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【7】いや結婚式急だな!!




「先行きが! 不安すぎる!!」


 帝国入り一日目の夜、私は部屋でそう叫んだ。そして叫んだことで咳き込む。


「けほっけほっ」

「こらこら、無理するな」


 リュカオンが尻尾で私の背中を撫でてくれる。ありがとね。


「ほらほら、さっさと寝るぞ。魔法で怪我が治ったとはいえ体にかなりの負荷はかかっているのだからな」

「は~い。リュカオン一緒にねよ」


 言うのと同時にリュカオンをベッドに引きずり込み抱きしめる。

 あったか~い。

 外も吹雪いてきたみたいだし、丁度いい湯たんぽだ。


「リュカオン何かお喋りする?」

「しない。早く寝ろと言っているだろう」

「多分私明日から暫く使い物にならないと思うから今元気なうちにおしゃべりしようよ。シャノンは意外と体が弱いのです」


 そう言うと、リュカオンが少し悲しそうな顔になった。


「いいから早く寝ろ。今無理してもいいことはないだろう」

「確かにそうだね。おやすみリュカオン」

「ああ、お休みシャノン」


 部屋を暗くすると、私はあっという間に眠りについてしまった。




***




 次の日、私は見事に体調を崩した。

 完全に予想通りだ。


 リュカオンが心配そうに私を見下ろしている。


「だいじょうぶ、いつものこと、だから……」

「いつもの事だろうがなんだろうが辛かろう」


 リュカオンが優しい。


「魔法でなんとかしてやりたいが、これ系を魔法で治すとどんどん身体が弱くなるだけだからな……。まともな看病も期待できぬし」


 私のお腹の上に前脚を置いたリュカオンが憎々しげに言い放つ。

 リュカオンの機嫌が悪いのはさっき来た侍女の対応もあるんだろう。


 さっき朝食の配膳に来た侍女は、明らかに具合の悪そうな私を見てチッと舌打ちをした。そして、「聖獣の色を変えてまで神獣様だと偽ろうとするから罰が当たったんですよ」と言い放ち、早々と部屋を出て行ってしまった。


「……リュカオン、毛のいろかえてるの……?」

「そんなわけないだろう。我はもとより銀色の毛に紫の瞳だ」

「だよねぇ」


 まあ、あの反応からするに看病は望めないだろう。


 こんな時、ちょっとの不調でも心配してくれた祖国の侍女が恋しくなる。親代わりに私を育ててくれたみんな。

 みんなのためにも、こんなところで私が折れるわけにはいかない。こうやって何もしなくてごはんが出てくるだけでありがたいことなんだから。


 早く回復しないと。


 そう思い、私はリュカオンの胸毛に顔を埋めた。いい匂い。





 看病はしてくれなかったけど食事は滞りなく届けられた。私はあんまり食べられなかったから残りはリュカオンの胃袋に消えたけど。

 神獣は食事を必要とはしないけど嗜好品として食べる分にはなんの問題もないらしい。「まあまあだな」と言いつつもぺろりと完食していた。


 そして、夕食を届けにきてくれた侍女がついでとばかりに重要事項を言い残す。


「あ、そうだ、結婚式は明後日になりますのでそれまでに体調を整えてくださいましね」


 はい?


 聞き返そうとベッドに横たわった状態から顔を上げたけど、既に侍女は退室していた。毎度毎度素早い行動ですこと。さすが王城で働く侍女と言うべきか、無駄なことには時間を割かないらしい。


「ねえリュカオン、結婚式って私と皇帝陛下のだよね」

「おそらくな……」


 この時ばかりは痛む喉もスイスイと言葉を紡いでくれた。


「いや結婚式急だな!!」


 大声を出したことでけほけほと咳が出る。

 当事者が一番日程知らないってどゆこと? 一応私の結婚式だよね?


 せめて一週間の猶予はあると思ってたのでびっくりだ。びっくりし過ぎて一瞬体調の悪さも吹っ飛んだ。

 というか私の蚊帳の外感半端ないね。

 明後日が結婚式ってことは、私が知らないところで結婚式の準備は着々と進んでいたらしい。つくづく急いで帝国に駆けつけてよかったと思う。結婚式に間に合わなかったら二国間の関係は悪化したこと間違いないからね。


 完全に和平の道具扱いの私だけど、結婚式には綺麗な状態で臨みたい。


 侍女の言う通り、早く体調を回復させないと……!


 そう意気込むも元来の体の弱さはどうにもならず、体調面に若干の不安を抱えたまま私は結婚式当日を迎えることとなった。


 怠い体を起こし、真っ白いドレスに着替える。

 さすが帝国が用意したドレス、生地がスベスベだ。多分、私でも初めてお目にかかるレベルのいい生地だと思う。

 まだ十四という年齢だからか、ドレスは可愛らしい系のデザインだった。まだシンプルなのは似合わないだろうと判断されたんだろう。

 たぶん当たってる。

 祖国の侍女には子猫ちゃん子猫ちゃんと言われてたから、私は一般的に見るとベビーフェイスらしい。そんな私に大人の女性が着るようなシックなデザインのドレスは似合わないと思う。


 今日ばかりは朝から待機していた侍女達の前にウエディングドレス姿を見せる。

 ほう、と溜息を吐いた侍女達は次の瞬間、ハッと我に返って私をドレッサーの前に座らせた。


「お化粧は……ベールをかぶるから要りませんね」


 え、お化粧してみたかったのに。

 ちょっと残念だけどまあ仕方ない。


 その後は、髪の毛を痛いくらいに引っ張られ、まとめ上げられた。みんな私の髪の毛に何か恨みでもあるの? みんなだってまだふさふさだしハゲてもいないのに。

 髪の毛がふさふさ以外で私の髪が人の恨みを買う理由が思い当たらない。


「いてててて!!」

「我慢してくださいまし」

「はげちゃう! まだ十四歳なのにはげちゃうぅぅ」

「ハゲません!!」


 はげるを連呼すると、髪を引っ張る侍女さんの力が少し弱まった。よしよし。



 絶対何本か抜けた気がするけど、まあ尊い犠牲だ。後でお掃除してあげるからね、侍女が。














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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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[一言] 面白い、の一言につきます 皇帝の登場が愉しみです( ^ω^ )
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