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【65】謎のお兄さんの正体は……






 少し肉が付き、危なげなく歩けるようになった狐を撫でる。


「毛並みもよくなってきたね」

「キュ」


 褒めたんだけど、狐的にはまだ不完全らしく不満そうな顔をしている。

 まだまだ伸びしろがあるのね。


 少しでも毛並みを良くしてあげようとブラッシング用の櫛を手に取ると、私と狐の間にリュカオンが割り込んで来た。どうやらリュカオンが先らしい。

 狐ももちろんです! と言わんばかりにその場で伏せをし、待ちの姿勢になる。


「リュカオン大人気ないよ」

「ふん、一体ブラッシングするとバテるシャノンが悪い」

「あ、それはごめん」


 たしかに最近は狐のお世話で疲れ切っちゃってあんまりリュカオンに構えてなかったかも。そこは素直に反省。


 私にブラッシングをされながら目を細めつつ、リュカオンが話し出す。


「そういえばシャノン、茶飲み友達のところへはいつ行くのだ?」

「そうだねぇ。狐も元気になってきていろんな状況も少し落ち着いてきたことだし、一度会いにいこうか」


 リュカオンの言う茶飲み友達とは神聖図書館で会ったあのお兄さんのことだ。せっかくお友達になったんだからそろそろ会いに行きたいよね。

 体調を崩した時にお見舞いをもらったことに対するお礼の手紙がきちんと届いているかも確認したいし。


「ってことで狐、ちょっとお留守番出来る?」

「キュッ!?」


 心底驚いたとばかりに目を見開く狐。


「え? なに狐ってばついて来る気満々だったの?」

「キュ~」

「別にいいけど君、重度の人見知りでしょ?」

「キュ~……」


 狐は不満そうに鳴いた後、部屋の中においてあった動物用のキャリーバックを鼻で押して持ってきた。


「……これに入れて自分も連れてけと」


 そうだと言わんばかりに狐がコクコクと頷く。


「君、良い根性してるよね」

「まあ我とシャノン以外の使用人にはまだ怯えるし、連れて行った方が安心かもしれぬな。神聖図書館のあの者ならまあ、大丈夫だろう」


 なぜかあのお兄さんなら狐も大丈夫だとリュカオンは判断したようだ。狐の人に対する怖がり様は結構重症だと思うんだけどなんでそう思ったんだろう。

 お兄さんはかなり物腰柔らかな感じだから、狐でも大丈夫だって思ったのかな。

 まあリュカオンが大丈夫だって思うなら大丈夫だろう。

 私のリュカオンに対する信頼は絶大だからね。





 そんなわけで、私とリュカオン、そして狐で神聖図書館に向かうことになった。

 以前図書館に行った時と同じ、髪と瞳の色を変えたシャルの姿になる。もちろん服装もそこまで華美ではないものを選んだ。


「……私が言うのもなんだけど、本当にそれでいくの?」

「こやつがついて行くと言って聞かんのだから仕方ないだろう」


 私とリュカオンの視線の先には風呂敷の中にクルンと納まった狐。顔だけ出た状態で、その頭の上に風呂敷の結び目がくるようになっている。どうやら、そこをリュカオンが咥えて運ぶようだ。

 キャリーバックは大きくて邪魔だということでリュカオンが却下した。


「リュカオン大丈夫? 流石に重たくない? 私が抱っこしてようか?」

「軽量化の魔法を使うから大丈夫だ。シャノンは移動中我から振り落とされないようにしがみつくことに集中してくれ。我としてはそちらの方が心配だ」

「は~い」


 ご心配をおかけします。




 準備が整ったので早速出発だ。

 狐入りの風呂敷を咥えたリュカオンはとってもかわいかった。子どもを運ぶ親狼のような凛々しさと、おもちゃを咥える子狼のような愛らしさを兼ね備えたリュカオンは最強だ。一度で二度おいしいとはこのことだろう。


 狐の散歩も兼ねて王城の門の外の人気のない場所をリュカオンがゆっくりと歩く。たまには外の空気を吸わせてあげないとね。療養で中々外に出られなかった狐にとってもいい機会だったかもしれない。


 そして少し歩いたところで私達はある人物と遭遇した。


「―――あ」

「やあ」


 人気のないその場所にいたのは、漆黒の髪の美青年―――フィズだった。

 フィズと会うのはセレスの故郷に行った時以来かな。相変わらずびっくりする程美形だ。


 片手を上げたフィズはにこやかにこちらを見ている。ちなみに狐はフィズの姿が目に入った瞬間風呂敷の中に引っ込んでいった。よく頭まで入れるスペースあったね。

 穏やかに微笑むフィズが口を開く。


「久しぶりだね。今日はどこかにお出かけかい?」

「はい」

「そうか、くれぐれも気を付けてね」

「ありがとうございます」


 心配してくれたフィズに素直にお礼を言う。

 それはそれとして―――



「―――ところで旦那様? いつまで他人のフリをするんですか?」



 そう言うと、フィズの完璧な微笑が一瞬固まった。

 そして次の瞬間、絵画のような微笑みがあちゃ~と言うような、人間らしい表情に変わる。


「やっぱり気付いてたか」

「当たり前ですよ。式典でバッチリ至近距離から顔を見ましたから」


 色しか変わっていないんだから、さすがに顔を近くで見たら分かる。遠目でしか皇帝の顔を見ていない民なら誤魔化せるかもしれないけど。

 皇帝にジト目を向けて私は言う。


「それに、なんですかフィズって。ほぼ本名のフィズレストのままじゃないですか」

「いや、まあそれは姫にしか名乗ってないよ。ちょっと気付いてくれるかなって思いもあったけど全然気付かなかったね。ちなみに皇帝の本名を知ったのはいつ?」

「……和平記念式典が終わった後」


 皇帝の顔があまりにもフィズとそっくりだったから調べてみたら、分かりやすすぎる名前で仰天したよ。

 にしても、旦那さんの名前すら知らなかった私って……。頭の中ではずっと皇帝呼びだったからなぁ。


 そう言うと、皇帝の目がアホの子を見る目になった。これに関しては完全に私がアホだったから甘んじてその視線を受け入れましょう。

 シャノンちゃんはアホだけど潔いのです。



 そして漸く、シャノンとフィズレストとして会話を始めた私達を、いつの間にか風呂敷から顔を出した狐がキョトンとした顔で見詰めていた。













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