しゃっくり
今回から本来のコメディーを中心としたエピソードをお送りします。
それではごゆっくりご覧下さい。
「ひっく、ひっく。」
リビングの真ん中に位置するローテーブルの周りを囲む様に敷かれた絨毯の上に座りふたりでまどろんでいたところ、何やらモモは口元に手をやり苦しそうな表情を浮かべる。
「モモ、もしかしてしゃっくり?」
「ひっく。うん、そうみたい・・・。」
異変に気付いたモカは心配そうに尋ねるとモモは突如、襲い掛かるしゃっくりに困惑しながら答えた。
「ひっく、ひっく。はにゃぁ、止まらないよぉ・・・。」
「よし!あたしがモモのしゃっくりを止めてあげるよ!」
あまりの辛さに思わず顔をしかめるモモの様子にモカは居た堪れない気持ちになるとしゃっくりを止めてみせると高らかに宣言するのだった。
「本当?モカがあたしのしゃっくりを止めてくれるの?」
「うん、任せてよ。まずはこの方法を試してみよう。」
その姿を頼もしく思えたモモはモカに対し期待を寄せる。
だがその直後、モカは急に口を閉ざし無表情のまま俯くと身動き一つしなくなった。
「ひっく。も、モカ?」
「・・・・・・。」
モカの奇妙な行動にどういう事か理解出来ないでいるモモはしゃっくりをしつつ、取り敢えず呼び掛けてみる。
「ね、ねぇ。ひっく。モカってば!」
「・・・・・・。」
すぐ隣に居るにも拘らず、こんなに呼び掛けている自分の声が聞こえない筈は無い。
モモはそう思いながらも無反応のままでいるモカを今度は先程よりも強い口調で呼び掛ける。
「ねぇ、モカ。ひっく。あたしのしゃっくりを止めてくれるんじゃないの?」
不安を覚え始めたモモは肩に手をかけ必死に呼び掛け続けると唐突にモカはギョロリと目を見開きながら瞬時に体勢をこちらに向けた。
「わあっ!」
「はにゃあ!」
そして、まるでモモに襲い掛かるかの如くモカは至近距離まで迫ると腹の底から力を込め、大きな声を上げたのだった。
それを受け意図せず驚かされた形となったモモは少しの間、放心状態となった後たまらずモカに詰め寄る。
「もう、急にビックリするじゃない!」
「う、で、でも、しゃっくりは止まったでしょ?」
物凄い剣幕で詰め寄られたモカは少したじろぎながらしゃっくりが止まったかを尋ねるもその直後にモモは再び苦しそうに「ひっく、ひっく。」と言わすのであった。
「う~ん、しゃっくりを止める方法と言えば驚かすのが一番良いと思ったんだけどなぁ・・・。」
「そうなの?ひっく。」
「仕方ない。他の方法を試してみよう・・・。」
そう言うとモカはモモのしゃっくりを止めるべく、別の方法を試みる事にする。
「モモ。」
「ひっく。ん?なぁに、モカ?」
モカに名前を呼ばれ何事かと思いながらも振り向くモモ。
するとモカは距離を詰めモモの背中に手をかけると自分の方へと引き寄せる。
『ガシッ!』
「はにゃぁ!?」
気が付けばモカによって強く抱き締められているという状況になっているモモは一瞬、自分に何が起こったのか理解出来ず驚きのあまり声を上げた。
「も、モカ。どうしたの?しゃっくりを止めてくれるんじゃなかったの?」
「うん、そうだよ。だからこうして『しゃっくりが止まる様に』って、念じてるの。」
混乱しそうになりながらモモはこの行動に至った経緯を聞くとモカは真剣な面持ちで淡々と答えた。
「『念じてる』って・・・。それとあたしを抱くのと何の関係が有るの?」
「根拠は無いけど、こうすればあたしの念じている想いがモモに伝わるんじゃないかと思って・・・。」
「えぇ?ひっく。で、でも『根拠は無い』んでしょ?」
「モモ。そんな事ばっかり言ってたら、何時まで経ってもしゃっくりは止まらないよ?」
益々、訳が分からなくなるもその勢いに押されてしまったモモはモカの腰の辺りに手を回し暫くの間、抱き合ったままで時間を過ごした。
だが、当然と言うべきかこんな事でモモのしゃっくりが止まる筈も無く程無くして「ひっく、ひっく。」と言うのであった。
「あぁ、ダメだったかぁ。」
この方法も失敗に終わってしまった事で溜め息交じりに落胆するモカ。
するとモモはモカの腰の辺りに回していた手をゆっくりと下ろし頬を赤らめ視線を少し反らし、大変言い辛そうにしながら訴えかける。
「ね、ねぇ、モカ。さっきからずっとこの状態でいるけど、あたしちょっと恥ずかしいかな・・・。」
そう言われモカは先程からずっとモモと密着しながら抱き合っている自分に気付くと目を丸くしながら酷く赤面した。
「ふにゃあ!」
大きな声を張り上げたモカはうろたえながらモモの背中に回していた手を離し、お互いの身体を引き剥がす様にその場から後ずさりするのであった。
「あたし思ったけど、やっぱり効果が期待出来そうな方法をやらないといけない気がするな・・・。」
「ひっく。いや、さっきまで正反対な事してじゃない・・・。」
先程、味わった恥ずかしい気持ちを堪えながらそう述べるモカに対しモモは苦笑を交え冷静に指摘する。
その後もしゃっくりを止めるべく『くすぐる』、『つねる』、『息を止める』等、様々な方法を試すもどれも効果は今一つで次々と失敗に終わるのだった。
「ねぇ、モカ。本当にあたしのしゃっくり止まるのかな?ひっく。」
「う~ん。まさかこれ程までに手強いとは・・・。」
予想に反して苦戦を強いられる事となってしまったモカは悩みながらある方向へ目線を向けると、良い方法を思い付いたのか、後を着いて来る様にモモに声をかけるとキッチンの調理スペースへと移動するとそのまま流し台へと飛び乗った。
「モモ。それじゃぁ、行くよぉ?」
「う、うん・・・。」
流し台の排水トラップ付近で不安な面持ちで待ち構えるモモに呼び掛けるとモカは蛇口のコックを少し上げるとそこからゆっくりと水を流していく。
「も、モカ、あんまりジャブジャブ流さないでね。ひっく。」
「大丈夫だよ、ちゃんと調節するから。」
そして、モモは蛇口から流れる水に口を近付け飲み始めた。
一体どういう訳かというと、モカとしては水を勢いよく飲む事によってその反動でしゃっくりを止める事が出来るのではないかという考えらしい。
半信半疑ではある物の一刻も早くしゃっくりを止めたいモモは藁をも縋る気持ちでモカの発案したこのアイディアに従うのであった。
「(もう少し、勢いを強くした方が良いかな・・・?)」
ゴクゴクというよりはチビチビと水を飲むモモの様子を見てこのままでは埒が明かないと判断したモカはコックを更に上へと調節する。
「はにゃあ!ちょっと、モカ。あんまりジャブジャブ流さないでねって言ったでしょ?ひっく。」
「モモ、ビックリしたのは分かるけどそんな事言ってたら、何時まで経ってもしゃっくりは止まらないよ?」
いきなり水圧を上げられ驚いたモモはモカに対し忠告するもあえなく反論されてしまい不服そうにしながらも渋々水を飲み続けた。
そんな最中、一体何処から侵入したのか小さな虫が『プ~ン』と耳障りな音をさせながらキッチン内を暫く浮遊した後、モカの鼻の上に着地した。
「ふにゃっ?」
モカはすぐさま異変に気付くと次第にそれがむず痒さへと変化していきスタッカートの様に「ハ、ハ、ハ。」と言いながら呼吸を3回に渡って行うとクシャミを1つするのであった。
「クシュン!」
その反動でモカは両手で構える様にして持っていたコックを誤って全開にしてしまいそれにより排水トラップ付近に居るモモは勢い良く出て来た水道水を全身に浴びてしまうのであった。
「はにゃあああああああああ!」
「ふにゃあ?ご、ゴメン、モモ。今、止めるから!」
モモの悲鳴を聞きモカは動揺しながらも陳謝し、蛇口から流れる水を止めるべく急いでコックを下にした。
「酷いじゃないモカ。お陰でビシャビシャになっちゃったじゃない・・・。」
この惨事によりずぶ濡れの姿となってしまったモモは半ば閉じた目でモカの方をじっと見詰める。
それに対し、モカは後ろめたい気持ちを覚えつつ今まさに自分に向けられているモモからの視線にプレッシャーを感じると「あはははは・・・。」と空笑いをするのであった。
「もう、笑って誤魔化さないでよ!」
「ふにゃっ!ご、ゴメン・・・。」
モモに一喝された事で動転したのかモカは一瞬、肩を震わすと身体を委縮させながら謝罪した。
そして、その体勢のままモモの顔色を窺うと今までとても苦しそうに「ひっく、ひっく。」と言っていたのにも拘わらず、何時の間にかしゃっくりが止まっている事に気付く。
「あれ?モモ、もしかしてしゃっくり止まったんじゃない?」
モカにそう言われ恐る恐る様子を診る為、数秒間の沈黙の後完全に治まった事を確信すると安堵の表情を浮かべる。
「しゃっくり止まったみたい。良かったぁ。」
「本当?良かったね、モモ。」
「うん。ありがとう、モカ。」
しゃっくりが止まったモモは自分と同じ様に安心した表情を浮かべるモカにお礼を言うのであった。
しかし、そんな喜びも束の間。
次の瞬間モカに異変が起きる。
「ひっく、ひっく。」
「あれ?モカ、もしかして・・・。」
「ひっく。あれ?今度はあたしからしゃっくりが出て来たみたい・・・。ひっく。」
ふたりは振出しに戻った様な心境になると共にまたしてもしゃっくりを止める為、苦悩する事となったのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご意見ご感想等が有りましたらお気軽にお寄せ下さい。




