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【89】魔法を使ってお手伝いをします!





 おじ様のところから帰ってきてから、私はちょこちょこ魔法の練習をしている。

 室内だとあまり大がかりな魔法は使えないので、今日は離宮の庭に出て魔法の練習をすることにした。

 私の離宮は城の敷地の中でも辺鄙なところにあるので、周りは自然で囲まれており、私達以外に人気はない。お庭も広々だ。

 皇妃の離宮だけあってお庭は広い。だけど、うちの庭師は騎士から転向したジョージ一人しかいないので、ジョージの負担は中々大きそうだ。庭師を増やさないとなとは思ってるけど、私に意気地がないせいで新しい使用人を雇うことに中々踏み出せない。この離宮に要人は私とリュカオンしかいないから大丈夫だってみんなは言ってくれるけど、この広い離宮を維持するのは大変だろう。


 なので、魔法の練習がてら私はみんなのお手伝いをすることにしたのだ。

 まずは一番大変そうなジョージのお手伝いをしようと思う。


「シャノン様にお手伝いしていただくなんて畏れ多いんですけど……」

「いいのいいの、私の修行だから」


 遠慮をするジョージに向けてフルフルと首を横に振る。

 帽子まで被って準備万端なのに、ここまで来て戻れない。

 帽子は日焼け対策なんだけど、その上でさらにセレスが日傘を構えている。……厳重だね。ここまでする必要あるかな。


「……セレス、ずっと日傘を差してるの大変でしょう。私帽子だけで大丈夫だよ?」

「いえ、シャノン様の雪のように白い肌をお守りするには帽子だけでは心もとないです。それに、シャノン様がお外で作業をされるなど、倒れられないか私心配で心配で……っ!」


 口元を覆ってよろけるセレス。私よりもセレスの方が今にも倒れそうだ。本人も言ってる通り、よっぽど心配をかけてるんだろう。

 ……そういえば、今まで長時間外で作業をしたことってあんまりないもんね。セレスも心配するわけだ。アリアとラナなんて既に私が倒れた時の準備をしてるみたいだし。

 大袈裟な……って言いたいところだけどこれまで体調を崩した回数を考えると、割と適正な対応かもしれない。みんな私のことよく分かってるね。

 倒れないよ! と言い切ることもできないので、ありがたくセレスの心遣いを受け取ることにする。


「それじゃあジョージ、私はなにをしたらいい?」

「そうですね……。俺は魔法があまり得意ではないので、どんなことができるかはあまり分からないんですけど、遠くのものを切ったりとかもできるんですか?」

「……できるんですか? リュカオン」


 私には分からないので、ここはリュカオンヘルプだ。

 だって、まだ自分でもどんな魔法が使えるかよく分かってないんだもん。

 リュカオンは少し呆れた目をした後、すぐに教えてくれた。


「もちろんその程度はできるぞ」

「できるって」

「そうなんですね。じゃあ、離宮周りの木の形を整えるのを手伝っていただけますか? 俺だけだと中々厳しくて……」


 不甲斐ないです……と少し気まずそうに笑うジョージ。

 いやいや、無理もないよ。離宮周りの木はジョージよりも大分背が高いし、最近はあまり手入れがされてないせいで伸び放題だもん。この離宮に外の人が来ることなんて滅多にないから、ちょっと木の形が不格好だからって全く問題ないけど。ジョージの努力のおかげで花壇の花とかは本当に綺麗に咲き誇ってるから、それだけで十分だ。

 だけど、ジョージはできることなら離宮周りの木も綺麗に整えたかったんだろう。庭師心ってやつだね。


「よし、私に任せて! 離宮周りの木をつるっぱげにだってしちゃうよ!」

「い、いえ、つるっぱげは景観的にちょっと……」


 どうやら木を丸裸にするのはアウトらしい。葉っぱを全部なくしちゃった方が手入れの手間がなくていいかと思ったけど、そういうことでもないんだね。

 大丈夫です、シャノンちゃんはちゃんと指示を聞ける皇妃なので。


 不安そうな顔になったジョージを宥め、私達は離宮の敷地を囲っている木の方へと移動をした。

 離宮の庭を囲むように等間隔で生えている木は、方々に枝を伸ばし、好き放題に葉を生やしている。


「元気いっぱいな木だねぇ」


 ボサッとしてるのも元気がよくて私は好きだけど、庭の景観って点から見るとあんまりよくはないんだろう。


「この木を整えればいいんだね?」

「はい、こう……縦長の三角形のような形に……」


 ジョージが地面に絵を描いて形を示してくれる。

 ふむふむ、人参みたいな形にすればいいんだね。がってん承知!


「さてリュカオンさん、伸びた枝を切るにはどうしたらいいんですか?」

「ふむ、そうだな、よく見ておれ」


 すると、リュカオンは魔法を発動し、風の刃で伸びていた枝を一本切り落とした。

 いともたやすく切られた枝がドサッと地面に落ちる。


「流石神獣様……あんな高いところにあった枝をこんなに簡単に! ……というか、こんなことに神獣様やシャノン様の魔法を使っていいのか……?」

「いーのいーの、私の修行だから」


 悩み始めちゃったジョージの背中をポンポンと叩く。


「シャノン、風とはいえ刃だから扱いには十分気をつけるのだぞ。あと落ちてくる枝とか葉にも注意を怠るなよ」

「分かった」


 リュカオンの忠告を素直に受け止める。確かに私のことだから、上から落ちてくる枝に気付かないで下敷きになるとか全然ありそうだ。


「じゃあ早速やってみる。みんな、木の下から離れててね」


 みんなが安全な場所にいることを確認した私は、一際形の崩れている木に向けて両手をかざし、魔法を発動する。すると、少しだけなにかが抜けたような感覚と共に、風の刃が伸びていた木の枝を切り落とした。魔法の発動と同時にほんのりと光る水色の光がきれい。


「うむ、上手だ」


 私の隣にいたリュカオンがうんうんと頷く。どうやら及第点だったらしい。

 えへへ、嬉しい。


「じゃあどんどんやっていくね!」

「はい、お願いしますシャノン様」


 問題なく魔法が使えたので、どんどん作業を進めていく。離宮を囲む木はいっぱいあるから、テンポよく進めないとね!


「――はぁ、私の主はなんて天才なんでしょう。世界一と言っても過言ではないレベルでおかわいらしくて魔法の腕も立つなんて、もう弱点なしじゃないですか……!!」


 いやいや弱点だらけだよ? 身体の弱さなんてザ・弱点じゃない?

 そうは思ったけど、喜んでいるセレスに水を差すのもなんなので、なにも言わないでおいた。シャノンちゃんは理想の主でいたいので自分からネガティブキャンペーンはしないのです。セレスに褒められて嬉しかったし。


 その後は、ただただ作業に没頭した。

 どんどん木の形を綺麗にしていくのは、結構楽しくて、夢中で作業をしちゃった。

 私が剪定作業に慣れてきてからは、ジョージも他の場所の作業に向かっていった。うんうん、分業って大事だよね。

 私に日傘を差しているだけのセレスは暇しちゃうかな、と思いきや、決してそんなことはなかった。


「シャノン様、そろそろ水分補給しましょうね」

「汗を拭きますね」

「立ちっぱなしだと大変なので椅子を持って参りました。ついでに少し休憩しましょう」


 こんな感じで、セレスは甲斐甲斐しく私のお世話をしてくれた。しかも、ちょうど私の集中力が切れた絶妙なタイミングで話し掛けてくるのだ。

 セレスこそ完璧な侍女さんだよ。


 そんなセレスの完璧なサポートもあり、午前の間に離宮を囲っている木々の半分を整え終えることができた。うんうん、中々のスピードじゃないかな。

 きれいになった木を見上げて達成感に浸る私。

 ふぅ、いい仕事したなぁ。


「―――あれ? 姫なにしてるの?」


 そこで、背後から声がかけられた。

 聞き慣れた声の主はもちろん、私の旦那様だ。


「フィズ、お仕事お疲れ様」

「ありがとう姫。姫もなにかやってたみたいだね?」

「うん、魔法の練習がてらジョージのお手伝いをしてたの。見て見て、この周りの木、私が剪定したんだよ?」


 どやぁ、とフィズに午前中のがんばりをアピールする。


「え、すごいね姫。とても綺麗に整ってるよ。プロの庭師の仕事かと思った」

「ふふふん、もっと言って」

「ドヤ顔の姫もかわいい」


 どうやら私のドヤ顔はお気に召したみたいだ。


「―――そういえば、フィズは魔法を使えるの?」

「うん、俺も白虎の聖獣と契約してるから使えるよ。そういえば、姫はまだ会ったことなかったね。今度会ってみる?」

「うん!」


 白虎……! 楽しみだ。普通虎なんて触れ合えないし。


 フィズの聖獣と会うことを楽しみに瞳を輝かせていると、隣からジトリとした視線を感じた。


「……シャノン、浮気か……?」

「り、リュカオン、浮気じゃないよ。リュカオンが一番だよ……!!」


 ジト目のリュカオンの首にムギュッと抱き着く。今日もふわふわだ。

 リュカオンはフンッと鼻で息を吐いた後、ゆらゆらと尻尾を揺らした。どうやらご機嫌はなおってくれたみたい。


「微笑ましいねぇ」

「ですね」


 フィズとセレスはほのぼのした様子で私とリュカオンのやり取りを見ていた。


「フィズ、私フィズが魔法を使ってるとこ見てみたい」

「え~、しょうがないなぁ」


 しょうがないなと言いつつも、フィズは満更でもない様子でその辺に落ちていた枝を手に取る。


 そして、フィズはまだ剪定が終わっていない木の前に立つと、ヒュンヒュンヒュンッと手に取った木の枝をその場で何度か振った。

 一瞬後―――

 ドサドサッ 


「……え」


 切り落とされた枝と葉が、まるでたった今切られたことに気付いたように、一斉に地面に落ちる。

 残ったのは、隣のものと同じように綺麗な人参型になった木だ。


「えぇ!? それ木の枝だよね? それでどうやって切ったの? というかその場から一歩も動いてないのにどうやったの!?」

「ふふ、それは秘密」


 そう言って片目を瞑り、人差し指を口元に当てるフィズ。

 その姿は大層絵になるけど、今はそれどころじゃない。


「シャノン、そやつがやったのは卓越した剣術と、魔法の合わせ技だ。お前の参考にはならんぞ」

「そっかぁ」

「ああ、しかも魔法はおまけ程度だ。魔法をどんなに極めてもそやつと同じことはできんだろうな」


 どうやら、今のフィズの凄技は、スパイス程度にしか魔法は使ってなかったようだ。


「あはは、神獣様にはお見通しかぁ。俺は魔法よりも剣術の方が得意だから、ちょっとズルしちゃった」


 フィズは少しバツが悪そうに笑うけど、そっちの方がすごいよ。

 すごい……! かっこいい……!!

 私は一本一本枝を落としたのに、フィズは一瞬だった。


「すごいよフィズ! この凄技があれば庭師として大出世できるよ」

「ふふ、そうかな」

「……シャノン、忘れているかもしれないがそやつは皇帝だ。これ以上出世しようがない立場だぞ。皇帝、そなたもシャノンに褒められたからってヘラヘラ笑うでない」


 おっとっと、そうだったね。フィズのとんでも技に興奮し過ぎてうっかり忘れてたよ。


「……でも、ちょっと悔しいなぁ。―――よし、午後はフィズよりも早く剪定作業をできるように頑張るっ!」


 むんっと午後のやる気を入れ直す。


「……シャノンも自分が皇妃だってことを忘れてくれるなよ。あと、剪定作業が上手くなるためではなく魔法の練習だったはずだが……まあいいか……」


 午後の作業の前にまずはごはんだね。

 栄養補給をするため、何かを呟いていたリュカオンを連れて私達は昼食へと向かった。




 




 




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