モカとモモ
子供の頃、よく自作の小説を書いては誰にも見せる事無く一人で楽しんでいました。
そして大人になった今、あの頃の様に小説を書いて今度は誰かに読んでもらいたいと思い、投稿するに至りました。
宜しければどうぞ・・・。
此処はとある街に有るアパートの一室。
この部屋の主は世界中を股にかける女性ベーシスト。
国内だけに留まらず、海外でも精力的にライブを行う実力派だ。
そんな主には数ヶ月前から新しい家族が増えた。
それがこの愛らしい姿の彼女達。
「ねぇ~、起きて!朝だよ!」
この仔はモカ。
生後6ヶ月程のメスの三毛猫。
野良ネコとして1匹で行動していたある日、外から聞こえてきた演奏に導かれる様にライブハウスに迷い込み、控室に戻る途中の主に懐いてしまい飼われる事になった。
名前は珈琲のモカに由来する。
「うぅん。まだあたし眠いよぉ・・・。」
そしてこの仔はモモ。
生後6ヶ月程のメスのアメリカンショートヘア。
血統書付きのネコとしてペットショップで販売されていたが以前の飼い主から飼育放棄されていた為、主が引き取る形で飼われる事になった。
名前は桃の缶詰に由来する。
「あっそ。じゃぁ、今日はあたしが先にご主人様に抱っこしてもらお~っと!」
「あぁ、待って。あたしも行くよぉ~。」
一目散に主の元へと行くモカに遅れまいと慌てて飛び起き、後を追うモモ。
起き抜け早々、なぜこれ程までに飼い主である主を探しているかというと、朝の挨拶を兼ねた日課である愛撫を目的としているからだ。
そんな彼女達ではあるが幾つか共通点が有った。
まず1つは母親を知らずに育ったという事。
そしてもう1つは人間の女の子になって主と共に『親子』として生活したいという事。
このお話は、ネコとして生まれ人間の女の子に憧れを抱くモカとモモの日常を中心に描いたファンタジーコメディーである。
さて、彼女達の探す主はというとベランダに出て柵に上半身を預けながら喫煙中であった。
空に向かって吐いたタバコの煙は数秒間漂うとすぐに消えた。
まだ朝靄が残る早朝。
目まぐるしい日常を忘れ、孤独に浸れる時間だ。
そんな事など知らないモカとモモは部屋中を駆け回った末、主の後ろ姿を見付けるや否や今にも飛びかかりそうな勢いで主に呼び掛ける。
「ねぇ、ご主人様ぁ~!」
「お願い。こっちに来てよぉ!」
人間の女の子の姿でいるつもりの当人達はガラスを叩きながらアプローチするも、後ろからの気配に気付き振り返る主にはカリカリと爪を立てながら愛くるしい鳴き声で催促する愛猫達の姿が見えた。
「ミャウ、ミャウ。」
微笑ましい光景に思わず笑みがこぼれた主は携帯していた灰皿ケースにタバコを揉み消し、ガラス戸を開けリビングで待ち構える2匹の元へ。
「おはよう。」
挨拶代わりに左手でモカ、右手でモモの頭を軽く撫でた。
「「はぁ~。ご主人様・・・。」」
待ち望んでいた主の登場に嬉しさが込み上げる。
主は先程までモカとモモが眠っていたソファの真ん中辺りに座ると膝を2回叩いた後、こちらに来る様に手招きする。
「おいで。」
その声に瞬時に反応したのはモカだった。
「あたしが先~!」
「あ、ずるい。あたしも~!」
少し遅れてモモも続く。
ソファの左右それぞれに飛び乗り膝に頭を乗せ横になった彼女達は恍惚とした表情を浮かべながら主からの愛撫を堪能する。
「ふにゃぁ~。」
「はにゃぁ~。」
余りの心地良さにゴロゴロと喉を鳴らしながら甘い声が漏れる。
この瞬間だけは『親子』とまでは行かなくとも人間とネコ同士でも『家族』になれた様に思える。
すっかり気持ち良くなってしまったふたりは再びスヤスヤと眠りにつくのだった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
皆さんに面白いと思って頂ければ幸いです。