【62】戻ってきた!!
完璧な看病のおかげで、私は三日で完全復活した。
でも、回復してやっと外に出られる状態になったはいいものの、伯父様は既に国に帰ってしまっていた。国の長がそんなに長い間国を空けるわけにはいかないもんね。
だけどお礼のお手紙は受け取ってもらえたみたいだからよしとしよう。
伯父様、全然顔は見せないけどお見舞いの品とかお土産は頻繁にくれるんだよね。一応身内だけど伯父様にどう思われているのかは未だによく分からない。
そんな伯父様は今回も大きな置き土産を残していってくれた。
「―――うおおおおおおおお!!」
「おらああああああ!!」
外から野太い掛け声が聞こえてくる。
すると窓辺で日向ぼっこをしていたリュカオンがチラリと外を見遣り、呆れたように言った。
「……元気な奴らだな」
「オーウェン達はやっと外に出られるようになったんだから無理もないよ。それに、私が体調を崩してる間は自重してたわけだし」
窓から外を見てみると、オーウェン達と聖獣を連れた騎士二人が模擬戦をしているようだ。力のオーウェン達と魔法の聖獣騎士二人で中々実力は拮抗しているみたい。
みんな楽しそうで何よりだ。
そう、伯父様の置き土産は聖獣騎士二人だ。二人はなんと、私がこちらに来る時に護衛の任務についてくれてた十人の中にいた二人だ。私を守り切れなかったことをずっと悔やんでいて、こちらに来ることを志願したらしい。
希望者はもっといたけど、ウラノスの貴重な戦力である聖獣騎士をそんなに流出させるわけにはいかないってことで二人になったと聞いた。気心の知れた同僚が一緒でよかったと思う。一人で異国に来るのは心細いからね。
そんなわけで、私の離宮には侍女が二人と聖獣騎士が二人、合計四人の使用人が加わった。
全体的に騎士の比率が大きい気がしなくもないけど、まあ許容範囲内だ。
「―――シャノン様、皇帝陛下から使用人を増やしてほしいなら言ってほしいという内容のお手紙が届いています」
「う~ん、まだいらないって返しておいて」
「はい」
セレスはさっそく手紙を書きに部屋を出ていった。
ユベール家の目がなくなった皇帝からはよく手紙が届く。それは私の体調を心配するものだったり、状況報告だったり様々だ。これまでのお詫びにちょっとした島をプレゼントするという手紙が来た時にはおったまげた。大国の皇帝ってお詫びに島をあげちゃうのね、と変な感動を覚えたものだ。
外で模擬戦に興じるオーウェン達を見ながら、私はこの離宮から逃げ出した使用人達のことを思い出していた。
報告書によると、彼ら彼女らはここから逃げ出した後、ユベール家の屋敷で雇われていたらしい。かなりの好待遇にみんな飛び付いたと。同調圧力もあったかもしれないけどね。
そして、みんな現在はヴィラの禁忌魔法に利用されてほぼ死にかけ。禁忌魔法でも死なない方法というのはみんなで負担を分け合うという方法らしく、私の離宮にいた使用人達全員が死にかけで、ギリギリ死なない程度の世話しかされずに見つかった。
だけど皇帝は勝手に離宮から逃げ出した使用人達にご立腹だったから、そのまま各自の実家に帰したみたい。離宮を辞している時点でこちらとは関係ないし、職務放棄をした使用人は王城を追放され二度と敷地内に足を踏み入れさせないというのが規則らしいから。大犯罪者であるユベール家に加担したというのもあり、全く治療もされずに帰されたみたい。あとは各自の実家でご自由にってことだろう。意識がないんだから裁判にはかけられないもんね。
そんなことを考えていると、手紙を書きにいったセレスが戻ってきた。
「あれセレス早いね。もう書き終わったの?」
「あ、いえ、本日はもう一通届いていたのを忘れてまして。こちらはこの小箱と一緒に届きました」
「へぇ、なんだろう」
私はとりあえず手紙に目を通した。
そこには、ユベール家の悪事の証拠がわんさか出てきたことが書かれていた。トップが捕まった今、統率がとれなくて証拠がボロボロ大放出状態らしい。
「―――あ」
手紙には、私のペンダントが見つかったことも書かれていた。あの場で捕えられたヴィラが隠し持っていたのを回収したと。
どうやら、ペンダントを持って逃げ出した侍女からヴィラの手に渡っていたらしい。ヴィラは私に成り代わろうとしてたから、あの場にも持ってきてたってことはウラノスの王族である証明に使おうと思ってたんだろう。皇帝は私のペンダントが盗まれたことを把握していたみたいだけど、ヴィラは皇帝は私に何の興味もないって思ってたみたいだからね。
だけど、本物の皇妃である私が現れたことでペンダントを使うのは諦めたらしい。ウラノスの王族の血に反応する仕組みとかがあったら厄介とでも思ったんだろう。そんな仕組みがあるのかは私も知らないけど。
一人しか皇妃がいない状態ならペンダントを見せるだけでなんとかなるけど、二人だとそうはいかない。もしもそんな仕組みがあったら一発で詰みだと察してペンダントは出さなかったんだろう。
小箱をパカリと開けると、見慣れたペンダントが入っていた。
なんにせよ、お母様の形見が戻ってきてよかった。
もう絶対に盗まれないようにするからね!!
とりあえず着けない時はリュカオンに預けておこう。それが一番安全だ。
だけどせっかく戻ってきたんだし今は着けておく。
ペンダントを首から下げると、懐かしい重さを感じた。ちゃんと戻ってきたんだって感じがする。
えへへ、お帰り。
嬉しさのあまりその場で小躍りすると、軽く足をつった。
―――慣れないことはするもんじゃないね。





