【40】あるでしょ、隠し部屋!!
リュカオンもびっくりするほどのスピードで書類を終わらせたシャノンちゃん。
早速調査に入ります。
『リュカオン、誰か来そうだったら教えてね。特にメリア』
『もちろんだ』
私一人じゃあ人が来るかどうかを気にしながら調査なんてできないからやっぱりリュカオンとは分れておいて正解かも。
リュカオンは城全体を俯瞰で見られるから構造も人の行き来も把握できてるしね。最高の相棒だよ。私がリュカオンの相棒に相応しいかはおいておいて。
まずは紛失した私宛の贈り物を探すことからかな。
といっても、普通の場所ならもうすでに探されているだろう。その辺の貴族宛てじゃなくて仮にも皇妃への贈り物だ。失踪した侍女の実家にも捜査の手は及んでいるはず。
ということは、あるでしょ! 隠し部屋!!
物語ならばお決まりの展開だ。
まさか私が他国の王城で隠し部屋を探すことになろうとは。離宮で暇つぶしに本を読んでいた頃とは大違いだよね。
気合も入っちゃうってもんだ。
侍女に必要なものは王城内に揃っているので基本的に大きな荷物を持ってくることはない。しかも来るときには持っていなかった荷物を帰りに持っていたら多少なりとも不審がられるものだろう。
そうなると、やっぱり王城内のどこかに隠されているとしか思えない。
レッツ隠し部屋探索だ!
『さあリュカオン、隠し部屋を探すよ!』
『それっぽいのはもう見つけたぞ』
『早っ』
うちの神獣さん優秀過ぎる……そうか、リュカオンにはこのお城の構造が俯瞰で見えてるんだもんね。王城の中から見えるかどうかなんて関係ないんだからもはやリュカオンにとっては隠し部屋でもないのかもしれない。
『明らかに他の部屋とは配置が違うのがいくつかあるな。皇帝の執務室付近にもあるが……』
『それ多分暴いちゃダメなやつ!!』
中がどうなってるのか気になるけど多分機密文書とかも詰まってるだろう。
旦那様の秘密を守ってあげるのも妻の務めだ。
『一番怪しそうなのだと……侍女室の近くに書類の保管部屋があるだろう』
『ん? ああ、確かにウルカさんがそんな部屋があるみたいなこと言ってたかも。でも鍵がかかってるし重要書類も保管されてるから決まった人しか入れないって言ってたよ』
『そこへ向かえ』
『は~い』
私が今いる書類仕事用の部屋には廊下に出る扉とは別に倉庫に繋がる扉がある。その扉をくぐって私は倉庫に移動した。
倉庫の中には誰もいないのでシーンとしている。
倉庫の中には扉が三つあった。廊下に繋がる扉、そして私が今くぐった書類仕事用の部屋に繋がる扉、そして書類の保管部屋に行くための扉だ。
書類の保管部屋に行くための部屋には、通常の鍵に加えて四つの数字に合わせないと行けないダイヤル式の南京錠が付いている。
結構厳重だ。
『これ壊しちゃってもいいの?』
『馬鹿、侵入したことが一発でバレるであろう。ちょっと待ってろ』
『は~い』
素直に待ちます。余計なことはしません。
少し待っていると、ドアノブの鍵穴からカチャリと音がした。
『南京錠の方は自分で開けろ。遠隔で物を動かすのは少々疲れる。番号は上から5398だ』
『了解!』
そっか、城内の構造も見られるんだから鍵穴とか南京錠の内部も見られちゃうよね。やってることは同じだし。
にしても離宮からこのドアの鍵をピンポイントで開けちゃうのすごすぎるよリュカオン。でもリュカオンに負担がかかっちゃうから、やり方を教えてもらって今度からは自分で開けよう。
そう決意しつつ南京錠のダイヤルを合わせる。すると南京錠はあっさりと外れた。
一応誰にも見られていないことを確認してから中に入る。
うお~、潜入らしくなってきたね!
ドキドキだ。
扉を開けた先にあったのは小部屋だった。真っ暗だったので手探りで明かりをつける。
その部屋には小さな棚がいくつか設置されており、そこには真新しそうなファイルや書類などが整頓されて入っていた。
そして、私が入ってきたのとは別の扉が目の前にあるのでその先がメインの保管部屋なんだろう。そちらには鍵は付いてないけど、なんかやけに厳重だな。
目の前の扉を開けると、そこもやはり真っ暗だった。窓がないからだろう。
こちらもやはり手探りで明かりをつける。
「―――わぁ」
思ったよりも広い部屋に、私は自然と声を漏らしていた。
ちょっとした図書館みたいだ。
中には普通の本棚や移動式集密書架まである。棚についたハンドルをクルクルしてレール上の本棚を動かすあれだ。知識としては知ってたけど実物を見るのは初めてかもしれない。
『シャノン、我の言った通りに棚を動かせ』
『うん』
ハンドルをクルクルして本棚を動かす。魔法で動かさなかったのはやってみたかったからだ。もちろん私は非力なので途中からは魔法で動かしたけど。
にしてもこの書架、天井ギリギリまであるから結構圧迫感があるな。私の身長が小さめだから余計そう感じるのかもしれないけど。
魔法を使ったおかげで移動は数分で終わった。慣れてる人なら魔法を使わなくてもそれくらいでできるのかもしれないけど。
『リュカオン、それでどこに隠し部屋の入り口があるの!? 今露わになった壁? それともこの書架自体に入り口が隠されてたり……』
『天井だ』
『……へ』
リュカオンの言葉に私は上を見上げた。うん、一見なんの変哲もない白い天井だ。
『まさか壁でも移動本棚でもなく天井なんて……。絶対魔法使わなきゃわかんないよ……』
『隠し部屋を探すなら普通はいかにも怪しいその二つからだろうしな』
よく見たら目の前の本棚には不自然なファイルの空きがあるし、ここを梯子代わりにして上ればいいんだろうか。
不自然なファイルの空きって言っても、天井に入り口があることを知った上で見たらしいて言えば不自然かな? ってレベルだ。
『リュカオン、この棚を梯子代わりに上ればいいの?』
『ああ、上れそうか?』
『ええと、それはできそうだけど、そんなはしたないことをしてもいいのかな……』
本棚に足を掛けるなんて、シャノンちゃんちょっと抵抗があるよ……。
『……そういえばシャノンは生まれながらの姫であったな』
『リュカオンよくそれ忘れるよね』
私は自分がお姫様だって忘れたことはないけど。
『非常事態だから今は大丈夫だ。我にも見られたくないというなら今だけは遠見を切っておこうか?』
『あ、それは大丈夫』
それはそれで不安だし。
私は意を決して本棚に足をかけた。
―――さあ、隠し部屋のお目見えだ!





