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ブランケット

新年一発目という事で心が温まる様なエピソードをお届けします。

それではごゆっくりご覧下さい。

クリスマスや正月といった一大イベントが過ぎ、1月も中旬に差し掛かりより一層冷え込みを感じさせる今日この頃。

モカとモモは家の中に居るにも拘らず小さな身体を縮ませながら寒さに震えていた。


「うう・・・。寒い、寒い・・・。」

「身体が冷えちゃうよぉ・・・。」


凍えるふたりは冷えた身体を温める為、暖を取れる良い方法が無いかと知恵を絞ると暫くして何か思い付いたのかモカは手の平を『パンッ』と1度叩くと叫ぶ様にして口を開く。


「そうだ、あたし良い事考えた!」

「『良い事』?え、ナニナニ?あたしにも教えて!」


知りたそうにしながらモカに近付いて来たモモは期待を寄せるあまりシルバータビーの尻尾を真っ直ぐ立たせながら尋ねる。


「ふふん。ズバリ『おしくらまんじゅう』だよ!」

「『おしくらまんじゅう』?」


自信満々に答えるモカを他所にモモは自分の思っていた物と大きくかけ離れていた為、拍子抜けした様な表情を浮かべる。

しかし、モカはモモのそんな様子に全く構う事無く続ける。


「そう、今からあたしとモモで押し合いっこして身体を温め合うの!」

「え?あたしとモカで押し合いっこして本当に身体が温まるの?」

「まぁまぁ、取り敢えずやってみようよ!」


些か疑問点は有る物のモカの勢いに根負けしたモモは渋々ながらも従う事にする。

だが何を思ったのかモモは広げた手の平を胸の位置まで引くと目一杯力を込めそのままモカの肩に向けて押し付けた。


「ふにゃあっ!?」


突然の出来事に驚きのあまり声を上げるモカはその場に尻もちを付くと鈍い痛みに顔を歪ませながらモモに訴えかける。


「いった~い・・・。モモ、いきなり突き飛ばすなんて酷いよ!」

「え!?『おしくらまんじゅう』ってこんな風にする物じゃないの?」

「違うよ!そんな事してたらみんな怪我しちゃうでしょ!?」

「はにゃぁ、ご、ゴメンなさい!」


『おしくらまんじゅう』がどういう物か知らなかったらしいモモは打ち付けた箇所を労わる様にして擦るモカにうろたえながらも只管平謝りをするのだった。

そんなモモに対しモカは呆れながらも『おしくらまんじゅう』がどういった物なのかを教える事にする。


「良い?『おしくらまんじゅう』って言うのはお互いの身体を押し合う様にして身体を動かすの。『おしくらんじゅう押されて泣くな!』って言いながらね。」

「え、これをやるの?あたしちょっと恥ずかしいな・・・。」


膝を屈伸させながら腰や背中を突き出す動きをするモカを見るなりモモは頬を染め照れた様子で呟く。

しかし、躊躇しているモモに業を煮やしたのかモカは声を張ると半ば強制的にやる様に促す。


「もう!照れてないで、さぁやるよ!」

「え?う、うん!」


モカの勢いに流されるあまり条件反射的に返答してしまうモモ。

そしてふたりは向かい合わせになると「せーのっ!」の合図の後『おしくらまんじゅう』の掛け声を言うのであった。


「おしくらまんじゅう押されて泣くな!」

「お、おしくらまんじゅう・・・、押されて・・・。」


大きな声を上げながら身体を動かすモカ。

一方、この期に及んでまだ恥ずかしがっているのか囁く様な声で小刻みに動くモモにモカは『待った』をかける。


「モモ、そんな小さな声じゃダメダメ。もっと大きな声で!」

「え、ええ・・・。」

「それに動きも多少オーバーにやった方が良いな。じゃないとあたしまで凍えそうになっちゃうよ!」

「は、はにゃぁ・・・。」


モモは少々混乱するもこの状況に対しどう足掻いても逃げられそうにないと割り切ると、半ばやけくそになりながらも『おしくらまんじゅう』の掛け声と共にモカの後ろ姿に押し当てる様にしながら自分の身体を動かした。


「おしくらまんじゅう押されて泣くな!おしくらまんじゅう押されて泣くな!」

「そうそう、モモ。良い感じ!」


その気迫に少々狂気すら感じるもモカはモモに労う様な言葉をかけつつ負けじと声を張り身体を動かす。


「ふぅ、大分温まったねぇ・・・。」

「そ、そうねぇ・・・。」


一頻り行ったところで息を切らしつつ身体を温め合った事を確認し合うふたり。

しかし、次第に汗が冷えて来たのか再び寒さを感じ始めると肩をブルッと1回震わせると凍えながらも今度は暖を取れる場所が無いか考え始めた。


「ねぇ、ご主人様のお布団の中なら温かいんじゃないかしら・・・?」

「お!良いねぇ・・・。」


モモの提案にモカは『異議無し』と言わんばかりに賛成するとふたりは一先ず主の寝室へ向かう事にする。

しかし期待に胸を膨らませながら寝室の前まで行くも生憎ドアが閉められており入る事が出来なかった。


「はにゃぁ、これじゃぁ入れない・・・。」

「ふにゃぁ、このままじゃ氷漬けになっちゃうよぉ・・・。」


そう嘆くふたりは頭の中で自分達が足元から徐々に氷漬けになってしまう妄想をした後、気落ちする様にして溜め息を1つ付いた。


途方に暮れかけていたその時、モカは隣の部屋のドアが開いている事に気付くとそこに焦点を合わせる。

この部屋はミュージシャンである主が自宅で曲作りやエレキベースの練習をする通称『作業部屋』と呼ばれる部屋であり普段はドアが閉じられているのだが今日に至っては開かれたままになっていた。


ここ数日、主は自身が所属するバンドのアルバム制作の為レコーディング作業と並行し自宅で作曲及び作詞を行っており今朝も出掛ける直前までそれらの作業をこなしていたので、恐らく閉めるのを忘れてしまったのだろう。


「ねぇモモ。ちょっと行ってみようよ?」

「えぇ?大丈夫かな・・・?」


主は普段ふたりを作業部屋へと立ち入らせない様にしている為か室内がどうなっているのか興味津々のモカに対し不安そうにするモモ。


「平気、平気。さ、行こう?」

「ああ、ま、待ってよモカ!」


モモを誘う様にして意気揚々と歩みながら入室するモカ。

それを受けモモは慌てながらもモカの後を追いかける様にして駆け寄ると恐る恐る部屋の中へと入った。

家の中とはいえ今まで立ち入った事の無かった部屋という事も有りふたりは見慣れない室内の様子に目を見張らせながら忙しく首を振る。

曲作りで使用するデスクトップ製のパソコン。

収納棚にギッシリとレイアウトされているCD。

主の愛器であるギタースタンドに立て掛けられた宅練用のエレキベース、ヤマハ SBV-550。

どれをとってもふたりの目には新鮮に映った。


「す、すごい・・・。」

「何だかお家じゃないみたい・・・。」


室内に在る備品の一つ一つに感心する様にして見惚れるふたり。

すると主が今朝出掛ける直前まで曲作りをしていた為か回転椅子がパソコンデスクに背もたれ部分を向けた状態になっており座面部分には足元を冷やさない為に使用しているのであろうブランケットが置かれているのを発見する。


それを見付けるなりモカはブランケット目掛け勢い良く飛び乗るとその反動で椅子が回転しバランスを崩しそうになるも何とか体勢を立て直すとそのまま顔を埋める様にして寝そべる。


「ご主人様の匂い。ふにゃぁ、落ち着くなぁ・・・。」


呼吸する度に鼻を刺激する主の匂いに安心したのかモカは呟く様にそう言うとゴロゴロと喉を鳴らす。

モモはその光景を羨ましそうにしながら見上げているとモカは寝そべった状態で回転椅子から顔を出すと此方に来るように誘う。


「モモぉ。何してるの?早くおいでよぉ!」

「え・・・?う、うん・・・。」


迷った挙句、自分の気持ちに正直になる事にしたモモは意を決した様な表情を浮かべ助走を付けブランケット目掛けダイブする。

しかし、先程と同じく反動により椅子が回転するとモモはバランスを崩してしまい誤ってモカの三毛模様の尻尾を思い切り踏ん付けてしまった。


「ふにゃあああああああああ!」


あまりの痛みに驚いたモカは無意識に悲鳴の様な叫び声を上げるとモモは動揺しながらも尻尾を踏ん付けてしまった足を退()かすと本日2度目の平謝りをするのであった。


そんなひと騒動の後、気を取り直したふたりは暖を取るという本来の目的を果たす為、ブランケットの中に入る。


「はにゃぁ、温か~い。それにご主人様の匂いがして安心するわ。」

「だよねだよね。何だかあたし、ご主人様に抱っこされてるみたいな気分になっちゃったよぉ。」

「あ、その気持ち分かるなぁ・・・。」


そんなやり取りをしながら主に擦り寄る様にして抱かれている自分達を想像しているとふたりは部屋の中が少しずつ薄暗くなっている事に気付く。

ふと窓へと視線を向けると冬場の日の入特有の青紫色に染まる空の様子を目に映しながらも次第にふたりして生あくびをしながらまどろみを覚え始める。


「ねぇ、モカ。あたしちょっと眠たくなってきたからご主人様が帰って来たら起こしてね・・・?」

「えぇ?そんな事言わないでよモモ。あたしだって眠いのに・・・。」


もうじき主が帰宅するであろうと察するふたり。

しかし、ブランケットの中では心地良い温もりに包まれると不意に訪れた睡魔に抗う事が出来ず、主の帰宅を待てず眠ってしまったのだった。


「ただいまぁ。」


日没から暫く経って主が仕事から帰って来た。

何時もなら自分が帰宅すると同時に飛び付く様にして甘える愛猫達が今日に限ってやって来ない。


「モカ、モモ、居ないの?」


名前を呼び掛ける主はリビングのドアを開け明かりを着けソファの上を確認するもそれらしい姿は見られなかった。


「おかしいわねぇ、何処行ったのかしら・・・?」


主は不思議に思うも一旦、機材や音源データがインプットされたUSBメモリ、それに詞のアイディアを書き溜めたノートといった荷物を置く為、作業部屋へと移動する。

ドアが開いたままであるのに気付いた主は閉め忘れたまま出掛けた事を反省しつつ照明を着け回転椅子の方へ目をやる。


「あ、ふふふ・・・。」


回転椅子の上で小さな身体を寄せ合いながらブランケットに(くる)みスヤスヤと寝息を立てて眠るモカとモモを見守る様にして主は優しい笑顔をそっと浮かべるのであった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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