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【41】なんてタイミングの悪い!!







 自分の二倍くらい高さのありそうな本棚に足をかけ、よじよじと上る。


『……シャノン、大丈夫か?』

『だ、大丈夫……』


 身体能力が著しく低い私にとって、本棚を梯子代わりに上るのはそこそこに難易度が高かった。そういえば私、本物の梯子も上ったことなかったね。なにせお姫様なので。


 ようやく天井が届きそうなところまで来たけど、もうヘトヘトだった。

 ゼェハァと荒ぶる呼吸が止まらない。


『シャノン、天井の入り口はこちらから開けるか?』

『え、そんなのリュカオンが疲れちゃうじゃん。それに隠し部屋の扉は自分で開けてなんぼ―――』


 なんぼでしょ、と言いかけて私はふと自分の手元に視線を落とした。

 私の小さくて白くて華奢な両手は一生懸命本棚にしがみついている。この状態で私は片手を離せるだろうか……否!

 今手を離したら百パーセント落下する自信がある。むしろ落下する自信しかない。


『……リュカオン、お願いします』

『承知した』


 私は断腸の思いでリュカオンにお願いした。

 私が非力だったせいでロマンが犠牲になったのだ。くそぅ。


 一見なんの変哲もない天井を見ていると、突如天井の一部が正方形の形となって上にへこみ、横にスライドした。

 おお、これはこれで魔法の扉みたいで面白い。

 本当は何か決まった手順があるんだろうけど、そこはリュカオンの力でサクッと割愛だ。


『シャノン、その穴の中に入れるか?』

『うん!』


 正直もう腕は限界だけどシャノンちゃんがんばります。

 必死によじ登り、天井の穴の中に入る。


『うわ、真っ暗だ』

『魔法で明かりをつければいいだろう』

『あ、そうだね』


 リュカオンの助言通り、私は魔法で右手に明かりを灯した。


『あれ? 意外と埃っぽくないね』


 天井に入った瞬間からほこりだらけで咳が出ることを覚悟したけど、咳は出なければ周りを見ても目で見えるような埃は転がっていない。


『割りと出入りが多いのかもしれんな』

『そうだね』


 こんな狭い通路まできちんと掃除されてる感じがするもん。


 天井裏の狭い通路を四つん這いで進む。そして少し進むと、前ばかりを見て、下を見ていなかった私の右手は空を切った。


「ふぇ?」


 ドサッ!


 幸いにも落ちた先には柔らかい何かが敷いてあり、そこまで高さがなかったのも幸いして負傷は逃れた。


『シャノン! 大丈夫か!? 怪我は!?』

『だ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど怪我はないよ』


 そう言って今にも駆けつけてきそうなリュカオンを止める。


 それよりも、ここってばもしかして、ついに隠し部屋に到着したのでは!?

 尻餅をついていた私はスクッと立ち上がり、魔法で部屋全体を照らした。



 そこには―――


「わぁ……! なんかいろいろ置いてあるね!!」


 簡素なテーブルの上には高そうな宝石たちが等間隔に並べられていた。まるで小さな美術館だ。

 ……もしかして、この宝石、なくなった私への贈り物だったりしない?

 どれもかなりいい品っぽいけど、まあ見事に高そうなのばっかり盗んだもんだね。


 そして私は周りをぐるりと見渡す。


 隠し部屋だけあって広さは私の寝室よりも狭い。部屋の中にあるのは、宝石の置いてあるテーブルと椅子、そして小さな引き出し付きの本棚だ。

 だけど、その本棚の中や引き出しの中にはとても大きな秘密が詰まってそうな気がする。


 一番大事なものを仕舞うとしたら引き出しだよね……。

 そう思って引き出しの取っ手に手をかけようとした瞬間―――


『あ、シャノン! メリアが戻ってきそうだ!!』

『え!?』


 なんてタイミングだ。


 どうしようどうしよう。

 私はパニックになりつつも頭を働かせる。


 とりあえず、この部屋のことは一旦持ち帰ろう。まだここに失踪したユベールの縁者の侍女が犯人だっていう決定的な証拠があるかは確認できてないし。それに、いくらユベールの関係者とはいえど一人でこの隠し部屋を見つけたか作ったかして使用していたとは考えにくい。ほぼ間違いなくこの隠し部屋にもユベール本家が関わってるはずだ。

 今考えなしにつついても藪蛇になりそうだし、侵入したことがバレるのはまずい。今はとりあえずこのままにして退却しよう。


 というかメリアが帰って来るのが予想以上に早い。

 絶対終業時間ギリギリまでサボってから戻って来ると思ってたのに!!

 こと嫌がらせに関しては天性の勘が働くんだろうか。


 そんなことを考えながら私は全速力で来た道を戻っていった。

 これまでの人生で一番俊敏に動いた気がする。


 天井にある隠し部屋の入口を閉じ、集密書架を魔法で元の位置に戻していく。


『リュカオン、メリアは?』

『―――何者かに話し掛けられてその場に留まっているようだ。ちょうどいい足止めだな』


 メリアが誰かと話している間に私は書類の保管部屋から出てその入り口に鍵を閉め、南京錠もかける。


 そして大急ぎで倉庫から出て、最初にいた書類仕事用の部屋に戻った。


「―――ふぅ」


 扉に寄り掛かり、深く息を吐く。

 隠し部屋からここまで、一度も息をしてなかったんじゃないかっていう錯覚に襲われる。絶対にそんなことはないんだけど。


 呼吸を整えていると、メリアが部屋に入ってきた。


「あら、なんだかやけに疲れてるわね」


 そう言ってメリアの視線がずっと前に終わった書類に移る。

 どうやら必死にこの書類を終わらせたせいで私がくたびれているのだと思ったようで、メリアがにんまりといやらしい笑みを浮かべる。

 そして書類をパラパラと少しだけ見て、ろくに中身も確かめずに言った。


「随分必死に終わらせたみたいね。やっぱり家を潰されてもいいなんて強がりじゃない」


 演劇のような動作でやれやれと首を振り、ハッと鼻で笑うメリア。

 ……なんか、無性にイラっとした。疲れてるからかな。


 もうこれは一発くらい殴ってもいいんじゃないかって気になる。


 まあ、私が全力で殴ったって猫パンチよりも弱いんだけどね。

 にゃぁ。











 




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<書籍2巻は2024/12/6発売です!>
お飾りの皇妃書影
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