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ケンカ(前編)

ケンカを扱ったエピソードです。

前編である今回はモモの視点で展開しています。

それではごゆっくりどうぞ。

何時も仲の良いモカとモモ。

しかし、そんなふたりでさえたまにはケンカをする様で・・・。


「モカのバカ!もう、大キライ!」

「モモのオタンコナス!顔も見たくない!」


ソファの上に立ち互いを鋭い目付きで凝視しながら罵倒し合うふたり。

その言動は興奮するつれ次第にエスカレートして行く。


「あたし、今まで我慢してたけどモカに対して不満に思ってたところが有ったのよ!」

「何よ!あたしの何処に不満が有るのよ!?」

「分からないの? 自分勝手だし、適当だし、すぐあたしを振り回すし!」


勢いに任せモカに対して感情をむき出しにした言葉をぶつけるモモ。

それを受けモカは顔をしかめるとお返しとばかりに反撃を開始する。


「言わせておけば・・・。この際だから言わせてもらうけど、あたしモモには何時もイライラしてたんだけど!」

「何ですって!?あたしの何処にイライラさせるところが有るのよ!」

「いっぱい有るよ! 泣き虫だし、臆病だし、ネガティブだし!」

「言ったわね!?」

「そっちこそ!」


ふたりはその場で睨み合うと、『フン!』と言うと腕を組みながら反対方向を向く。

数分間の沈黙の後、モモはソファから降りリビングを出て行こうとする。


「何処行くの?」

「何処でも良いでしょ!」

乱暴な口調で尋ねるモカに『放っておいてくれよ』と言わんばかりに返答するモモ。

そして、少し歩いたところで、

「着いて来ないでよ!」

と、先程の言葉に続ける様に捨て台詞を吐きリビングを後にするモモ。


「ふん。誰が!」

モカはその言葉にムキになると去って行くモモの後ろ姿に向かって舌を出した。


「モカったら、『顔も見たくない』ですって?失礼しちゃう!」

リビングを後にしたモモは先程自分に向けて言い放ったモカの言葉を思い出すと怒りを露わにした。

そんな気持ちを抱えつつ廊下を歩いているとふと通りがかった主の寝室の前で立ち止まる。


「ご主人様の寝室・・・。」


そう呟くと僅かに開いていたドアの隙間から部屋の中を覗く。

室内をキョロキョロと辺りを見渡した後、主が使用しているベッドに視点を合わせるとモモは何か思い付いた様な表情を浮かべる。


「そうだ、今夜はご主人様と一緒に寝よう・・・。」

そう決めたモモは勇み足で部屋の中に入りその勢いのままベッドの上に飛び乗りながら横になった。


「はぁ~、良い気持ち・・・。」

モモは心地良さそうにしながら溜め息を付くとはしゃぐ様にコロコロとベッドの上で3回程寝返りを打つ。


「うふふ。今夜はご主人様にいっぱい甘えちゃおう! モカったら、悔しがるだろうなぁ・・・。」

横向きの体勢になったモモは頭の中でそんな目論見を立てると、悔しそうにするモカを想像しながらクスクスと笑う。

だが、つい数分前までモカとケンカしていた事を思い出す。


「って、あたしったら何でモカの事なんか考えなきゃいけないのよ!」


『自分とした事が』と言わんばかりに首を何度か横に振りながらうつ伏せになり掛け布団に顔を埋める。

一向に消えないフラストレーションに嫌気がさし、次第に考える事自体面倒になり始める。


「こんな時はいっその事お昼寝しちゃおう! うん、そうしよう!」


顔を上げまるで自分に言い聞かせるかの様にそう決断するとモモはギュッと目を閉じる。

暫くすると、徐々に意識が遠のき程無くしてスヤスヤと寝息を立てながら眠り始めた。

しかし、心が不安定な状況にも拘わらず何時も隣に居る筈の相棒の存在が頭から離れない様だ。


「《モモ。》」

「《モモぉ~!》」

「《モモ・・・。》」

様々なシチュエーションで自分の名前を呼ぶモカがフラッシュバックし、モモは驚いた様子で目を覚ました。


「はっ!」


目を見開いたままで呆然としていると先程見たモカの姿が夢であった事を理解し始めたモモは薄暗くなった部屋の中でひとり淋しさに苛まれた。


そんな気持ちを抱えながらベッドから出窓へと移動し外の様子を見ると下校する学生や帰宅する社会人が道を歩いている中、何組かの親子連れを目撃すると、以前自分がモカをハグした日の事を思い出す。

奇しくもあの日見たモカの横顔と窓に映る今の自分の愁いを帯びた表情が一致している様に思える。


「(モカはあの時どんな気持ちで見てたのかな・・・?)」


そう考えるにつれ昼間のケンカの風景が頭の中で蘇る。

どうして自分は『大キライ』なんて言ってしまったのだろう。

なんであの時心無い言葉をぶつけてしまったのだろう。

モモはどうしようもない後悔を覚えた。


数時間後。

完全に暗くなった寝室の中でモモは窓辺に座りながら今日、主は帰宅しないという事実に気付く。


主は現在、自身が所属するバンドのツアーに回っており本日は遠方のライブハウスに出向いて演奏しているのであった。

主と一緒に就寝するという夢も儚く散ってしまったモモは再び窓に映った自分の顔を見ながら今度はネガティブな方向へと思考を働かせてしまう。


「(どうせあたしなんか・・・。)」

「(今頃、モカはあたしが居なくなってせいせいしているに違いない・・・。)」

「(ご主人様だってきっとモカの方が可愛いと思っているんだ・・・。)」


無意識にそんな妄想に溺れてしまうも程無くしてそれ自体が馬鹿げている事に気付くと、

「もう!」

と、頭の中に纏ったそれらの妄想を振り払う様に声を上げるとその場で寝転がる。


「(何よ。ただモカのせいにして被害妄想しているだけじゃない・・・。)」

モカに対しての罪悪感から自己嫌悪に陥るモモは暫くその状態のまま過ごしていた。


その日の夜、モモは食事を取らなかった。

ケンカした事で食事を取る心境になれなかった事も有るがキッチンに置いてあるキャットフードを供給する自動給餌機の前でモカと出くわす可能性が有ると想定したからである。


夜も更けていきモカに対し主を独り占めしようとした事の後ろめたさも有ってかベッドの上ではなくフローリングに敷かれた絨毯の上で眠る事に決める。

明日、モカに謝りに行く事を誓うと同時に反省と後悔に苛まれながらモモはこんな事を思いながら一夜を過ごした。


「(独りぼっちってこんなに淋しかったっけ・・・?)」



如何でしたでしょうか。

ご意見ご感想等が有りましたらお気軽にどうぞ。

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