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イブに見た夢

12月という事でこんなエピソードをお送りします。

それではごゆっくりご覧下さい。

12月24日。

今日はクリスマスイブ。

数日前から世間ではいわゆるクリスマスムードに包まれており、それを象徴するかの様に煌びやかに点灯するイルミネーションや華やかに飾り付けられたクリスマスツリー等が街の到る所に見られた。

日が暮れるにつれそのムードはより一層濃い物へと変わり、皆が一年に一度の特別な夜を家族、恋人、友人等といった面々で過ごしているのだった。


何時ものアパートの一室を覗いてみると帰宅して来た主が2匹の愛猫へ与える食事の準備をしていた。

クリスマスという事も有り普段なら手に取る事さえも躊躇してしまう様な値段の高級キャットフードを買い物袋から2缶取り出し、モカとモモそれぞれの専用のフードボウルへと盛った。

その光景を見るなりふたりは嬉しさを隠し切れない様子ではしゃぐのだった。


「ねぇ、モカ。あれ見て!今夜はご馳走だよ!」

「うん。本当だね!」

「あたし前に食べた時、美味しすぎてほっぺが落ちそうになっちゃったよぉ。」

「ええ!?モモ、食べた事有るの?ズルい!あたしあんなに美味しそうなご飯、今まで1度も食べた事無いのに・・・。」

「それは、モカに原因が有るんでしょ?『マイルール』だか何だか知らないけど、変な事に凝ってたから・・・。」


モカは以前『マイルール』という物に凝るあまり主が何時もより早い時間に帰宅した際、夕食として出された高級キャットフードを食べ損なった苦い経験が有りモモは呆れた様子でその出来事を引き合いに出した。


「そ、それは・・・。あの時はまだあたしも若かったから・・・。」

「『若かった』って、ついこの間の出来事でしょ?」


過去の失敗を思い出し赤面しながら弁解するモカにモモは苦笑を浮かべながら指摘するのだった。


高級キャットフードをたらふく食べ満足したふたりはリビングへと移動すると、ソファの上に飛び移り並ぶ様に着席するとモカは落ち着かない様子でモモへ向けクリスマスプレゼントに纏わる質問を投げかけた。


「ねぇ、モモ。もしもサンタさんが居たらプレゼントは何が良い?」

「なあにモカ、そんな藪から棒に・・・。それにサンタさんは架空の人物で実際には居ないのよ?」

「もしもの話だよ。」


モカの問い掛けに対し困った素振りを見せるも満更でもない表情を浮かべるモモ。

ふたりは最近、クリスマスという行事についてそれなりに覚えたらしく、加えてサンタクロースが何者かが作り出した架空の人物である事も認知している様だ。


「うぅんとね・・・。それじゃあ、あたしは新しいおもちゃにしようかな。モカは何をお願いするの?」

「あたし?あたしは勿論、『人間の女の子にしてください』ってお願いする!」

「ああ!ずるい、あたしもそれが良いのに・・・。」


モカの要望を聞くや否や思わず悔しがる素振りを見せるモモ。

だがその直後、ふと我に返ったモモは冷静になるとモカを傷付けない様に心掛けながら意見した。


「ねぇモカ、ちょっと待って。サンタさんって飽くまでもプレゼントを配る人であって魔法使いではないから仮に居たとしてもそのお願いは叶わないんじゃないかしら・・・。」

「ガーン!!そ、そうなのか・・・。」


予想し得なかった衝撃の事実に驚きのあまり大きなショックを受けるモカにモモはうろたえながらも慰めるべくフォローする様な言葉をかける。


「あ、で、でも、もしサンタさんが『人間の女の子にしてください』ってお願いを叶えてくれたら、ご主人様と3人で親子としてクリスマスパーティーしたいわ。ねぇ、モカもそう思うでしょ?」

「え?あ、うん。そうだね・・・。」

「リアクション薄!さっきまであんなにノリノリだったのに・・・。」


自分から振って来た話題なのにも拘らず興味が失せたのか投げやりに返答をするモカにモモは動揺すると共に困惑したのだった。


そんなやり取りをしていると、主が晩酌の為シャンパンボトルとグラスを手にしながらリビングへとやって来るとふたりはほぼ同時に主の方を向く。

ふたりの視線に気付いた主は手に持っていたボトルとグラスを一旦ローテーブルへと置くと2匹の愛猫を撫で始めた。


「ふにゃぁ・・・。」

「はにゃぁ・・・。」


優しい手付きに心地良さを覚えるふたりはゴロゴロと喉を鳴らしながらソファに身体を預ける様に横たわる。

それを確認すると主は愛猫達への愛撫を()めると今夜の晩酌のお供にとローテーブルに置いている村上春樹の文庫本を手にする。

ミュージシャンを職業とする主は担当パートであるベースの他に作曲を行うのだが、場合によっては作詞をする事も有る。

なので、詞を書く上で必要な文章構成力や知識を養う為にジャンルや著者を問わず様々な本を読む事にしている。

だが、わざわざクリスマスイブの夜でなくとも読書は何時でも出来るのだが主としては今宵は静かに過ごしたかったのであろう。

炭酸が心地よく弾けるシャンパンを時折口に入れつつ主はそのまま本の世界へ入り込んでいく。

エアコンの起動音と自分達の喉を鳴らす音だけが響く部屋の中、満腹状態である事による相乗効果も有り、何時しか気持ち良さを覚えたふたりの意識は徐々に遠退いて行くのだった。


「モカ。ねぇ、モカってば!」


朝が訪れたのか日の光が差し込むリビングにてモモによって身体を揺すられながら呼び掛けられているモカ。

徐々にはっきりと聞こえて来るその声は何やら浮かれた様子を窺わせていた。


「んん、なあにモモ・・・?」

「『なあに』じゃないわよ・・・。」


起きなければならない状況に観念したのか、モカは目を擦りながらゆっくりと身体を起き上がらせると何時もならば自分より後に目を覚ますモモに対しまだ眠たそうにしながらも何事かと尋ねた。

そんなモカに対しモモは呆れた様子を見せるも気を取り直し穏やかな笑顔を浮かべると思いがけない事を告げた。


「聞いて驚かないでよ、あたし達どうやら人間の女の子なれたみたいなの!」

「ええ!?」


それを受けモカは数秒前まで感じていた眠気も失せてしまったのか目を丸くしながら驚きを隠せないでいた。


「もう『驚かないで』って言ったばかりでしょ?」

「モモ、それ本当?」

「ええ、本当よ。」


半信半疑でいる物の取り敢えず確かめてみる事にしたモカは頭の上を触れた後、腰の辺りを目視すると今まで有った筈の耳と尻尾が無くなっていた事に気付く。

そして何より、身長も10歳の少女と然程変わらない高さにまでなっていたのだった。

それはモモにも言える事で戸惑いながらも正面を向いたモカは自分と同じく人間の少女と何ら変わらないその姿に驚くのだった。


「ああ!モモ、まるで人間の女の子みたい・・・。」

「だから、さっきからそう言ってるじゃない・・・。」


仰天しながら此方に向け指を差すモカにモモはクスクスと笑いながらも優しい口調で返答する。


普段、耳と尻尾の付いた人間の少女の姿をイメージしながら生活しているふたりにとって今の自分達の容姿はまさに理想通りであった。

夢が叶ったふたりは共に喜びを分かち合おうとしてその直後、キッチンから自分達を呼ぶ主の声が聞こえた。


「モカ、モモ。おいでぇ・・・。」


ふたりが人間の少女になった事等知る由も無い主は朝食用のキャットフードの準備が出来たのか愛猫達に向け声をかける。


「あ、ご主人様だ!」

「ねぇ、早くご主人様に人間の女の子の姿になったあたし達を見てもらおうよ!」

「うん。そうだね!」


その呼び声に気付いたふたりはニコリと笑いながらそう言うと勇み足で主の居るキッチンへと向かいながらこう叫んだ。


「「ご主人様、あたし達人間の女の子になれたよ!」」


嬉しそうにしながら駆け寄るふたりの声に気付いた主が振り返ろうとした瞬間、突然辺り一面が真っ白い世界へと変わり始める。

瞬く間に広がる真っ白い世界になす術も無くふたりは振り返る主の表情を確認出来ないまま同化する様にして消えてしまうのだった。


「・・・・・・。」


モカが目を開くとそこは朝日が差し込むリビングのソファの上。

首の位置を変え、テーブルに目をやると主が昨晩読んでいた村上春樹の文庫本が有り、眠りに就く為寝室へと向かう前に途中まで読んだページにしおりを挟んで置いてあった。

そして徐に身体を起こすと頭の上に有る両耳を触り腰の辺りに有る尻尾を目視し、それらが確かな物であるという現実を受け入れる。


「夢、だったのかな・・・?」


人間の少女になっていなかったという事実に落胆しながらそう呟くモカは先程体験した出来事は全て夢であったと判断すると突然目の前が真っ白になったのは眩しい程に差し込むこの朝日が原因なのだと理解した。


「モカ、おはよう。」

「あ、モモ。おはよう。」


夢の中とは違い何時もの様に自分より後に目を覚ましたモモを見届けたモカ

そして改めて先程見た夢の中での出来事について考え始め様とした矢先、僅か数秒前に自分がしていた動作と同じく両耳と尻尾が存在するか確認するモモの姿を見るとモカは思わず驚愕してしまう。


「モカ、どうしたの・・・?」

「あ、いや、別に・・・。」


先程から何故凝視しているか尋ねるモモに対し、上手く言葉に出来る自信が無かったモカは一先ずはぐらかす事にした。

そして、少しの間の後モモはモカに向け語り始める。


「あたし今日、変な夢、見ちゃった・・・。」

「『変な夢』?どんな夢を見たの?」

「聞きたい?」

「良かったら教えて。」


そう言われ先程まで見ていた夢の話を始めるモモ。

話を進めていくにつれ次第に血相を変えていくモカに気付いたモモは終わる間際、ふと何事かと思い尋ねる。


「どうしたのモカ。そんな顔して・・・?」

「あたしの見た夢と同じだ・・・。」

「え・・・?」


偶然だったのかそれとも必然だったのか、全く同じ夢を見たという事実にふたりは驚愕すると共に暫くの間、互いの顔を見合わせた。


12月25日。

クリスマスイブの翌日であるクリスマスのこの日の朝。

モカとモモにとって忘れられない出来事が起こったのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

ご意見ご感想等が有りましたらお気軽にお寄せ下さい。

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