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【67】お礼を言いにきたんだよ!






 私の歩幅に合わせて隣を歩くフィズが尋ねてくる。


「ところで姫は今からどこに行くの?」

「神聖図書館だよ」

「何しに?」

「お茶飲み友達になったお兄さんに会いに」

「え、浮気?」


 ハッとした顔で言うフィズ。なんでそうなる。

 たしかに状況だけ聞いたら浮気現場かもしれないけど、私の年齢が年齢だ。というか私はそもそもお飾りだし。


「浮気じゃないでしょ」

「え~、他の男と二人で会うなんて浮気じゃん」


 本気で思ってる様子もなさそうなのにまだ言い募ってくるフィズに、リュカオンがはぁと溜息を吐いた。


「そなたにはシャノンしか見えぬのか」

「あ、そうだそうだ、激強過保護者がついてたね。狐ちゃんも前より大分回復したようでよかったよ」


 フィズが狐に笑みを向けると狐の腰が少し引けた。これはただフィズの底知れなさにビビってるだけだろう。狐にも分かるもんなんだね。


「あら、怯えちゃった。人見知りを克服するのはまだ遠そうだね」

「今のはただ単にフィズに怯えただけだと思うよ」

「え~、傷付くなぁ」


 口ではそう言ってるけど微塵も傷付いた様子はない。そういうとこだよ。


「本心を隠すのが癖になっちゃってるんだよね。父親との関係がよくなかったせいかな。それで足元を掬われてもいいことないし」

「それは本当の理由?」

「はは、どうだと思う?」


 意味深な流し目で私を見るフィズ。十四歳に向ける目じゃないね。


「な~んてね、今のは本当だよ。これでも姫には誠実でありたいと思ってるんだから」

「どうして?」

「―――姫が、国のために命を懸けてここまで来てくれたからだよ」


 ああ、この国に来る時に私にあった出来事をフィズは分かってるんだろう。あ、そういえばあの時の聖獣騎士も来てたね。


「神獣様と契約したんだし、君には逃げる選択肢だってあったんだ。十四歳の女の子だ、結婚に夢も抱いてただろう。だけど君は逃げず、こっちに来てからの皇族としてはクソみたいな環境でも腐らなかった。そんな君を俺は尊敬してるんだよ」


 そう言って微笑むフィズ。

 もっと褒めてくれてもいいんだよ。


「正直、これまでのことを考えたらどんな我儘でも聞いてあげたいし、なんでも買ってあげたい。そうだ、せっかく会えたんだし今のうちに聞いておこうかな。なにか希望はある?」

「あ、じゃあ乗合馬車の乗り心地をもっと良くしてほしい! せめて国営のだけでも。あれ酷いよ、とっても酔うし、みんななんだかんだ大変な思いしてるんじゃないかな」


 皇妃としての権力が使えるようになったらやろうと決めていたことを早速フィズに伝える。すると、フィズは少し呆けた顔をした。


「……姫はどこまでも王族なんだね」

「フンッ、我の契約者だぞ」


 なぜかリュカオンが誇らし気な顔で皇帝に言う。


「そうでしたね。よし分かった、乗合馬車の件は会議に出してみるよ。普段から使っている者の意見も聞かないといけないね」

「! フィズありがとう!!」


 これで馬車酔いからはおさらばだ! いや、私がまた乗合馬車に乗るかどうかは分からないけど。もしかしたらまたこっそりお出かけするかもしれないからね。



 そんな風に話しながら暫く歩いていると、フィズに時間が来てしまったようだ。


「―――おっと、そろそろ戻らないと」

「もう? 忙しいね」

「これでも一応皇帝だからね。馬鹿共の後始末もまだ終わってないし」

「……なにか私に手伝えることある?」


 そう尋ねると、皇帝はフッと笑って私を抱き上げた。


「姫はただ健やかでいてくれるだけで、それだけでいいんだよ」

「健やかで……それは中々難しい注文だね」


 なにせ生まれつき虚弱なので。


「でしょ? だから姫はそれに専念しなさい」

「……うん」


 私の返答に満足そうに頷くと、フィズは私を地面に下ろした。そしてリュカオンの方を見る。


「―――神獣様」

「分かっておる。ここから神聖図書館へは転移で行こう。どこかの誰かのせいで余計な時間も食ったしな」

「あはは、そのどこかの誰かが誰かは全く分からないけどそうしてください」

「……ほんとに憎らしい男だなそなた」


 リュカオンはフィズからプイッと顔を逸らし、私の所までやって来た。


「シャノン、転移するぞ」

「うん。あ、フィズ、無理はしないでね―――!」


 最後にそう言い、私とリュカオン、そして狐は転移した。









 ―――そして、シャノン達が転移した後残されたフィズレストは、その場で顔を覆った。


「あ~、お嫁さんがいい子過ぎて俺には眩しいなぁ……。どんな育て方したらあんな子が出来上がるんだろ」


 そう呟いた後、彼も颯爽とその場を後にした。





***






 次の瞬間、私達は神聖図書館の前にいた。

 色々あったせいか以前ここに来たのが随分前のことみたいに感じる。前回ので記録されたのか、どういう仕組みなのかは分からないけど今回は魔法陣は発動しなかったね。よかったよかった。

 そして神聖図書館の入り口に向けて一歩踏み出すと、中から人が出てきた。

 その人物は私達の姿を認めると、大きく目を見開く。


「―――あ」

「こんにちはお兄さん」


 挨拶をすると、お兄さんは本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。





「―――お茶が入りましたよ」


 前回と同じ、来客者用の小部屋で待っていると、お兄さんが温かいお茶とお菓子を持ってきてくれた。


「ありがとうございますお兄さん」

「いえ、こちらこそ。本当にまた会いに来てくれるとは思いませんでした」

「ふふふ、お茶飲み友達になるって言ったじゃないですか」

「! ……そうですね」


 私は早速お兄さんが淹れてきてくれたお茶に口をつけた。うん、あったまる。


 ―――さて、それじゃあ本題に入ろうかな。


「お兄さん、お礼のお手紙は届きましたか?」

「お手紙? なんのことだい?」

「お見舞いのお礼のお手紙です」


 首を傾げるお兄さんに私は言い募る。


「お見舞い? 僕はそんなものを誰かに送った覚えはないけど」


 ニコリと笑ってお兄さんはそう言う。なるほど、しらばっくれるつもりだ。

 リュカオンに視線を送ると、リュカオンは私に掛けている魔法を解いてくれた。瞬間、私の瞳は紫色に、髪は白銀に戻る。

 この国では珍しい色彩だけど、私が予想していた通りお兄さんは驚かなかった。

 驚かなかったのは、お兄さんが一度この姿の私を見ているからだ。


 ジッと見詰めると、お兄さんがはぁと溜息を吐く。


「……大人は、気付かないことにしたままの方が都合がいいことが色々とあるんですよ?」

「そうなんですね。でも私は子どもなので、隠されると暴きたくなっちゃうんです。……困らせる気は、なかったんですけど……」

「なるほど、子供心ってやつですね。自分が子どもだったのは随分前のことだったのですっかり忘れてしまいました」


 そう言って笑うお兄さんに私は返す。


「でも、本当にただお礼を言いに来ただけなんですよ? お見舞いの品もそうですけど、避けている筈の表舞台に出てきてまで私達の味方をしてくれてありがとうございました―――」


 そう、きっとこの人は私を助けるためにあの場に来てくれたのだ。



「―――教皇様」



 深々と頭を下げて、少ししてから上げる。すると、目の前にあったのは少し眉尻の下がったお兄さんの顔。



「……どういたしまして」



 少し困ったように笑ったお兄さんは、私にそう返した。
















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