モスキート
今回は夏の嫌われ者である『蚊』をテーマに作成したエピソードです。
『ノーマット』または『ベープ』のスイッチをオンにしてご覧下さい。
8月も残り1日。
朝晩は流石に涼しくなった物の、日中は相変わらず暑い日が続き遠くの方でゆらゆらと揺れている陽炎を眺めているだけでも汗が出てきそうだ。
主宅のリビングに目を向けるとオートタイマー機能で冷房の効いたリビングでモカとモモが何時もの様にソファの上で昼寝をしている。
「モモってば、しょうがないなぁ・・・。」
「モカったら、仕方ないわねぇ・・・。」
快適な温度に保たれた部屋で気持ち良さそうに眠るふたり。
時折、発する寝言から夢の中でも一緒に行動している様子が見受けられる。
しかし、そんなひと時も束の間。
閉め切っている筈の部屋の中に耳障りなモスキート音をさせながら何処からか蚊が入り込んで来た。
「プ~ン・・・」
室内を縦横無尽に浮遊しながらモスキート音を響かせる蚊。
ふたりはそれに気付くも、眠りの世界にまだ身を置いていたいのか耳をピクピクと動かすとモスキート音を避ける様に寝返りを打つ。
「五月蝿いなぁ・・・。」
薄目を開けつつポツリと一言呟くモカ。
その言葉を受けてか、しばらく浮遊していた蚊はモカの右の頬に止まる。
違和感を覚えたモカは条件反射的に右手で頬を叩く。
「ふにゃ!」
パシッと音を立てながら頬を叩くも仕留める事が出来ず、蚊はそのままモスキート音をさせながら飛んで行く。
右の頬を腫らし少しムッとした表情を浮かべると、怒りが込み上がって来たモカは昼寝をあきらめ蚊を仕留める事を決意し辺りをキョロキョロと見渡す。
するとそんなモカの様子を嘲笑うかの如く左の頬に止まる蚊。
「ふにゃぁ!」
躍起になっているモカは先程よりも力を込めて左の頬目掛け手の平を打ち付けるも間一髪のところで逃げられてしまう。
程無くして鈍い痛みが襲い掛かると共に手の平の後が赤く浮かび上がって来た。
「許せない・・・。」
涙目になりながら蚊が飛んでいる方向を睨みつけるモカ。
心成しか冷静さも失っている様だ。
「此処までおいで!」
「捕まえてごらん!」
そんな風に揶揄われている錯覚に陥ったモカは蚊を仕留める為、必死になって追いかける。
テーブルの脚。
テレビの液晶画面。
本棚。
壁。
「ふにゃ!」
「ふにゃぁ!」
「ふにゃ~!」
「ふにゃあああ!」
これらの場所に止まる蚊に大きな叫び声を上げながら勢いよく飛びかかり仕留めようとするもことごとく失敗に終わる。
「ふにゃあああああ!」
なかなか仕留める事の出来ない悔しさと到る所に飛びかかった際にぶつけた痛みでフローリングの上で足をバタバタさせながら悶えるモカ。
宛らその姿はショッピングセンターで駄々を捏ねる幼児を彷彿させた。
そんな状況に耐え兼ねなくなったモモはゆっくりと身体を起こしながら目を覚ます。
「う~ん。モカったら、さっきから何騒いでるの?」
その声に気付いたモカは電源を切られた玩具の様にフローリングに打ち付けるかの如く動かしていた足を止め、首を横に傾けモモの方に視線を向ける。
「モモおおおお!」
「はにゃっ!」
物凄い形相をしながら呼び掛けるモカに思わず驚くモモ。
だが、そんな事に構う事無くモカは続ける。
「ねぇ、聞いてよ。蚊がプンプン飛んでて五月蝿くてお昼寝出来ないんだよぉ~!」
「いや、この時点でモカの方が五月蝿いと思うんだけど・・・。」
「違うんだよ! あたしは五月蝿くなくて蚊が捕まらないんだよぉ!」
「えぇ? ちょっと、モカ。一旦、落ち着いて・・・。」
様々な感情が混同し情緒不安定になっている為か、支離滅裂な事を言うモカにモモは戸惑いを覚える。
すると、モモの右の頬にモカが仕留めるのに手こずっている蚊が止まった。
「あ!モモ、ほっぺたに・・・。」
「ほっぺた?」
モカはモモの頬を指差しながら蚊が止まった事を教えようとする。
しかしモモはその事に気付く前に右の頬に違和感を覚えると同時に自分の手を打ち付ける。
『パシン!』
そして、徐に先程頬を打ち付けた手を胸の位置まで持って来ると見下ろす様に目をやる。
「あ、蚊だ。」
そこにはモカが仕留められずにいた蚊がのされた状態になっていた。
「そ、そんなバカなぁ・・・。」
自分は捕まえられず苦戦していたのにも関わらずモモがいとも簡単に仕留めてしまったという事実を受け、空気の抜けた風船の様に力が抜けてしまったモカはその場に倒れ込んだ。
「あれ。どうしちゃったの、モカ・・・?」
モカの様子を不思議そうに見ながらモモは一言そう呟くのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご意見、ご感想等が有りましたらお気軽にどうぞ。




