【42】なんてこった!
隠し部屋を見つけた日から二日が経った。
今日も今日とてメリアに押し付けられた仕事をこなすシャノンちゃん。
意外にも、メリアは仕事や雑用を押し付けてくるだけで特に嫌がらせはしてこない。
……あ、仕事や雑用を押し付けてくること自体が嫌がらせなのか。私には心強い味方がついてるから難なくこなせてるけど、普通はこなせないもんね。だって十分な説明も受けてないんだもん。
リュカオンとセレス様様だ。
私はいちゃもんをつける隙すらないくらい、完璧に仕事をこなした。
そのことでメリアは不機嫌になるかなと思ったけど、何もしなくても自分の仕事がどんどん終わっていくのでむしろ上機嫌のようだ。
調子に乗ったメリアが次から次に雑用や仕事を押し付けようと周りをちょろちょろしてくるので、隠し部屋に行く時間が中々取れなかった。
はやく調べたいのに!!
心の中で地団駄を踏む私。
しかも、侍女体験の終業時間の少し前に私を王城の出口まで連れて行き、私が王城から出るのをジッと見張っているのだ。私が誰かに助けを求めたりしないようにだろう。
それなのに侍女体験の子をわざわざ王城の出口まで送ってあげる優しい侍女を周囲に向けて演出しているから質が悪い。
しかも、リュカオン曰く私が王城から出ても暫くはその場に留まり、私が戻ってこないことを確認しているらしい。
たとえその後戻ったとしても、ちびっこ侍女体験の子が終業時間後に戻ってきたら誰かしらは不審に思うだろう。どうしたの? って話になり、巡り巡ってメリアの耳に届いちゃうかもしれない。そう思うと一度出たらその日は戻れない。
ここまで人が嫌がることをできるのは本当に才能だよね。是非その才能を活かせる職場で働いてほしい。犯人に自白させる人とかぴったりじゃない?
少なくとも侍女は向いてないから辞めた方がいいと思う。というかお給料が無駄なので王城を辞めてユベール家とかに行ってほしい。
まあ、そのユベール家も今は新しい使用人を雇ってくれなさそうとのことだけど。
先日、私が作業をしている間に横で呑気にお茶をしていたメリアがぼやいていたのだ。ユベール家はこの前、結構な人数の使用人を補充したようだから暫く新しい使用人は雇われないだろうと。
王城じゃあ権力者とお近づきになれないから自分がユベール家に転職しようとしたんだったか、身内をユベール家で働かせてもっと強い繋がりを手にしたかったんだか忘れたけど、とにかく何かぼやいてた。
念話でリュカオンと話してたからあんまり聞いてなかったんだよね。
分からないことはメリアに聞くよりもリュカオンやセレスに聞いた方が早いし。
私が皇妃としての権力を振るえるようになったらメリアには今までのお給料を返還してもらおうと思う。それをウルカさん達みたいな頑張ってくれている侍女達のボーナスにするのだ。
そんなことを頭の中で考えて鬱憤を晴らす。
……そういえば、これまでの人生でこんな奇怪な人には会ったことなかったかも。
私の離宮にいた侍女達はみんな優しかったし、人間もできた人ばかりだった。ばかりと言うか、贔屓目を抜きにしても全員が素晴らしい女性だったと思う。おかげで私もこんないい子に育ちました。えっへん。
あ、ウラノスの侍女達のことを考えたらなんか寂しくなってきちゃった……。
ウラノスの侍女―――は無理だからせめてリュカオンに会いたい。
ふわっふわの毛皮に頬ずりして顔を埋めたい。
その旨をリュカオンに念話で伝えてみた。
『何!? よし、今すぐ向かおう』
『向かっちゃダメでしょ』
『だが、寂しくて泣いているシャノンをそのままにしておくわけには……』
『泣いてはいないから』
いつの間にかリュカオンの脳内では私が寂しさに泣き喚いていたらしい。
脳内は騒がしいけど実際は無表情で手を動かしてますよ。やだシャノンちゃんてばとっても器用。
『今日帰ったらいっぱいむぎゅっとさせてくれればそれでいいよ』
『うむ、頑張っているシャノンには我の毛皮を存分にむぎゅっとさせてやる』
『あと吸わせてね』
『す、吸う……? よく分からぬがまあいいだろう』
神聖王国にはモフモフを吸う文化はなかったのかな。
あ、でも吸うのはモフモフだけじゃないね。ウラノスの侍女達もよく私のこと吸ってたもん。何がいいのか、「姫様を吸うと元気がでますわ~!」と言っていた。
当時は何を言っているのかよく分からなかったけど、侍女達が元気になるならとニコニコしながらされるがままになっていた気がする。
そんな私も今では立派なリュカオンスモーカー。人生なにがあるか分からないね。
モフモフもそうだけど、匂いとか温かみでも癒されるんだよねぇ。
あ、なんか元気出てきた。
頭の中でリュカオン吸いをしたおかげかな。
脳内リュカオン吸いをしたおかげで元気になり、頭の回転も手の動きも速くなった私は、あっという間にその日の作業を終わらせた。
帰った後、思う存分リュカオンに甘えたのは言うまでもない。
そして次の日。
前日に頑張ったおかげでメリアが仕事を押し付けに来る回数は大分少なかった。
ここ数日、ただ黙々と仕事をこなしているのを見てメリアは私がきちんと約束は守るタイプの人間だと判断したらしい。どこかに行ってから戻って来るまでの時間も徐々に長くなっていった。
うん、今ならいけそう。隠し部屋再チャレンジだ!
意を決し、私は再度隠し部屋へと向かった。
一度行ったことのある場所なので前回よりも短い時間で隠し部屋に到達する。身体能力は前回と変わっていないので相変わらず本棚を梯子代わりにして上るのには苦戦したけど。
隠し部屋に到着し、明かりをつけて中の様子を確認した私は思わず声を上げた。
「―――え?」
なぜなら、部屋の中にはイスやテーブルなどの家具だけしか残っていなかったからだ。
テーブルの上に乗っていた宝石や、棚に入っていた書類などは、いつの間にかきれいさっぱりなくなっていた。