エイプリルフール
少し遅れましたが4月という事でこんなエピソードをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
3月31日の深夜。
モモが別室で寝ているのを良い事にモカはソファに座りテレビを見ながら晩酌をしている主の膝の上で転寝をしながらも至福の時間を過ごしていた。
「(ご主人様を独り占め出来るなんて幸せだなぁ。)」
喜びに浸りながら寝落ちしかけるモカを愛でている最中、室内に有るデジタル時計に目をやった主は間も無く日付が変わる時刻を表示していた事に気付く。
「もう、こんな時間か・・・。」
そう一言呟き今夜は就寝する事に決めると膝の上に乗っている愛猫の三毛猫を一旦床の上にそっと降ろしテーブルに置かれた空き缶やつまみ類を片付ける為それらを手に持ちキッチンへと向かった。
「むぅ。折角良い気持ちだったのに・・・。」
意図せぬ出来事に不機嫌そうにするモカであったがふと点けたままのテレビに目を向けると深夜の情報番組が放送されていた。
終盤に差し掛かった番組内にて女性アナウンサーが視聴者に呼び掛ける様にフリートークを繰り広げておりモカは暫くそれを見る事にした。
「皆さん。明日、4月1日はエイプリルフールですね。」
「エイプリルフール?」
聞き慣れない単語にモカは眉をひそめながら首を傾げるとテレビ画面越しに女性アナが「ご存じない方は居ないと思いますが。」と前置きすると明日4月1日が嘘を付いても良い日であるという説明をする。
その前置きに「うっ。」と言葉を詰まらせたモカであったが女性アナの説明を聞き感心する様な反応を示した。
そんなモカの事等知る由も無い女性アナは忠告する様な言葉を画面越しから投げかける。
「ですが皆さん、嘘を付いても良いのは午前中までですよ!」
「ふにゃっ!そうなの・・・?」
エイプリルフールという行事が存在していた事すら知らなかった上にそんなルールが設けられている事に驚愕するモカ。
スタッフロールが全て流れ制作局のロゴと字幕が画面下に固定する様にして表示されたタイミングで女性アナは再び視聴者に呼び掛ける様にして番組を締め括った。
「お昼を過ぎたらもう嘘を付いてはいけませんからね。それでは皆さん、おやすみなさ~い。」
番組が終了すると同時に低予算で制作されたであろうコマーシャルが流れ始めたタイミングで俯き加減に黙り込むモカ。
するとキッチンで主が片付けをする音がリビングにも聞こえる中、何かを企む様な不敵な笑みを浮かべるのであった。
翌日。
今日の主はレコード会社にてこの度リリースされる所属するバンドの新曲のプロモーションを兼ねた雑誌のインタビューと音楽番組のコメント撮りというスケジュールが入っており、朝食と身支度を済ませると何時もよりも少ない荷物で2匹の愛猫に見送られる形で家を後にするのであった。
その光景を見届けた後、モカは少しトーンを落とした声でモモに呼び掛ける。
「ねぇ、モモ・・・。」
「ん。どうしたのモカ?」
振り向きざまに憂いを秘めたモカの表情が目に入るなりモモは瞬時に
「あ、ゴメン。やっぱいいや・・・。」
卑屈になった様に一度言いかけた言葉を胸にしまった様子を窺わせるモカ。
それを察したモモは「良くないわよ・・・。」と前置きした後、神妙な面持ちで述べる。
「モカ。何か隠してるでしょ?お願いだからあたしに何が有ったか教えてよ・・・?」
「うん。分かった・・・。」
躊躇する素振りを見せつつモモの要望を受け入れたモカは思いがけない事を口にするのであった。
「モモ、突然だけどあたし今日であなたとお別れなの。」
「え?モカ、あなたいきなり何を言い出すの?」
衝撃の告白に大きな動揺を覚えながら声を震わせるモモにモカは淡々とした口調で続ける。
「明日から別のお家で飼われる事になったんだ。」
「そんな・・・。幾ら何でも急すぎるよ。」
そしてモカは昨晩主が電話にて何者かとやり取りをしていたとし、その内容から自分が話し相手の家へ引き取られるのだろうと察したという架空のエピソードを披露する。
「もしかして、ご主人様が今日、出掛けて行ったのって・・・。」
「うん。次に行くお家の人に挨拶をしに行ってるんだよ。」
嘘とは知らずその話を完全に信じてしまったモモは念の為、事実関係を確認するとモカはそれを肯定した上で追い打ちをかける様に尤もらしい理由を述べる。
「嘘でしょ・・・?」
力無くポツリと呟くモモ向けモカは優しい顔をしながら別れの言葉を口にした。
「モモ、言い出せなくてゴメンね。そして今までありがとう・・・。」
「嫌だよぉ。あたし、モカとお別れしたくないよぉ。」
感情を抑える事が出来なくなり今にも泣き出しそうな顔をしながらモモは突如訪れたモカとの別れを拒む。
すると何故かモカの身体がワナワナと震えだすとその直後に突然大声で笑い始めたのだった。
「あはははは・・・。」
シリアスな状況を一変させる出来事にキョトンとするモモへ向けモカは次の様な言葉を口にした。
「モモ、今日はエイプリルフールだよぉ!」
一先ず、モカが他所の家に引き取られない事が分かったモモはどうしてそんな嘘を付いたのか聞いてみるのであった。
「エイプリルフール・・・?」
「そう。今日4月1日は『エイプリルフール』って言って噓を付いても良い日なんだって。」
「もう!モカのバカ!本当かと思ったじゃない!」
「ゴメン、ゴメン!」
毎度の事ながら機嫌を損ねるモモの横で苦笑交じりに平謝りをするモカ。
呆れながらもこの場を丸く収めるモモだったが暫く経った後、ふとある想いが頭を過る。
「(そう言えばあたしモカに揶揄われる事が多い様な・・・。)」
それをきっかけにそんな気がしてならなくなったモモは少し悩んだ末にある結論に至った。
「(今日は嘘を付いても良い日だっていうし、あたしだってたまには良いわよね?)」
そしてモモはエイプリルフールを理由にモカにイタズラを仕掛ける事にするのだった。
「(さ、『エイプリルフール』も終わった事だし、通常モードと行きますか。)」
エイプリルフールの時間内である午前が終わり、何時も通りの装いに戻ったモカは澄まし顔でソファに座るモモに話しかける事にした。
「ねぇ、モモ!」
「なぁに?」
名前を呼ぶなりジトッとした目付きで不愛想に返事をするモモにモカは卑屈になるも何事かと尋ねる。
「ふにゃ?どうしたの、モモ?」
「そっちこそ、どうしたの?あたしに何か用?」
「も、もしかして『塩対応』ってヤツ?」
何時に無く冷たい態度のモモに引きつった笑みを浮かべながら冗談交じりに受け答えをするモカ。
するとそんなモカに対しモモは思いがけない言葉を投げ付けた。
「あたし、実はモカの事大嫌いなの。」
「え・・・?」
その言葉にモカは思わず目を丸くしながら言葉を詰まらせるも程無くして飽くまでもモモによる洒落であると受け取る事にする。
「またぁ、モモってばそんな事言って・・・。」
めげずに冗談めいた口調で語り掛けながらモモの肩に触れようとするモカ。
するとその気配を感知したモモは突き放す様な台詞をモカへと吐き捨てた。
「もう。あっち行ってよ、三毛猫さん!」
「も、モモ・・・?」
この一言が決定打となってしまったらしくモカは俯いたまま静かにその場を後にする。
一方、そうとは知らずモモは一転して笑った顔を見せつつお道化ながらモカの反応を窺う。
「なんてね。今日はエイプリルフールだから嘘を付いても許されるのよね、モカ・・・?」
だが、肝心のモカはというと既に姿を消しておりモモはこの時点で初めてその事実に気付いた。
「モカったら何処に行っちゃったのかしら?」
2、3回辺りを見渡すとひとりになったリビングにてモモは不思議そうに呟いたのだった。
そして、当のモカはというと別室にて身体を震わせつつ何やら独り言を口にしていた。
「どうしよう。あたし、モモに嫌われちゃった。」
エイプリルフールの嘘であるとは知らず先程のモモの振る舞いに動揺しながらもモカは何故こんな事態を導いてしまったのか自分の中で分析を始める。
「(普段からモモの事を困らせたり迷惑ばかりいるからかな?)」
「(それともエイプリルフールだからってあんな嘘を付いたからかな?)」
考えられる要因を幾つか上げるも明確な答えを出せずに堂々巡りになりかけたその時。
「モカ、こんな所に居た!どうしたの急に居なくなったりして・・・?」
突然姿を消した為、心配になって探しに来たモモの顔を見るなりモカは理性が崩れた様にわんわんと泣き出した。
「うわぁ~ん、モモおお・・・。」
「はにゃ!いきなり何!?」
号泣しながらも物凄い勢いで飛び付いて来たモカに困惑するモモ。
「ゴメンなさぁ~い。これからはモモを困らせたり迷惑かけない様にするから、あたしの事嫌いにならないでぇ!」
「ちょっとモカ、あなた一体何を言ってるの?」
何の事か理解出来ないモモは目の前で大泣きしているモカを落ち着かせた後、取り敢えず話を聞く事にするのであった。
「ええ?嘘を付いても良いのって午前中までなの!?」
「うん・・・。」
モカからエイプリルフールについての事柄を聞きそんなルールが設けられていたのを知るや否や驚きを隠せないでいた。
「ゴメンなさい。あたしそんなルールが有ったなんて知らなかったわ。」
そして申し訳無さそうにしながら涙で瞳を滲ませているモカに向け一連の言動を詫びる。
それを受けモカは真っ赤に腫らした目でモモと顔を合わせようとすると不意にシルバータビー模様の尻尾が視界に入る。
「モカ。エイプリルフールだからってあたしちょっと言い過ぎちゃったわ。」
数秒程沈黙した後、何かを察知したモカは涙を拭うと照れくさそうに微笑を浮かべる。
「ううん。あたしの方こそゴメン。元は言えばあたしが悪いのに・・・。」
モモに謝りながらモカは三毛模様の自分の尻尾を差し出すとふたりは互いの尻尾を重ね合わせる。
何時の頃から『しっぽあくしゅ』と名付けられたこの行為はふたりが仲直りをする際に行われる物でありそれが終わると普段通りの自分達に戻るのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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