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はじめまして

今回はモカとモモの出会った時のエピソードを書きました。

それではごゆっくりご覧下さい。

「あははは、モモぉ。」

「もう、モカったら。うふふふ。」


主宅のリビングにてソファに座り今日も他愛も無い事で楽しそうに笑い合うふたり。

珍しい光景ではないのだがふたりにとってはこの瞬間も掛け合えの無いひと時に過ぎないのだ。


そんな中、新緑の季節を窺わせる街の風景を窓越しから眺めたモカはモモにこんな質問を投げ掛けた。


「ねぇ、モモ。そう言えばあたし達って出会ってからどれぐらい経つのかな?」

「うぅん、そうねえ。つい最近だった気もするし、随分前からみたいな気もしなくもないし・・・。」


思い出せずにいるのか明確に答える事が出来ず眉間にしわを寄せながら曖昧な言葉を述べるモモにモカは苦笑を浮かべるのだった。


と、相変わらずなやり取りを繰り広げるふたりではあるが主の下で飼われるまで異なる境遇に身を置いていた。


以前の飼い主宅にて飼育放棄をさせていたモモ。

元々、野良ネコとして暮らしていたモカ。


そんなふたりがどの様にして出会い、打ち解け現在に至るまでの関係性を築いていったのか、今回は一部ではあるが過去のエピソードを綴ってみる事にしよう。


遡る事、数ヶ月前。

ライブを終え控室に戻る際、会場内に迷い込んだ野良の三毛猫を見付けた主は自身に懐いた事をきっかけに自宅に連れ帰り飼う事に決める。

そしてこの子ネコに珈琲の銘柄に因み『モカ』という名前を付けると翌日が移動日である事を逆手に取りこの場でバンドメンバーと一旦別れ、マネージャーの運転する車で自宅へと向かった。


朝靄が立ち込めながらも少しずつ空が明るさを増し新聞配達の原付バイクの走行音が何処からか聞こえて来る中、主の自宅付近に在るコインパーキングに車を停めたマネージャーは昨日、自らが飼うと言い出した三毛の子ネコを抱いたまま眠りに落ちてしまった担当ミュージシャンへ声を掛ける。


「ほら着いたわよ、起きなさい。」


主のバンドが所属する事務所の社員である彼女はデビュー以来マネージャーを務める人物で年齢は10歳程上でサバサバしているが根は優しく、頼もしい性格をしている。


「ん。私、寝ちゃってたのか・・・?」


マネージャーの呼び掛ける声に反応し目を覚ます主。

そして抱き寄せられる形で眠りに落ちていたモカもまだ眠たそうにしながらも釣られる形で薄目を開ける。


「(此処は何処・・・?)」


昨晩、主に懐いた後、安心したのかそのまま熟睡してしまったモカは寝ぼけ眼に見覚えの無い街の風景を映し戸惑いを覚えつつある中、何かを思い出したのか主は慌てた様子を見せる。


「あ、ゴメン。運転代わるって言ったのに!」


無意識に声を張った為か驚きのあまり一瞬、身体をビクッと震わせる動作を見せた子ネコに気遣いながらも2人はやり取りを続ける。


「別に良いのよ。それにマネージャーが担当するミュージシャンに運転させる訳にいかないでしょ?」

「じゃぁせめて、駐車場代だけでも出すよ。」

「それも良いわよ。きっと経費で落ちるから。」


そんな会話を繰り広げた後、車から降りた2人は数メートル先に位置する主のアパートの部屋へと歩き始める。

道中、主に抱き抱えられながらもモカは自分から懐いた物の見知らぬ場所へと連れて来られたという事で何らかの危険が及ぶのではないかという不安が頭の中で過る。

だが、今更逃げ出す訳にもいかずどうして良いのか分からずにいるとふと優しい匂いがモカの鼻を刺激する。

徐々に冷静さ取り戻しつつある中でその匂いが主から発せられているのだと気付いたモカは安心したのかゴロゴロと喉を鳴らした。

そして自身の部屋の前まで辿り着くと抱き寄せている子ネコを落とさぬ様、注意しながらドアの鍵を開けマネージャーと共に玄関へと入る。


「さぁ、今日から此処が君の家だよ。」


優しい口調で語り掛ける主に対しモカは感極まると徐に顔を上げ何か言いたそうにしながらも視線を送った。

だがその直後、主がマネージャー向け尋ねた言葉でその想いが一変する。


「ねぇ、この子だけどもう一度洗った方が良いかな?」


昨晩のライブ終了後、モカを飼う事に決めた主は会場であるライブハウスの給湯室を借り身体を洗ってやるも簡易的に行った為か、如何せんその姿は不衛生に見えた。


「そうね。念の為、そうしましょう。」


そうと決まると2人は玄関先に荷物を置き、浴室へと直行すると嫌がるモカを押さえつけながら今度は念入りに身体を洗ってやるのだった。


十分に身体を洗い綺麗になったモカをタオルで拭いてやると今度は腹を空かしているに違いないだろうという事でエサとミルクを与える為にキッチンへと移動する。


そして主は収納スペースから使い捨ての紙皿を2枚取り出すとエサとミルクをそれぞれ入れ桃色のフードボウルの隣に置いた。

ミルクは兎も角、どうしてネコ用のエサとフードボウルが有るのだろうと疑問を抱くも空腹に敵わなかったモカは一先ず食事をする事にした。

一方、調理スペースにて自分達の食事の準備を始めた主にマネージャーは或る事を尋ねる。


「ところでアメショちゃんは?」

「ああ、モモの事?連れて帰って来た日は懐いたんだけどそれ以降はあんまり懐いてくれなくて。」

「そう。まぁ、徐々に懐いてくれるでしょ?」

「だと良いんだけどね。」


その会話を耳にしたモカは既に何らかの生き物がこの家で暮らしているのではないかと察しながらも食事を終えた。


軽い食事の後、交代でシャワーを済ませた2人は仮眠を取る事にすると主は寝袋をマネージャー用に準備した上でモカを残し寝室へと移動した。


するとリビングにて独りになったモカは何処からか視線を感じ振り返るとソファの後ろに隠れる様にして不安そうに此方を見ているメスのアメリカンショートヘアの姿を確認すると自分と同じぐらいの大きさをした子ネコに話しかける事にした。


「ねぇ、君!」

「はにゃあ!?」


見ず知らずの三毛猫に突然、話しかけられ驚いたのか思わず声を上げるアメショ。

そしてモカはアメショの傍へとやって来るとニコッと笑いながらも挨拶をする。


「はじめまして!」

「は、はじめまして。」


戸惑いながらも挨拶を返したアメショは物怖じしない三毛猫に幾つか尋ねたい事が有った物のそんな思惑とは裏腹にモカが主導する形で話が進む。


「あたしね、あのお姉さんに拾ってもらったんだ!」

「え?『あのお姉さん』ってもしかしてご主人様の事?」

「あの人、『ご主人様』って言うんだね?じゃぁあたしもあのお姉さんの事『ご主人様』って呼ばなきゃだね?」

「え?うん。」


話の内容から目の前に居る三毛猫が自分と同じく主の下で飼われるのだと悟ったアメショは躊躇しながらも一先ず相槌を打つとモカは次の質問を投げ掛けた。


「ところでさぁ、此処に居るって事は君もこの家に住んでるんだね?」

「う、うん。」

「ねぇ何時から?どういう訳で此処に来たの?」

「そ、それは・・・。」


何気無く尋ねたに過ぎなかったのだがそれをきっかけに表情を曇らせゆっくりと視線を反らすアメショに対し罪悪感を覚えたモカはうろたえながらも別の話題を振る事にした。


「あ、そうだ。君、名前は?」

「な、名前?」

「ゴメン。こういう場合、まずは自分の名前からだよね?」


アメショの顔色を窺いながらもモカは昨晩、主から与えられた自分の名前を誇らしげに名乗った。


「あたし、モカっていうの。」

「モカ、ちゃん?」

「気軽にモカって呼んでね!」

「う、うん。じゃぁ、モカ。」


自己紹介を済ませ呼び名も決まったところでモカは改めてアメショの名前を尋ねる。


「じゃぁ君の名前を教えて?」

「あ、あたしはモモ。」

「モモちゃん?可愛い名前。」

「え・・・?」


どうやらこのアメショはモモというらしくその愛らしい名前にモカは目を輝かせながら反応を示した。

それを受けモモはこれまであまり言われた事の無い言葉に少し戸惑いを見せているとモカは続ける様にて尋ねる。


「その名前、もしかしてご主人様が付けてくれたの?」

「う、うん。」

「そうなんだ。実はあたしもご主人様に付けてもらったんだ。」


今まで野良ネコとして暮らしていたモカにとって名前を与えられたという事が余程嬉しかったらしく自慢げにモモに話す。

一方、モモはこの三毛猫も自分と同じく主に名付けられた事を知り少しだけ親近感を覚え始めた。


「あたし達、ご主人様に素敵な名前を付けてもらったね?」

「そ、そうね・・・。」


その問い掛けにモモは微笑を浮かべつつ同意した後、どういう訳かモカはジロジロと見ながら何か言いたそうにする。


「な、なに?」


何故その様な行動をしているのか理解出来ずモモは慄きながら尋ねるとモカは飄々としながら答えた。


「いや、モモちゃんって名前だけじゃなくて見た目も可愛いんだね?」

「あたしが、可愛い?」


再び耳にした『可愛い』という言葉にモモは頬を染めながらも躊躇した様子を見せるとモカはそれを肯定した上で自分の見た目と比較し始める。


「そうだよ。それに引き換えあたしなんか、今まで野良だったし。それにほら、見ての通りの三毛だから、本当は雑種だし・・・。」


自分の生い立ちに対し引け目を感じてか自信無さげに話すモカにモモは居た堪れなくなるとそれを強く否定した。


「そ、そんな事無いよ!」

「ふにゃ?」

「も、モカもとっても可愛い。」

「本当!?ありがとう、モモちゃん!」


突然大声を出したかと思うと今度はボリュームを抑えつつ真剣な表情で自分の事を肯定するモモに嬉しさを覚えるとモカは屈託の無い笑顔を浮かべ礼を言う。

するとモモは照れながらもモカに向けこんな要望を出した。


「呼び方、あたしもちゃん付けじゃなくて良い。」

「そう。じゃぁ、モモ。」


少し間の後、今度ははにかむ様にして笑うモカはその要望通りにモモの名前を呼ぶとふたりは改めて挨拶を交わす。


「じゃぁこれから宜しくね、モモ。」

「うん。此方こそ宜しく、モカ。」


この出会いをきっかけに今日(こんにち)までに見られるモカとモモの賑やかな日々がこうして幕を開けたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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