バレンタイン
2月という事でこんなエピソードをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
2月14日のこの日。
リビングでは朝から高揚した様子を見せているモモがそれとは対称的に普段通りの装いであるモカに向け何気無い素振りである質問を投げかけた。
「ねぇ、モカ。今日は何の日だったか知ってる?」
「え?今日は、えぇと・・・。」
その質問に答える為、間延びした返事するモカであったが待つ事が出来なかったモモは会話同士の僅かな隙をついて再び口を開く。
「もう、知らないの?」
「いや。モモ、あのね・・・。」
まるで自分が無知であるかの様に決めつけるとそのまま話を続けるモモにモカはやや不快感を覚えるもすぐに平常心を取り戻し先程の質問に答えようと試みる。
「なら教えてあげる。」
「ねぇ、だから・・・。」
しかしそれも束の間。
まるで聞く耳を持っていない様子のモモに対しモカは徐々に憤りを覚え始める。
「今日、2月14日は・・・。」
「『バレンダインデー』でしょ!?」
自分勝手に喋り続けるモモに等々耐えられなくなったモカは大きな声を張り上げながら答えた。
「あら?モカったら、知っているのなら最初から言えば良いじゃない・・・。」
「言おうとしてたけど、モモが言わせてくれなかったでしょ?」
悪気は無いとはいえ不思議そうにしながら言うモモにモカはやや不貞腐れた様にしながらも反駁する。
しかし当のモモはというと「そうだったかしら?」という言葉と共に簡単にその場を収めてしまうのであった。
結果としてあしらわれる形となってしまったモカは一先ず気を取り直す事にするとその横でバレンタインを『愛を告白する日』とした上でモモは遠い目をしながら溜め息を付くとこんな願望を口にする。
「はぁ。それにしてもあたし憧れちゃうなぁ。何時かあたしにも『ドキドキ』、『キュンキュン』する様な出来事が訪れるのかしら?」
右手で左手を握り込み胸の位置に当てながらうっとりした表情でそう語るモモを見てモカは少し考えた後、ある提案をしたのだった。
「だったら、今此処でやってみない?」
「え?」
「そんなに『ドキドキ』、『キュンキュン』する様な出来事に憧れてるんだったら今此処でやってみようよ?『予行演習』だと思ってさ?」
「う、うん。」
モカの提案に対しモモはその意図を今一つ理解出来ずにいたのだが取り敢えず相槌を打つ事にする。
「よし。そうと決まったら早速やってみよう!実はあたしもそういう体験してみたいと思ってたんだよねぇ・・・。」
「はにゃっ・・・。ま、待ってよモカ。いきなりやってみようって言われてもどんな風にやって良いか分からないわよ!」
自分の提案にモモが賛同したと解釈したモカは早速実践へ移ろうとする。
一方、モモはというとモカが何気無く発した言葉から自分と同じ気持ちを抱いていたのだと悟った後、我に返りこれから行おうとしている『予行演習』について説明を求めた。
それを受けモカは「う~ん、それもそうか・・・。」という前置きをした後、『予行演習』についての説明を始める。
「要するに告白する側とされる側を交互にやれば良いのね?」
「うん。そういう事。」
一通り説明を受け自分がきちんと理解出来ているかの確認をするモモ。
それを受けモカはモモに自分の意図が伝わった事を確認すると続ける様にして配役についての説明をする。
「じゃぁ、手始めにあたしが告白する方をやるからモモは告白される方をやってね?」
「告白される方?それってつまり男の子の役って事よね?」
「ふにゃ・・・。モモ、この場合普通に考えて男の子の役以外無いでしょ。」
至って真剣に尋ねるモモに拍子抜けするもモカは淡々とした口調で指摘しながらも配役についての説明を始めた。
「役柄としてはそうだなぁ・・・。あたしはこれから愛の告白をするキュートな女の子『モカ』の役でモモはあたしが秘かに想いを寄せる男の子『モモ太くん』の役ね?」
「も、『モモ太くん』・・・?」
「よし、ここまで説明したんだからもう良いよね?じゃ、早速始めよう!」
多少、引っかかる点は有る物の取り敢えず『予行演習』へと取り掛かる事にした。
そしてふたりは『予行演習』を行う事にするもいざ役に入り込もうとした矢先、モモはある事に気が付いた。
「(そういえばモカの好きなタイプってどんな感じの子かしら・・・?)」
普段の会話の中であまり『恋バナ』と呼べる様なやり取りをしていなかった事に加え、先程までに予め聞くのを忘れていたモモはここで止めるとモカの機嫌を損ねると判断すると当てずっぽうで理想のタイプにしているのであろう『モモ太くん』を演じる事にする。
「モカちゃん。どうしたんだい?こんな所に呼び出して?」
地声のままではある物の自分なりの『モモ太くん』を演じるモモにモカは不満気な表情を浮かべると開始早々『待った』をかける。
「違うよ、モモ!そうじゃないよ!」
「ええ!?あたし今、何処か間違えた?」
「あたしの理想の男の子は『ちゃん』付けなんかしないよ!それに声はもっと凛々しい感じが良いな。」
「そ、そんなの分かんないわよ。というかやる前に言ってよ!」
モカからの演技指導を受けたモモはその理想に極力近づける為、『予行演習』を再開させると低い声で話す事を意識しつつ精一杯『モモ太くん』を演じようと試みる。
「モカ、待たせて悪かったね。今日はどうしたんだい?」
「あ、あのねモモ太くん。これ、あたしからの気持ち・・・。」
役に入り込んでいる為か普段の活発なイメージとは異なった雰囲気を感じさせるモカは顔を少し伏せるとプレゼントの代用品としてフードボウルの中に残っていたビスケットタイプのキャットフード1粒を『モモ太くん』へと差し出した。
「僕が受け取って良いのかい?」
喜びと感動が混同した表情の『モモ太くん』扮するモモはモカからのプレゼントを受け取ろうとする。
「モモ太くん・・・。さ、食べて・・・。」
「え?」
「ねぇ、あたしからの気持ち受け取ったでしょ?さ、早く食べてよぉ。」
そう言うとモカは『モモ太くん』に扮したモモに1粒のキャットフートを食べる様にと囃し立てる。
「はにゃあ。ちょっと待ってモカ!」
「どうしたのモモ?」
強引にプレゼントを食べる様迫られモモはたまらず『モモ太くん』を演じるのを止め素の自分に戻るとモカを問い質す。
「途中まで良かったのに最後のアレは何?」
「だって食べ物を渡したんだよ?すぐに食べてもらいたいじゃん?」
「だからってあんな風にグイグイ迫ったら間違いなく嫌われちゃうわよ?」
「うっそぉ・・・。」
モモから苦言を呈されたモカはその場で慄きながらもショックを受けるのであった。
思わぬ展開でモカの『予行演習』が幕を閉じると続いてはモモの番となる。
「良いわね、モカ?あたしが本当の愛の告白という物を教えてあげるわ!」
「ほぉ。言ったね、モモ?」
自信満々に啖呵を切るモモにお手並み拝見と言わんばかりに含み笑いを浮かべるモカ。
そしてモモは続ける様にして自分が考えた役柄について説明を始めた。
「あたしは清楚で可憐でプリティな女の子『モモ』でモカはそんなあたしが憧れを抱く男の子『モカの介くん』をやってね?」
「も、『モカの介くん』?」
「そう、『モカの介くん』。」
「ってかモモ、大分自分の事盛ってるよね?」
「あ、飽くまでも設定よ、設定!」
自分の役名について何か言いたそうにするもその場の流れで『予行演習』へ突入してしまい理想のタイプについて聞く事が出来ずにいたモカ。
しかし「(まぁモモのキャラとは正反対の子をやれば良いよね。)」と特に悩む様子も無くそう判断すると自分が思い描く『モカの介くん』を演じた。
「遅かったじゃないかモモ。こんな寒い場所で待たされている俺の身にもなってくれ!」
ドスの効いた声を出しながら気性が激しい役柄に扮するモカにモモは慌てた様子で異議を唱える。
「ちょっと、モカ。何なのよそのキャラは!?」
「え?モモはおっとりしているからオラオラ系のキャラの子が良いんじゃないの?」
「あたしそんなキャラの子は好きじゃないわよ!やるんだったらもっと優しい雰囲気の子にしてよ!」
飄々としながら答えるモカに詰め寄りながらも申し立てるモモ。
あまりの迫力に圧倒されてしまったモカはモモの要望に沿った『モカの介くん』を演じる事にすると声をやや低くさせながら穏やかな口調を心掛けながら優しく語り掛ける。
「やぁ、モモ。僕もさっき来たところだよ。それより用事って何だい?」
「も、モカの介くん。どうかあたしの想い受け取って・・・。」
頬を少し染めながらそう言うとモモは家の何処かに落ちていたのであろう服飾用のボタンをプレゼントに見立て『モカの介くん』へと差し出した。
その姿は元々備えているイメージとの相乗効果も有りかなり様になっている。
「これを僕にくれるのかい?」
歓喜に満ちた表情を見せ『モカの介くん』に扮したモカはプレゼントを受け取りながら礼を言おうとしたその瞬間。
「モカの介くん・・・。今後はそれを肌身離さず持っててね・・・。」
「え?」
「あたしからのプレゼント、これからずっと大切にしてね?ね?ね?」
「ふにゃあ。モモ、何か怖いよ!」
狂気すら感じるモモのアプローチに『モカの介くん』を演じていたモカは取り乱しながらも本来の自分へと戻った。
「どうかしたモカ?」
「そんなに圧掛ける様な事言ってたら男の子がビックリしちゃうよ。それに何というか重いし、めんどい。」
何事か理解出来ないでいるモモに対しモカは冷静さを取り戻すと自分の感想も含め意見した。
「そんなぁ・・・。」
「あと『モカの介』っていう名前もちょっと無いかと思う。」
「そ、それは関係無いじゃない!」
モカからの忠告に背中を丸め気落ちしてしまうモモであったが続け様にネーミングセンスについて言われると即座に反論するのだった。
この様子から察するにふたりにとっての甘いひと時が訪れるのはもう少し先になりそうだ・・・。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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