【78】神獣様面接!
私の差し入れを食べながらみんなでお茶をしたけど、やっぱりフィズは間者が紛れ込むんじゃないかという不安がどこか拭えないみたい。
そんなフィズを見るアダムの呆れ返った様子からするに、フィズの杞憂なんだろうけど。
「う~ん、そんな心配なら教皇様呼んできて城内の人みんな視てもらう?」
「いやいや、教皇猊下はそんな簡単に来てくれる人じゃないしそんなこき使うような真似できないですよ」
「それもそっか」
私の案はアダムに却下された。
そうだよね、おじ様はこの国では皇帝に並ぶくらい偉い人だもんね。
「そんなに心配ならフィズが直々に新人さんの面接したら……って、それは無理だね」
なんてったって多忙を極める皇帝さんだもん。わざわざ新入りさん一人一人に接することなんてできないね。
私もお嫁さんとして旦那様の不安は取り除いてあげたいけど……。
「そういえば、離宮も使用人もまだ少ないですよね。離宮の使用人も補充します?」
「う~ん、それはまだいいかな」
「そうですか。でももし王城で気に入った使用人がいたらスカウトしてもいいですからね」
「分かった」
アダムの言葉にコクリと頷く。
「皇妃様と神獣様は人を見る目がありそうですね」
「私はともかくリュカオンはそうかもね」
「うむ、我は人を見る目には自信があるぞ。なにせこのシャノンを契約者に選んだのは我だからな」
「確かに、それはかなり見る目がありますね」
フィズが大真面目にうんうんと頷いている。
「あ、じゃあ新人さんの採用の面接にはリュカオンも参加してもらえばいいんじゃないかな。リュカオンお墨付きならフィズも安心できるんじゃない?」
「え、でも神獣様をそんなことに使うわけには……」
「我は構わぬぞ。離宮にいても暇だしな」
躊躇いを見せたフィズにリュカオンが言う。
リュカオン、暇してたんだ。
「ただ、シャノンを一人にはしておけぬからその時はシャノンも一緒にいてもらうことになるが」
「確かに、姫と神獣様を離すのは心配ですね。たとえ間者が紛れ込んでいなくても一人にしたらどこで行き倒れちゃうか分かりませんしね」
「う~ん、否定できない」
「もうちょっと自分に自信持ってもいいんですよシャノン様」
アダムがそう言ってくれるけど、私の虚弱さは私が一番分かってる。
「ただ、正面から神獣様とシャノン様と新人を接させるには警備などの問題がありますので、影からこっそりとになりますけど」
「ああ、それでよい。一々跪かれても面倒だからな」
「そうだね」
フィズとアダムは平気だけど、信仰心の強い人はリュカオンを見ただけで涙を流したりするからね。それが決して悪いわけじゃないけど、一々それに対応してたら時間がかかってしょうがない。
「すみませんねシャノン様、神獣様。陛下が心配性を拗らせたせいでそんなことをご提案いただいちゃって……」
「ううん、旦那様の心配を払拭するのは私の役目だからね!」
「わぁ天使」
パチパチと拍手をするフィズ。
「それじゃあ早速手配しますね」
「は~い。ありがとうアダム」
優秀なアダムのおかげで、次の日には準備が整った。
「面接は王城でやるんだねぇ」
「遠い場所じゃなくてよかったな」
アダムの後を歩き、私とリュカオン、そして護衛のオーウェンは面接会場に向かう。
面接会場は普通よりも広めの部屋で、部屋が分厚めの赤いカーテンで二つに仕切られていた。仕切られた部屋の片方には面接用の机と椅子がセットされており、もう片方にはくつろぎの空間が設置されていた。
床にはふわふわの絨毯が敷かれ、その上には大小様々なクッションが設置されている。さらにはおやつとブランケット、暇つぶし用と思われる本も設置されている。
「……何、このくつろぎの空間」
「シャノン様が体調を崩さないようにと陛下が」
「なるほど、フィズの仕業か」
隣で真面目に働いてる人がいるのに隣でこんなにくつろぐのはちょっと気まずいな……。
そんなことを考えていると、面接官の人達が私達に挨拶をしに来た。
面接官は文官用の服を着た三人の男の人だ。みんな真面目そうな顔してる。
三人は私とリュカオンの顔を見るとハッと息を呑み、崩れ落ちるように跪いた。
「お、お会いできて光栄です……! 神獣様、皇妃様」
「こんな間近でお顔を拝見することができるなんて……グスッ……」
「お二人ともなんて神々しい……!!」
三人とも目が潤んでる。
そんな三人からこちらに視線を移したアダムが少し困ったような顔をする。
「過剰な反応は控えてって言っておいたんですけど、すみませんね皇妃様」
「ううん、大丈夫だよ。反射的に動いちゃうのは仕方ないし、別に悪いことをしてるわけじゃないしね」
「うむ」
私とリュカオンがそう言うと、今度は「なんとお優しい……!」と感動し始めた。リュカオンなら何でもいいんだろうね。
「我らはこちらの部屋から志望者をこっそり見極めればよいのだな」
「はい。書類の審査から心理的なテストまでしているので大丈夫だとは思うんですけど、陛下がだだをこねるのでご協力お願いします」
アダムがリュカオンに向けて頭を下げる。
「まあそう言ってやるな。奴の野生の勘は割とありそうだからな」
「本来は野生とは一番遠い場所にいるはずのお方なんですけどね」
そう言ってアダムが苦笑いする。
そりゃそうだよね、生粋の皇族だもんね。
「おっと、そろそろ時間だ。じゃあ神獣様、シャノン様、よろしくお願いしますね」
「うむ」
「は~い」
私もなんだかんだやる気満々なので元気よく片手を上げて答えた。
アダムが部屋から出て行き、三人の面接官が面接ゾーンに移動すると早速最初の志望者が呼び込まれた。
「失礼します!」
元気よく志望者が入室してきた。
声からして青年だろう。
そして、面接は当たり障りなく進んでいった。出身とか、志望動機とか、特技とか、割と基本的な質問がされていく。
「―――では、次が最後の質問です。現在、皇室には皇妃様と、神獣であるリュカオン様がいらっしゃいます。皇妃様は正に絵画の住人のようにお可愛らしく、神獣様は言わずもがな、この上なく尊い存在です」
ん? なんか始まったね。
心なしかこの場の空気感も変わったような……。
「皇妃様はその儚い容貌に違わぬお体の弱さです。傷一つ付けるわけにはいきません。神獣様も言わずもがなです。ここまでは理解できますね?」
「はい、もちろんです」
志望者さんがコクリと頷く気配がする。
いや、なに言ってるの? そして志望者さんもなに真面目に答えてるの?
「皇妃様や神獣様を命を懸けて守る覚悟はありますか!?」
「はい!! もちろんです!! 私は先日の和平記念式典でヴィラ・ユベールに立ち向かう皇妃様に心を打たれ王城の騎士を志望しましたので!! もちろん、神獣様や陛下の盾になる覚悟もございます!!」
「うむ! だが神獣様と陛下は誇張抜きで、我々ではお二人の足元にも及ばないほどお強いので戦闘の際は邪魔にならないことを心掛けた方がいいかもしれぬな!!」
大きな声でちょっぴり情けないことを言う面接官さん。まあ確かにフィズとリュカオンは強いらしいからね。
にしても私はこの質問をどんな顔して聞いてればいいんだろう。居た堪れないというかなんというか……。
もしかして、この後もずっとこの質問を聞かないといけないのかな。ちょっとした辱めじゃない?
というか、新人さんがみんなこの質問をされて面接を通過していると思うと、どんな顔をして接すればいいか分からないね。
チラリとリュカオンを見ると、リュカオンは諦めろと言わんばかりに首を横に振った。
そして、向こう側に声が聞こえないように念話でリュカオンが話し掛けてくる。
『シャノンの生活圏内で働くのならばあれくらいの気概は欲しいものだな』
『リュカオンも向こう側だったか』
そういえば親バカさんだもんね。
それから志望者さんが部屋から出ていくと、面接官の三人が仕切りのカーテンをめくってこちらのスペースに入ってきた。
「お二人とも、今の青年はいかがでしたか?」
「うむ、あ奴が嘘を吐いている気配はなかったな」
うんうん、今の人の声からは胡散臭い感じとかはしなかった。
「承知いたしました。では次の志望者を呼び込みますね」
「うむ」
リュカオンが鷹揚に頷くと三人は戻っていった。
それからも、面接はどんどん続いていく。
「命を賭して皇妃様に仕える覚悟はあるか!!」
「あります!!」
「陛下の最愛である皇妃様の玉のような肌に傷一つつけさせない覚悟はあるか!!」
「はいっ!!」
「神獣様と皇妃様、そしで陛下を何よりも尊び、守り抜く覚悟はあるか!!」
「あります!!」
そして、面接の最後には必ず私が小恥ずかしい気持ちになる質問がされていた。私はどんな顔して聞いてればいいんだろう。
「……王城の面接って思ってたよりも熱血系なんだね……」
「腐った者達が一掃されたからな、忠誠心の強い者達だけが残ってあんな感じになったんじゃないか?」
「なるほど……」
今少数で城の業務を回してる熱血集団だもんね。そりゃあ面接もこんな感じになるか。
でも、ビックリしたのは侍女とか、戦闘職じゃない人達にも同じような質問をしていることだ。
今の受験者が嘘を吐いていないか確認しに来た面接官さんに、どうしてそんな質問をするのか聞いてみた。
「え? どうして最後の質問をするのか、ですか?」
「うん」
コクリと頷く。
「そうですね、これから共に働くことになるかもしれない者として確認しておきたいのもありますが、陛下から皇妃様に害意がないかは確認しておくようにと言われておりますので」
「フィズのせいか」
受験者に王城が変な場所だと思われちゃったらどうするんだろう。
あっちはあっちで過保護を拗らせてるね。
「む、シャノン、そろそろ昼寝の時間ではないか?」
時計を見てそう言うリュカオン。
昼寝の習慣はなかったんだけど、王城が落ち着くまで離宮で待機している間に自然と昼寝をすることが増えちゃったんだよね。この期間はそれまでの疲労を回復させるようにいっぱい寝てたなぁ。
それで、自然と大体同じ時間に昼寝しちゃったから、リュカオン達が自然と昼寝の時間だと認識してしまったのだ。どうせその時間に寝ちゃうから特に否定はしなかったんだけど……。
別に寝なくても大丈夫だよという私の言葉をスルーし、寝転がったリュカオンがお腹の辺りに私の頭を抱き込む。そして尻尾で私のお腹をポンポンし始めた。もちろん私のお腹から足元まではブランケットがかけられている。
あったか~い。
そして私は見事、過保護な狼さんによって寝かしつけられてしまった。





