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【50】ちょっとした意趣返しだよ!






 案の定、メリアがユベール家の誰かのお眼鏡にかなうことはなかったようだ。


 意気揚々と出て行ったメリアは苛ついた様子で戻ってきた。目論見が上手くいかなかったのが態度で丸わかりだ。にしても、視界の端にチラチラ入ってユベール家の人間とお近づきになるって作戦、本気で言ってたんだね。

 メリアの苛つきよう的に、あわよくばって感じじゃなくて本心では私ならいけるでしょと思ってたんだろう。私もそこそこおバカさんだけどメリアも中々だね。

 メリアは自己評価が高すぎるきらいがあるようだ。


 戻ってきたメリアは、がさつな所作で椅子に腰かけた。

 そして私がどうしたのかと聞くまでもなく、勝手に話し始める。


「あーあ! なんでお声がかからないのよ!! おっかしいなぁ、ヴィラ様とは目が合った気がしたんだけど」

「……」


 メリアの言葉に思わずぱちくりと目を瞬かせてしまった。

 目が合っただけで何で声がかけられると思ったんだろう。純粋に疑問。


『この分だと本当に目が合ったかも疑わしいね』

『いや、少しだけそちらを見ていたが本当に一瞬目は合っていたぞ。ただしヴィラという女はメリアを睨んでいたが』

『おおぅ……』


 ヴィラに睨まれたのをメリアは目が合ったと思って喜んでたのか。

 なんというか、ここまで鈍感なのはもはや才能かもしれないね。


 ヴィラにはある意味目をつけられてたようだけど一体なにしたんだろう。


『メリアは何か目立つようなことでもしてたの?』

『ユベール家の目に留まろうとして廊下を何往復もしていたな。だが、人は多かったし他にも同じようなことをやっている者もいた。そんな奴らがいることもユベールの者達は知っているだろう』

『そうだよね、王城に来るのは今回が初めてじゃないだろうし』

『ヴィラは自分の美しさには自信を持っているようだし、周囲の者からの賛辞の声が聞こえると嬉しそうにしていた。羨望を集めるのが好きなんだろう。だから、自分の美しさに見惚れることもなく、己のアピールに腐心していたメリアを煩わしく思ったんじゃないか?』

『ありそう……』


 メリアも自分の容姿にはかなり自信があるようだし、なんなら実際はヴィラよりも自分の方がかわいいくらいは思っていても不思議じゃない。

 リュカオンの言う通り、自分のアピールにただただ夢中でちっとも羨望の眼差しを向けてこないメリアに苛立ったんだろうな。


『どっちもめんどくさい性格だねぇ』

『ああ、できればどちらも関わりたくないタイプだな』


 げんなりとした様子でリュカオンが言う。


 その後はメリアの愚痴をさらりと聞き流して書類仕事に精を出した。





***





 そして、あっという間に侍女体験最終日になった。


 タイムオーバーかぁ。

 正直、まだまだやりたいことはあるけど仕方ない。隠し部屋がなぜからっぽになったのかはまだ謎のままだし。未だに何のアクションもないということは、私が侵入したことは本当にバレていないんだろう。一体なぜあそこの荷物が移動されたのか……。

 ただまあ、セレスの件がどうなったのかは確認できたし、和平の記念式典のことやユベール家についての情報収集もできたしよしとしよう。

 


 さて、今日は侍女体験の最終日、つまり何をしてもいい日だ。

 散々私をいいように使って調子に乗っているメリアにちょっとばかしお灸を据えてから去ろうと思います。

 今日も朝一から「あ、この仕事今日中に終わらせますって言って引き受けちゃったからやっといてね」と大量の仕事を押し付けてきた。

 なぜ自分から引き受ける……。


 そう思いながら何も考えずにペンを動かしていく。書類の端っこに猫ちゃんの絵なんか書いちゃったりして。

 もはやメリアは書類を覗き込んでくることすらしないので落書きも余裕でできちゃう。端っこじゃなくてど真ん中に書いてもバレないんじゃないかな。

 私のイタズラ心がひょっこりと顔を出した。


 ちょっぴりドキドキしつつもど真ん中に大きく猫ちゃんの顔を書いてみる。だけど、近くで雑誌を見るのに興じていたメリアは全く気付かなかった。

 ……なんか、ここまで何の反応もないとイタズラのしがいもないね。

 バレなくてホッとすると同時にちょっぴり残念というか、肩透かしを食らった気分だ。




 暫くすると、メリアが思い出したように雑誌から顔を上げた。


「―――そうだ、あなたこれからも私の下で働きなさい」


 まるで決定事項のようにそう言うメリアにびっくりしちゃう。

 王城侍女を採用する権限なんかなさそうなのにどうしてそんなことが言えるんだろう。たぶん、何も考えずにこのまま便利な駒を使い続けたいって思っただけなんだろうな。


 ―――ただ生憎、私は駒は駒でもクイーンなのだ。


 なぜか私が「はい」と言うと信じて疑わないメリアに向けてニッコリと笑う。


「もちろん―――お断りに決まってるでしょ!!」


 私は今までやっていた書類をメリアに投げ渡した。お行儀は悪いけど今だけは許してほしい。

 そして、書類がメリアの手に渡ると同時にインクで書いた文字を魔法で全て消した。なので、書類は朝手渡されたままのまっさらな状態に戻ったってわけだ。


 ちらりと書類を確認したメリアは頭の上に疑問符を浮かべ、そのまま書類を何枚も捲って確認する。


「え? なんで? なんで何も書いてないの!? あんたもしかして書いてるフリしてたのね!?」


 鬼のような形相で私を睨んでくるメリア。

 メリアにはどんなに睨まれても、ユベールに感じたような底冷えするような恐ろしさはなかった。

 あと、書いてるフリじゃなくて実際に書いたものを魔法で消したんだけどメリアは気付いていないようだ。お城の中じゃあ基本的に魔法は使えないもんね。

 もちろん、後で消すことも分かってたので今まで書いていた内容は数字なども含めて全部でたらめだ。どうせ消すのに真面目にやるのももったいないし。

 シャノンちゃんはお姫様だけどちゃんともったいないの概念はあるのだ。


 この書類を今からメリア一人でやったって……いや、たとえ他の人に手伝ってもらったって今日中には終わらないだろう。


 あ、ちなみにこの書類達が今日中に終わらなくてもなんとかなるものだっていうのは確認済みだよ。メリアがこっぴどく怒られるくらいで済むだろう。


 性格は悪いかもしれないけど、これは私からのちょっとした意趣返しだ。散々いいように使われたんだからこれくらいは許してほしい。


「あんたっ―――!!」


 怒り心頭のメリアをよそに、私はガラリと窓を開けた。

 そして、振り返ってメリアに言う。


「じゃあ、怒られないように精々頑張ってくださいね」


 他の人に責任を被せようとしても、メリアが自分から引き受けた仕事ならそれもできない。


 怒鳴りつけてきそうなメリアが口を開く前に、私は窓から飛び降りた。


「!?」


 メリアは私が飛び降りたことに驚いて腰を抜かしてしまったようで、窓から外を覗き込んでくる様子はなかった。

 それもそっか、魔法が使えない状態で結構な高さの窓から飛び降りる人なんかいないもんね。

 だけど私は魔法を駆使し、難なく地面に着地した。


 そしてリュカオンにも協力してもらい、誰にもバレないように離宮に帰る。





 こうして、侍女体験をしていたシャルは忽然と姿を消したのだった。



 















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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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