オリジナルソング
久々に季節のイベントとは関係の無いエピソードをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
朝晩はまだ寒いながらも日中は温かさを感じる様になった今日この頃。
鼻歌交じりにリビングへとやって来たモカは周囲に誰も居ない事を確認するとソファの座面部分に飛び乗り何かを始めようとしていた。
「えへん。あー、あー、あー。テスト、テスト・・・。」
咳払いを一つした後右手を口元までやると持っているつもりであるマイクの音響チェックを行うとモカは身体をリズミカルに揺らしながらボイスパーカッションを2小節行うと自作のラップを唄い始めた。
「ヘイ、ヘイ、注目 Boys & Girls
今からあたしのラップをお見舞いするぜ
覚悟しときなよ、度肝抜かすぜ
ネコ耳立てて聞いてなよ、リッスン♪」
ブリッジとして「Ah」、「Yeah」といった掛け声を交互に口ずさみながら左手でスクラッチする身振りをした後、ラップの続きを唄う。
「とにかくすごいぜ あたしのラップは
ビックリするなよ あたしのラップに
テンション上げてけ バイブスあげてけ
ついでに尻尾も上げていこうぜ
路地裏産まれ ご主人様ん家育ち
その辺のネコは大体友達
盾突く奴は相手してやるさ
弱音と毛玉を吐かせるぜ ルーザー
そうさ、あたしはイカした三毛猫 チェケラー♪」
右人差し指を正面に向けると「決まった」と言わんばかりに得意顔でポーズを取るモカ。
しかし、ふと右人差し指越しの背景を見てみるとそこには困惑しながらもどう反応して良いか分からない様子のモモの姿が在った。
「も、モモ・・・?」
「も、モカ・・・。」
数センチ離れた位置から顔を見合わせたふたりは気まずそうにしながらも取り敢えず互いの名前を呼び合う。
そして混乱しながらも現状を理解したモカは程無くして悲鳴に似た声を上げその場に蹲った。
「ふにゃあ!」
図らずもモモにお粗末な歌詞のラップを披露してしまい火を炙った豆炭の様になる顔を隠す様にして覆うモカ。
「だ、大丈夫よモカ。誰も居ない時ってつい歌っちゃうよね?それにさっきの唄、とってもカッコ良かったよ!」
様々な感情が混同し、どうにかなってしまいそうなモカにモモは少し申し訳無さを覚えながらも慌ててフォローするのであった。
モカが平常心を取り戻しだした頃、ソファに着席したふたりは先程のラップについて話をする。
「オリジナルソング?」
「そう、さっきのはあたしが作ったラップ。」
「そう言えば『弱音と毛玉を』みたいな事唄ってたわね?」
「ふにゃぁ・・・。恥ずかしいから改めて言わないでよぉ。」
良かれと思いラップの歌詞について触れるも苦笑交じりにモカはそれを拒む。
意図せず蒸し返してしまったモモは「ふふ。ゴメンなさい。」と平謝りした後、素朴な疑問をモカへ投げかけた。
「ところでモカ。どうしてまたラップに目覚めたの?」
「それはね・・・。」
そう前置きするとモカはその経緯を説明すべく回想を交え話し始めた。
とある平日の午後。
この日、オフであった主は気分転換と曲作りのアイディアを得る事を目的に作業部屋にて購入してから未開封のままにしていたCDアルバムを聞く事にした。
「どれにしようかな・・・。」
そう呟くと主はそれぞれジャンルが異なる数枚の中から迷った末に米国のヒップホップユニットのアルバムを選んだ。
早速、封を開けるとラジカセの電源を入れCDをセットし、再生ボタンを押すとパソコンデスクの前に有る回転椅子に着席した。
同じ頃、廊下を歩いていたモカの耳に入ったのはノリの良いメロディに乗せ聞き慣れない言葉でリズミカルに唄う謎の音楽。
「何だろう・・・?」
そう思いながらも家の中の何処で聞こえるその唄に向け耳をピクピクと2回動かした後、出所を探る。
すると前方に見える作業部屋のドアが僅かに開いておりそこから部屋の明かりと共に廊下へと漏れる様にして聞こえているのだと察した。
「ご主人様の部屋からだ・・・。」
発信源が主の部屋からである事を確信したモカはドアの前に佇むと心地良さを覚え始めたその唄を拝聴する事にする。
「うんうん。よく分かんないけど、何だかテンションが上がって来るねぇ・・・。」
初耳ながらも高揚感を覚えたモカはテンポの良いリズムに合わせる様にして思うままに身体を揺らし始める。
「もしかしたらあたしにも出来るかも・・・。」
根拠は無いがそんな自信を抱いたモカは頭に浮かんだフレーズを合いの手の様にして口ずさむ。
「うん。案外良いじゃん!」
即席の唄に手応えを感じつつ後にこの手の音楽が『ラップ』というジャンルである事を知ったモカはこの出来事を機にヒップホップミュージックに魅了されると誰も居ない時を見計らい自らが作ったラップを唄い自己満足に浸るのであった。
「へぇ、そんな事が有ったの・・・。」
モカがその経緯に至った事実を知るなりモモは感心する様にして率直な意見を言う。
「モモに見られたのは恥ずかしかったけど、あたしのラップなかなかでしょ?」
「ま、まあね・・・。」
僅かに恥ずかしさを残しつつも居直った印象を窺わせるモカはラップに関する感想を聞くもどう返答して良いか判断に迷ったモモは一先ず当たり障りの無い相槌を一言打つ事にした。
そんな様子を気に留める事無くモカは興味深そうにしながらモモに尋ねる。
「ところでさぁ、モモはどんな歌が好きなの?やっぱりあたしと同じでラップだよね?」
「え?」
目を輝かせながら徐々に顔を近付けながらモモに尋ねるモカの様子から自分に対してラップが好きであるという答えを求めているのではないかと察したモモ。
少したじろぎながらも、
「ラップも良いけれど・・・。」
と前置きをした後、好きな歌のジャンルを答えた。
「あたしはラブソングや誰かを元気付けられたり勇気付けられたりする歌が好きかな・・・。」
「例えばアイドルの人達が唄う様な感じの?」
「そう!まさにそんな感じだわ。」
抽象的な言い回しであった為、モカは掘り下げる様にして問うとモモは肯定的な返事を返す。
「でもどうしてモモはアイドルソングが好きになったの?」
「実はね・・・。」
モカからの質問をきっかけにモモは一連の経緯について説明すべく回想を交え話し始めた。
それは主が所属するレコード会社にてバンドメンバーやスタッフを含め今後の活動についてのミーティングを行った日の事。
夕方、話が上手くまとまり帰宅しようとすると広報部の担当者から同じレコード会社に所属するアイドルグループがこの度リリースするニューアルバムのプロモーションの為、コメントを書いて欲しいと依頼された主。
参考の為、ライブDVDを渡された主は帰宅後、リビングにて彼女達の映像を見ながら気の利いたコメントを書こうと試みる。
「普段、アイドルの子達の唄って聞かないからなぁ・・・。」
ライブDVDの映像を垂れ流しつつ机に置いてから一度も手にしていないメモ用紙とボールペンの傍に肘を立てつつ頭を抱える主はなかなか気の利いたコメントを思い付く事が出来ず嫌気が差した様にぼやく。
すると夕食を済ませまどろもうとした矢先、キッチンからリビングに居る主の後ろ姿を確認したモモは既に食事を済ませ床の上でまどろんでいるモカを尻目に主へと向かう。
リビングへとやって来るなり自分の膝に顔を摺り寄せようとしたモモの気配に気付いた主は頭を2回程撫でた後、煮詰まっている頭を冷やすべく、目の前に置いた煙草と100円ライター、それに携帯用の灰皿を手にし、喫煙の為ベランダへと足を運ぶ。
その場を後にする主の後ろ姿を見送った後、手持無沙汰の様な感覚になったモモはリビングの床に座るとテレビ画面の方へと視線を向けた。
「ご主人様、一体何を見ていたのかな?」
そんな疑問を抱きながらも程無くしてモモはそこに映し出されるアイドルグループの歌とダンスに目を奪われた。
「わぁ、すごい・・・!」
彼女達のパフォーマンスに感銘を受けたモモは素直な感想を吐露しながらもテレビ画面に向けキラキラとした視線を送るのだった。
次の日。
リビングのソファに背中を預け昨晩見たアイドルグループのライブ映像を頭の中でリピート再生しながらひとり物思いに耽るモモ。
「あたしもあんな風に歌いながら踊れるかしら・・・。」
彼女達に対し憧れを抱くあまりそんな願望を呟いた後、不自然な程に辺りを見渡すモモ。
「(どうやらモカは居なさそうね・・・。)」
察するにモカが傍に居ないかの確認だったらしく一連の動作を終えるとモモは深呼吸をし、頭の思い浮かんだ言葉にメロディを付け唄い始めた。
「あなたに届けこの想い
あたしの愛を今すぐに♪」
簡易的な踊りを交えながら歌うモモは決めポーズとして右手を胸の位置に添えながら左手を差し出す。
「良いよね?うん、良い感じよね?」
数秒、間を空けた後自分の歌と踊りに自画自賛をするモモは同じ要領で再び振りを付けながら歌い始めた。
「あたしアメショ。
夢見るアメショ。
恋する気持ちはまだナイショ♪」
モカが見ていない事を良い事にモモはその後も即興のオリジナルソングを唄いつつ自己満足に浸るひと時を過ごすのであった。
「ふぅん。モモってばあたしが居ない所でそんな事してたんだ?」
事の経緯についての話を聞き終えたモカは自分が知らなかったモモの一面を知りニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるのだった。
「はにゃあ!ち、違うの。そういう訳じゃ・・・。」
「ははは。ゴメン、ゴメン。何だかモモらしいなって思ってつい・・・。」
頬を染めながら慌てて弁解しようとするモモにモカは笑いながら釈明した後、改まった様子でこんな言葉を口にした。
「でも、あたし達ってどうやら歌が好きみたいだね?」
「そうね。やっぱりご主人様の影響なのかしら?」
確認する様にして問い掛けたモカにモモは一瞬、不意を突かれるも直後に微笑を浮かべつつミュージシャンを職業とする主を引き合いに出しそれに同意した。
「あ。もしかしたらそうかも。」
「ふふふ。何だか不思議ね。」
そう締め括ったふたりは互いの顔を窺う様にして屈託の無い笑顔を見せるのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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