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【66】旦那様はサイコパス……?






 風呂敷からひょっこりと顔を出した狐がキョロキョロと私と皇帝を見比べている。

 リュカオンは大きなあくびをして傍観モードだ。ちなみに、今のあくびで狐が風呂敷ごと積もっている雪の上に落ちた。

 雪の上だから痛くはないだろうけど、びっくりしたみたいで「キュッ!?」と小さく鳴き声を上げていた。

 リュカオンは「すまんすまん」といい、狐入りの風呂敷を咥えてひょいっと自分の背中に乗せた。


「今はそこに乗っておれ。今はシャノンは乗ってないからな」


 そう、色々と積もる話があるので私は今リュカオンから下り、皇帝と隣同士でゆっくりと歩いている。



「―――ところでフィ……皇帝はこんな所で何をしてるんですか?」

「今まで通りフィズって呼んでくれていいよ。どうせほぼ本名だし。あ、あと敬語もいらないから」

「フィズはこんな所で何をしてるの?」

「うんうん、順応力が高い子は好きだよ」


 よしよしとフィズに頭を撫でられる。外にいて冷えたのか、私の頭を撫でる手は少しひんやりとしていた。

 フィズがただの他人だったらここまであっさり敬語は止めないけど、一応書類上は既に身内だからね。別に敬語なんか使わなくてもいいでしょ。


「ほんの少しだけ時間ができたから姫の様子でも見に行こうと思ってね。それでこうして待ち伏せしてたんだよ」

「……」


 待ち伏せしてたんだ。


「なんで私達の行動が分かったの?」

「ふふ、皇帝にはいろんな目があるんだよ。そこの神獣様が教えてくれることもあるしね」


 フィズの言葉で私はリュカオンの方に視線を向けた。


「……そういえばリュカオン、セレスの故郷に行った時書置きを残してたよね。あれってもしかして……」

「様子を見に来るであろう皇帝に一応、な」

「そうだったんだ。にしても、リュカオンってばいつの間にフィズと仲良くなってたの?」

「別に仲良くはないが、前にこの男がシャノンの寝顔を―――」

「姫の顔をこっそり確認しに行った時に少しだけ話したことがあったんだよ」


 リュカオンの言葉を遮るようにしてフィズが言った。


「ふ~ん」


 フィズが私の顔を確認しに来てたなんて全然知らなかった。いつ来たんだろう。それに、私は四六時中リュカオンと一緒にいたはずなのに気付かないなんて……不思議だ。

 ジッとフィズを見上げるとソッと視線が逸らされた。なんでだろ。まあ突き詰めないであげよう。


「まあリュカオンとフィズがいつ会ったかはいいとして、フィズが私の顔を見に来た時にユベール家の監視はなかったの?」

「俺はこう見えても忙しいからね。一日に睡眠時間として割り当てられてるのが一時間とか二時間しかないんだよ。ユベールの監視役も流石に俺が寝てるだろうと思ってたのか、その時間の監視はま~ザルだったね」


 クスクスと笑うフィズに一つの疑問が浮かぶ。


「寝てるだろうって、え? 寝てなかったの?」

「うん。ちゃんと寝る日もあるけどね」


 やっぱり暗躍したりするのはその時間しかなかったんだよね~、とフィズが軽く言う。

 一日中仕事した後に寝ないなんて―――


「―――ほんとに人間……?」

「そんな表情したらかわいい顔が台無しだよ姫。魔獣退治で辺境に行ってた頃は寝ないで三日くらい戦い続けるなんて普通だったから、これくらいどうってことないよ」


 いやどうってことあるよ。

 私の旦那さんは人間じゃなかったのかもしれない……。

 私は今、宇宙を見た猫のような顔になっているに違いない。


「その時間を利用して侍女の故郷に行った姫に会いに行ったりしてたんだよ」

「あれは私に会いに来てたの?」

「冤罪を掛けられちゃった侍女へのお詫びも兼ねてだけどね。ブレスレットは役に立ったでしょ?」


 そう言って軽くウインクをされる。お顔が整ってるとウインク一つでも様になっちゃうんだね。


「イケメンはお得だね……」

「姫だって美少女じゃん。鏡見たことある?」

「何度もあるよ。毎回お人形さんみたいにかわいい子が映ってる」

「姫の感性は正常みたいで何よりだよ」


 ……なに言ってんだって言われると思ったんだけどあっさり肯定されちゃった。なんか逆に気まずいね。


「にしても、姫の行動はほんとに読めないね。王城に入れるようになって何をするのかと思えば侍女に紛れちゃうんだもん」

「それも知ってたんだ」

「うん。姫にそんなことをさせちゃった自分は不甲斐なかったけどね。それでも姫が自分で決めたことだからと思って遠くから見守ってたけど。あ、姫をいじめたあの侍女はしっかり懲らしめておいたから安心してね」

「おぅ……」


 小首を傾げ、ニッコリと笑ってそう言う私の旦那さんはちょっぴりサイコパスなのかもしれない。

 少し背筋が寒くなる。するとリュカオンがすかさず尻尾で私の背中を撫でてくれた。さすが過ぎる。私の良心。

 私はギュッとリュカオンの首に手を回して抱き着いた。


「ところで、リュカオンはなんで教えてくれなかったの? 皇帝と繋がってるって」


 なんとなく気になってリュカオンに聞いてみる。するとリュカオンはふん、と尻尾を一振りして教えてくれた。


「敵を騙すにはまず味方からと言うであろう。それに、この男とシャノンの仲を取り持ってやるのは癪だったのだ」

「ごめんね姫、俺が神獣様に内緒にしてって言ったんだ。あの頃はまだ姫の人となりをよく知らなかったから、俺と会ったことを人に内緒にするのは無理かもしれないと思ったんだ。でも、姫は俺が思ってるよりもよっぽど頭がよくて、王族だった」


 しゃがんで私と視線を合わせたフィズの手がそっと私の頬に添えられる。

 そしてフィズの顔から笑顔が消え、真面目な顔になった。


「―――姫、改めてこれまでの非礼を詫びさせてほしい。本当に申し訳なかった」


 地に積もった雪の上に片膝を突き、皇帝が頭を下げる。

 正式な場ではないとはいえ、一国を背負う人の謝罪は大きい。

 そもそも私は元からそこまで怒ってないんだけど、ここで怒ってないから謝らなくていいよというのはきっと違うんだろう。


「うん、許すよ。だから頭を上げて」

「!」


 そう言うとフィズは顔を上げ、ふにゃりと微笑んだ。これまでの作られたような笑みじゃなくて、人間らしい微笑みだ。


「ありがとう姫。お礼に何か贈りたいんだけど、どこの島がほしい? あ、領地でもいいよ」


 その辺にあった木の枝で雪に帝国の地図を描き出したフィズを慌てて止める。

 やっぱりプレゼントの感覚がバグっちゃってるよ!

 それに島はいらないって前にも断ったでしょ!


「そんな気後れしちゃうようなものよりもおいしいお菓子とかがいい。ほら、この前お見舞いで贈ってくれたみたいな」

「物欲がなさ過ぎる……姫は天使なの?」

「お詫びに土地をあげようとしちゃうフィズの感覚がぶっ壊れてるだけだよ」


 真顔で変なことを宣うフィズに、私は優しくそう教えてあげた。



 











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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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