの時何が起こったか分からなかったもの。」
『あのハプニング』について『ははは。』、『ふふふ。』と笑い合うふたりだったが程無くしてモモの中で或る記憶がフラッシュバックすると不服そうにしながらモカへ物申す。
「ちょっと待って、あたしの顔にちゅ~るがかかったのはモカがご主人様の手にぶつかったのが原因じゃない!」
『あれは参ったよね。』と言わんばかりに話していたモカによって自分に降りかかった災難を意図せず蒸し返されたモモ。
それに対しモカは少し驚きながらもモモに反論する。
「えぇ?違うよ、モモがあたしを強く押して来たからでしょ?」
「はにゃ?そ、そう言えばそうだった気もしなくもないかもしれないけど・・・。」
「モモ、言葉数で誤魔化そうとしてない・・・?」
相棒からの指摘に目を反らせながらもあいまいな発言をするモモの姿を見ながら一言呟くモカ。
しかし『あのハプニング』の直前の記憶が蘇ると再びモカに意見する。
「あ!でもモカだってその前にあたしに詰め寄って来たわよね?それで押し合いになった結果あんな事になったんじゃなくて?」
モモからの反撃により形勢を逆転されてしまいバツが悪そうにしながら言い訳がましい事を口にし始めるモカ。
「ふにゃ?そ、そうだったっけ?あ、でもあれはちゅ~るが美味し過ぎるあまり自分の意志とは関係なかったというかその・・・。」
「モカの方こそ言葉数で誤魔化してるじゃない・・・?」
まるで数秒前の自分の姿を見ている様な心境になりながらもモカに対し一言呟くモモ。
そしてこのやり取りが水掛け論である事に気付いたふたりは『お互い様』という結論に行き着くと、『ちゅ~る捜索隊』としての任務を再開するのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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